DIVE64「ニモ砦防衛戦 その1」
目を開くと、俺たちは砦の一室らしき場所に立っていた。
石レンガの壁にかけられた旗がゆらゆらとはためいている。編み込まれた紋章はおそらくグランテス領を象徴するものだろう。
壁際には槍や剣といった武器が立てかけられ、大砲の砲弾らしきものや大きな矢などの物資が木箱に入って積まれている。
「敵が来るまであまり時間がないから、よく聞いて」
部屋の中央に呼び寄せられた俺たちは、四人で向かい合って作戦会議を始めた。
あろゑは人差し指を立てると、上下を交互に指差す。
「砦の防衛用兵器を使う上組と、戦場で直接敵と戦う下組に分かれて行動するよ」
「防衛用兵器って?」
「ボウガンと大砲が城壁の上についてるの。そこにも置いてあるけど、弾薬さえ持ってればちゃんと発射してくれるから。標準だけは自分で合わせないといけないから、しっかり狙ってね」
なるほど。四人のパーティメンバーのうち二人も人員を割くなんてどれほど重要な兵器なのかと思ったが、そんな便利なものがあるなら活用しないわけはない。
「でもって、近接戦闘が得意なカヲルとアタシは下へ。遠距離攻撃が中心のリリーとアイは上で支援に回るのが効率的だと思う。オッケー?」
「俺たちは初見で何にも分からないから、その辺はあろゑに従うよ」
「はい。あろゑちゃんが頼りですから」
「えっ、そ、そんなに?アンタたちもちょっとは頑張ってよ?」
恥ずかしそうに横を向きながら、あろゑはふんと腕を組んだ。
配信者だけあって頼られるのには慣れているだろうと思っていたのだが、プライベートとなるとそうでもないらしい。意外と可愛らしいところがあるじゃないか。
そう思い、にやけながらつんつんとあろゑの肩を突くと、思い切り足を踏まれて反撃されてしまった。
HPバーが減ったのではないかと錯覚するほどの痛撃に俺は目を丸くした。うん、あまりからかうのはよしておいた方が良さそうだ。後が怖いからな。
「さ、そうと決まったらさっさと行こう。もう敵が来ちゃう」
「あ、そうだ。一つ大切なことを言い忘れた」
「なに?」
「もしノイズが走っている敵がいたら、すぐにその場から逃げて、俺たちに報告してくれ」
「なにそれ?そんなのがいるって話、初めて聞いたけど」
「たまにバグった魔物が出ることがあるんだ。俺たちはそいつらのことを『RISK』って呼んでる。俺たちの攻撃しか効かないから、絶対に戦わないように」
俺の言葉を聞くなり、あろゑは声を荒げ、駄々っ子のように地団太を踏んだ。
「はぁ!? アンタたちずるくない!? アタシも戦いたい! っていうかそんなのがいるなら配信して――」
俺が慌てて腕を掴むと、あろゑは目をぱちくりさせながら驚いた。
「な、なに?」
「ダメだ! やられたら命にかかわる! 意識不明になってる人たちだっているんだぞ!」
「私からもお願いします。どうかカヲルくんの言うことを聞いてあげてください」
「危ないから、やめて。」
真剣に言い聞かせる俺たちの様子を見て、あろゑは事の重大さを理解してくれたらしく、そっと俺の手を振りほどいた。
「わ、分かったよ! もし会ったら逃げればいいんでしょ! でもその話、ゼッタイ後で詳しく聞かせてもらうからね!」
「ああ。ちょっとでも巻き込んでしまってすまないと思ってる」
頭を下げようとする俺を見たあろゑは、首を横に振りながら、俺の両肩に手を当てて押しとどめた。
「いまさら謝らないで。っていうか、むしろどんどん巻き込んでいいんだからね」
「配信者だから、か?」
「もう、違うよ。アタシたち、もう仲間でしょっ」
あろゑは目を逸らし、頬をかきながら言うと、くるりと背を向けた。
「ほら、行くよ! 早く来ないと置いてっちゃうからね!」
「はいはい、いま行きますよ」
「はいは一回!」
「はいよ」
俺はリリーとともにくすりと笑うと、あろゑの後をついて部屋を飛び出していった。




