DIVE66「ニモ砦防衛戦 その3」
俺はあろゑの指示に従って、大砲を撃つ係になった。砲台とその後ろにある砲弾置き場とを往復しながら、遠くにいる大岩山の体を目掛けて大砲を撃ちこむ。
「十分近くに来るまでは撃ち続けて! 私が合図したら、直接攻撃に移るから!」
「分かった!」
俺たちは、ひたすら撃って撃って撃ちまくった。しかし、大岩山はびくともせずに進攻を続けている。でかい敵だし、そういうものなのだろうか。
しかし、そうやってしばらく攻撃を繰り返した後、あろゑは首をひねった。
「うーん、おかしいな……」
「ん、どうした?」
「アタシたちが殴るよりもずっと高火力の兵器を撃ち続けてるんだよ? それなのに、こんなにダメージが通らないなんて……」
見ると、たしかにHPバーが減っている様子はほとんどない。
俺とあろゑ以外の二人は顔を見合わせた。
「なあ、まさか……」
「もしそうだとしたら、まずいんじゃ……」
「あ。」
俺たちは絶句した。大岩山がこちらへ近づくにつれて、耳障りなジジジという音が聞こえてきたからだ。その巨体にはいたるところにノイズが走っている。
「もしかしてこいつが『RISK』ってやつ!?」
「そうだ。間違いない」
「ねえ、防衛用兵器が効かないんじゃゼッタイ倒せないよ! リタイアしよう!」
「ダメだ。このまま放置したら、他のプレイヤーのインスタンスにこいつが出てしまうかもしれない。それに、コンテンツリタイア出来るかどうかもあやしいんじゃないか?」
「そんな……!」
コンテンツウインドウを開いたあろゑは、先ほどの俺たちと同様に言葉を失った。どうやら、リタイアボタンは押せなくなってしまっていたらしい。
「倒すぞ、リリー、アイ」
俺は剣を抜き払うと、大岩山に向き直って歩き出した。
「ちょっと、カヲル!? どこ行くの!?」
「直接殴って倒す!」
「だから無理だって! 人の話を聞け!」
「ぐえっ」
後ろから両手を首に引っかけられ、俺は苦悶しながら後ろに倒れ込んだ。
せっかくカッコよく決めたところだったのに、これじゃ台無しだ。
「まず一つ聞くけど、アンタたち以外の攻撃って全く通らないの?」
「げほっ、げほ……いや、通らないってことはない。一割か二割は通るはずだ」
「だったら、名案がある! 城門の脇を見て」
俺たちは言われるがままに城壁の縁から下をのぞきこんだ。そこには、何やら尖った槍の穂先のようなものが飛び出ている。
「ドラゴンルインって言うんだけど、そいつをあのデカブツにブチ当てれば、超特大ダメージが入るってわけ。どう? やってみる価値はあるでしょ?」
「たしかに、やらないよりはやった方がいいな。でも、それだけじゃあいつは倒せないんだろ?」
「もちろん。だから、アンタたちには城門が壊れるギリギリまであいつを殴って、HPを減らしてもらう」
つまり、とどめの一発にそのドラゴンルインを使おうというわけだ。外せば失敗、倒し切れなくても失敗、倒せれば成功。単純な話だ。
「少しでも時間が惜しい。いますぐ行動を開始するぞ。あろゑは城壁の上から兵器で援護頼む。俺たち三人はあいつを攻撃だ。いいな?」
「はい!」
「うん。」
「りょ、了解っ」
俺たちは地上に降り立つと、早速大岩山を殴り始めた。
こいつは動きが鈍いから殴りやすい。これなら順調にHPを削れそうだ。
そう思ったのも束の間、俺は横からの攻撃に吹っ飛ばされた。
目が覚めるような強烈な一発に、HPの約4割が持っていかれた。俺はポーションを飲みながらなんとか体勢を立て直す。
「なんだ、いまの……!」
「尻尾攻撃です! 飛んで避けた方がいいかも!」
「分かった!」
リリーからのアドバイスに感謝しつつ、俺はめげずに足元を攻撃する。誤って踏みつけられないようにしながら、尻尾攻撃も避けなければならないとなると、結構神経を使う作業だ。
そうしてしばらく攻撃していると、大岩山は四つ足を曲げてしゃがみ込んだ。休憩でもしているのかと思った俺は次の瞬間、その考えが甘かったことを思い知る。
「頭上だ! 避けろ!」
「わひゃっ!?」
大岩山の背中から発射された岩が、放物線を描きながらこちらに向かって落ちてきたのだ。
一つ一つの岩がプレイヤー数人分のサイズをしており、しかもそれがいくつも立て続けに降ってくるものだから、避けるだけでも精一杯だ。
そのとき、アイの体が巨岩にぶつかって吹っ飛ばされるのを俺は見た。
俺は慌ててアイの下に駆け寄る。
「アイ! 大丈夫か!?」
「死ぬかと思った。ぐは。」
アイは詠唱職だから、俺たちと比べて隙が大きく、防御力も低い。そのためか、岩に少しかすっただけで4割程度のHPを削られていた。もし真下で押しつぶされていたらと思うと、背筋がゾッとした。
ポーションを飲んだアイを立ち上がらせると、俺はまた大岩山に殴りかかっていった。
このままやられっぱなしでは終われない。絶対にこいつを倒して、四人とも無事にヘネクへ帰るんだ。




