DIVE63「前線の要害ニモ砦」
平地に建てられているクアール砦と違って、ニモ砦は高台の上に立地している。そのため、そこにたどり着くためには、敵だけでなく味方も傾斜の激しい斜面を登って行かなくてはならない。
そういうわけで、俺たちは前回のダンジョンであるヴァンバジナに引き続き、山登りをしていた。
「ふぅ……これ、あとどれくらいだ……?」
「はぁ……もう少し、かかる……はぁ……」
「マジか……ひぃ……」
山道を上るだけでもう息が切れてしまい、会話をするのにも精一杯だ。ただ、魔物がほとんど出てこないところが不幸中の幸いというべきだろうか。
苦労して登っていくことおよそ二十分、ようやく砦の入り口である門が見えてきた。
重厚な作りの鉄柵は頭上に引き上げられており、その下端の尖った部分が、門をくぐる者を威圧するかのように陽光に鋭くきらめいている。
灰青色をしたレンガ造りの城壁が砦の周囲を取り囲んでおり、不審なものは何であろうと寄せ付けないと言わんばかりの重厚さと荘厳さをたたえている。
クアール砦に比べると、明らかに力を入れて造られているという感じを受けた。
「立派な砦ですねぇ」
「大きい。」
「魔王が封印される前にもきっとここで戦ってたんだろうな」
「これから魔王軍と戦うに相応しい場所って感じするよね」
ようやく息が整った俺たちは、門をくぐり抜けて中へと入っていった。
戦を目前に控えた砦の内部は、物々しい雰囲気に包まれていた。時おり、兵士たちがガチャガチャと鉄鎧を鳴らしながら慌ただしく駆けていくのが見える。戦闘の準備を整えるに必死なのだろう。
中央の廊下を進んでいくと、頭上にクエストアイコンが浮かんでいるロビンソンという兵士を発見したので、俺はそいつに話しかけることにした。
「おお、あなたたちが協会本部から派遣されてきた冒険者の方々ですね!お待ちしておりました!」
ロビンソンはうやうやしく敬礼すると、たくわえた口ひげを指でなでつけた。
「正直なところ、戦況はあまり芳しくありません。いまはなんとか持ちこたえておりますが、本格的な戦闘が始まれば、冒険者の皆様のお力添えをもって、防ぎ切れるかどうかといったところでしょう」
「そんなに押されてるのか……」
互いに連携が取れない魔物の群れなど、取るに足らない脅威だったはずだ。しかし、それらを魔王が掌握し、統率し始めたことによって、一気にその戦力が増したということなのか。
「俺たちにできることなら、何でも言ってください」
「ありがとうございます。斥候部隊より、もうすぐ魔王軍の本隊が到着するとの報告が入っております。皆さまの準備がよろしければ、いますぐに配置についていただきます」
「分かりました」
「それでは、ご武運を」
会話を終えると、地面から光が湧き上がり、「ニモ砦防衛戦 解放」の文字が画面に表示された。
「解放できたか?」
「うん。」
「私も大丈夫みたいです」
お互いに確認しながら振り返った俺たちを、あろゑはにやけながら見つめた。
「さて、アンタたちは何回乙るかな~?」
「そんなに難しいのか、これ?」
「まあ、やってみれば分かるよ。嫌でも奮闘することになるから」
「そうやって脅かされると、なんだか怖くなってきました……!」
「じゃあ、行くのやめる?」
「行こう、リリー。」
「い、行きます! 行きますってば!」
堂々とした振る舞いのアイに対し、背を丸めてビビり散らかすリリー。これではどちらが先輩だか分かったものではない。俺は苦笑しながら、コンテンツウインドウを開いた。
「ニモ砦防衛戦」を選んで詳細を確認する。コンテンツ参加の適正レベルは30。ストーリー向けコンテンツとはいえ、ここまでくると敵も相当強いということだろう。
俺がそのまま参加申請をすると、すぐさま「突入」ボタンが表示された。
「んじゃ、入るぞ」
「は、はい!」
そして俺たちパーティはコンテンツに突入した。視界が暗転し、テレポートしていく。果たしてどんな敵たちが待ち構えているのだろうか。ワクワクドキドキしながら俺は目を閉じた。




