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DIVE6「02からの誘い」

◆◆◆


「ちょっと疲れたな……」


 「The Fang」からいったんログアウトしてヘッドギアを外した俺は、ふぅっとため息をついた。


 「The Fang」は脳の五感をフルに使うというだけあり、使用中に蓄積される疲労もバカにならないくらい大きかった。

 あと今日は「The Fang」の前にも色々なVRゲームをやっていたから、それもこの疲れ方と関係があるだろう。


 長時間やるものではないのか、それともヘッドギア「Universe」に慣れていないだけなのかは分からないが、適度に休憩を取りながら遊ぼうと俺は思った。


 気晴らしにチェックしてみると何やら通知が来ていたので、俺は連絡用アプリ「incord」を開いた。


「誰からだ……?」


〈お前、ようやくヘッドギア買ったんだって? いま何遊んでんの?〉


「なんだ、02(オズ)か」


 メッセージの主は、長年画面越しにやり取りしているネットのフレ、02(オズ)。「The Fang」とは違う、とあるオンラインゲームで知り合って以来の仲だ。


〈ああ。The Fangをインストールしてみたよ〉


〈マジ? TFやってんの? 俺も混ぜろよ〉


 02は「The Fang」を運営開始当初からプレイしている熱心な「(きば)(みん)」だ。

 なお、「The Fang」のプレイヤーが俗に「牙民」と呼ばれているのは、ゲームオタクの界隈では周知の事実である。


〈そういえばお前もやってたな。キャラは人間? モンスター?〉


〈人間に決まってんだろ。お前は?〉


〈え、スライムだけど……〉


〈草。前に教えただろ、色々辛いって〉


 確かに、02はことあるごとに口を酸っぱくして「モンスターは苦行だ」と言っていた。そして、牙民の間でもその認識は一致しているらしい。

 いわゆる縛りプレイに使われるくらいだから、その噂が的を射ているのはさもありなんだ。


 しかし、それは俺のプレイスタイルを縛る枷にはならない。

 やっぱりゲームはプレイヤーがやりたいようにやるのが一番だと俺は思う。それに、もし本当に苦痛だったら、課金して人間陣営にキャラを移行すればいいだけの話だ。


〈いいだろ、別に〉


〈まあ、いいけどさ。んじゃ、俺もサブ垢のエンジェルくんでちょっかい出しに行くかな〉


〈お、マジで? ありがとう。アムナックにいるから、あとで合流しよう〉


〈ういうい〉


 俺たちはフレンドコードを互いに教えあった。


 これで心強い味方ができた。分からないことがあれば、色々と教えてもらえるだろう。

 俺は言い知れぬ安心感に浸りながら、ゲーミングチェアの背もたれに埋もれた。


 そのとき、02から再びメッセージの着信があり、俺はふと画面に視線を戻した。


〈そうだ、ずっと前から一つやってみたかったことがあるんだけど、いっぺん試してみないか?〉


〈やりたかったこと? まーたバグ技か?〉


〈ま、そんなとこ〉


 02は仕様外の効果とか壁抜けとか、そういうイレギュラーな要素を見つけるのがとても上手い。今回もまた、そういう類の実験(・・)をしようということだろう。


 ゲーム開始早々BANにならなければいいが、と思いながら俺は苦笑した。


〈じゃあ、先に教えておくぞ。手順はこうだ――〉


 俺は、誰も考えつかないような彼の発想に舌を巻いた。

 もし仮にその試みが成功すれば、牙民界隈全体が大騒ぎになること間違いなしだ。下手をすれば緊急メンテナンスものだろう。


〈もし俺が死んだら、骨は拾ってくれよ?〉


〈何言ってんだよ。スライムに骨はないだろ〉


〈草〉


 そんなくだらない会話を交わしつつ、俺は若干の期待と不安に心をざわつかせるのだった。

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