DIVE65「ニモ砦防衛戦 その2」
部屋の外に出ると、そこは城門を囲む城壁の上だった。
遠くの方には、魔物たちの軍勢が進軍してきているのが見える。すでに目視できる地点まで迫っているのを見ると、のんびりしている時間はなさそうだ。
「カヲル、こっち!」
あろゑが示す先を見ると、地面に降りるための梯子が見えた。もっとも、俺は背中に翼があるから、それを使う必要はない。あろゑに寄り添うようにして地上へと降り立った。
「そこの侵入禁止ラインからこっち側に敵が入って来たら、戦闘開始ね。一体一体はそんなに強くないから、手分けして倒すよ」
「オッケー、任せろ!」
見ると、地表スレスレのところに赤い半透明のラインが引かれている。そこから手前が戦闘区域ということらしい。
敵軍の前線が地形の広いところまで入り込んでくるのを見計らって、俺たちは攻撃を開始した。
たしかに言われた通り、敵のレベルは15から20と比較的低く、一匹ずつ相手をしていく分にはさほど苦労しない強さだ。
その代わり、次から次へうじゃうじゃと湧いてくるため、ちょっとでも気を抜くと囲まれて総攻撃を食らってしまいそうだった。
それから戦い続けること約五分、頭上から降ってくるリリーとアイの援護射撃のおかげもあって、なんとか敵を一層することができた。
俺は額を拭いながら、剣についた血を地面に払う。
「あれ? これでおしまい?」
「そんなわけないでしょ! これがWAVE1。すぐにWAVE2が来るから、準備して」
「あ、マジか」
あろゑが言うが早いか、再び魔物たちの軍勢が城門目掛けて行進してくる。今度は少し強くなっており、レベル20から25の魔物たちだ。
俺は再び剣を構えると、魔物たちを蹴散らしにかかった。
しかし、こうも物量で攻め立てられると、ゲーム内の体力減少というよりプレイヤー側の疲労の蓄積が早い。四方八方から攻撃されるから、一瞬たりとも気が抜けないのだ。
いつもは軽口を叩いているあろゑだが、今回ばかりはそうも言ってられないらしく、無言で敵を倒していく。
やがて危なげなくWAVE2を処理し終えると、俺はふぅとため息をついた。
「これ、WAVEいくつまであるんだ?」
「3まであるよ。それで終わりってわけじゃないけど」
「どういうことだ?」
「見れば分かるよ。それよりほら、次のが来た!」
俺はじっと目を凝らした。WAVE3には、先ほどよりさらに強くなった、レベル25から30の粒ぞろいの敵たちが集まっているようだ。趣向を変えてきたのか、中にはトロールやストーンゴーレムといったボス級の敵も混じっている。
「こんなところでやられるようなタマじゃないでしょ?」
「当然!」
俺は剣で盾をカツンと叩いてアピールすると、率先して魔物たちに突撃していった。
ボス級の敵たちはいったん後回しにして、まずはバリオルホークやフレイムリザードといった少々厄介な魔物たちを一匹ずつ着実に倒していく。
「城門の耐久値が0になったら、その時点で失敗扱いになるから気をつけて!」
「おいおい、んじゃダメじゃん!」
俺は城門を攻撃しているボスたちを指し示した。組まれたAIの優先順位的には、あの城門を破壊することを最優先に行動しているらしい。
「大丈夫! この時点では、まだ壊れる心配はしなくていい! 敵を倒すことに集中して!」
「そうなのか! 分かった!」
(「まだ」……?)
「それで終わりってわけじゃない」発言といい、若干気になる言い回しだが、いまはそんなことを気にしている場合ではない。並み居る雑魚敵たちをなぎ倒し、俺たちはようやくボスたちの討伐に取り掛かった。
ボスとはいえ、レベル30になったいまの俺たちにとって、下位レベルのダンジョンに登場した敵たちなど恐るるに足らず。すっかり見慣れた攻撃パターンを上手く見切りながら、ザクザクと倒していく。
「へえ、なかなかやるじゃん」
「02に散々しごかれたからな! そのときの恨み、思い知れ!」
「なんか八つ当たりのような気もするけど、まあいっか……」
引き気味に笑うあろゑを尻目に、俺はストーンゴーレムの足元をスライディングで抜けると、その背中にジャギーガッシュを叩き込んで一撃の下に沈めた。
少々手こずりながらもボスたちを倒し終えた俺たちは、はぁはぁと肩で息をしながら城門前の広場の中央に集まった。
「この次は? ボスラッシュかなんか?」
「違うよ。それよりもすごいのが来る――っ!」
その瞬間、ドスン、ドスン、と地を震わすような音が聞こえてきて、俺は思わずそちらを振り向いた。
建物大の黒塊がこちらへ向かってじりじりと動いている――
否。よく見るとそれは物体ではなく、魔物だった。太い四つ足と尻尾と首が生えた、巨大な魔物。その名も大岩山。
「おい、嘘だよな……?」
「マジだよ。最後にあいつを倒して終わり」
「倒せんのか?」
「頑張れば、ね。ほら、ぼさっとしてないで上に登るよ」
俺はあろゑに肩を叩かれ、急いで城門の上へ向かった。
このコンテンツ、一筋縄ではいかないようだ。




