DIVE62「魔物たちの進撃」
キレ気味のあろゑと合流し直した俺たちは、協会本部の建物へと足を運んでいた。
「いつも前を通ってるけど、中に入るのは初めてかもしれないな」
「そうですね。来る用事がなかったですから」
大通りを進むこと約五分。見覚えのある看板を確認すると、俺は建物の中へ足を踏み入れた。
酒場の受付を兼ねていたアムナックの協会支部とは違い、カウンターに沿ってそれぞれの窓口がきちんと並んでいる。
では酒場の類はないのかというと決してそうではなく、冒険者の応対をするカウンター部分と、飲み食いするレストラン部分とがきちんと分かれていた。
いくつも並んだテーブルには昼間からプレイヤーたちが集い、あーでもないこーでもないととりとめのない会話を交わしている。
「へえ、なかなか良さそうな雰囲気じゃないか。もっとお高く止まってるかと思った」
「そんなことしたら冒険者が寄り付かなくなっちゃうでしょ。で、ストーリークエ受けるなら、あそこのお姉さんに話しかけてね」
あろゑが指差した先には、ウェアウルフの受付嬢がメイド服っぽい制服を着て、カウンターの向こうに立っていた。俺たちは早速そちらに向かった。
「あの、こっちに配属されたんですけど」
協会から受け取った手紙を見せると、受付嬢はにこやかにうなずいた。
「お話はうかがっております。私、クエストカウンターの案内を務めますクルミと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
クルミは深々と頭を下げた後、手のひらを上に向けてこちらを丁寧に指し示してきた。
「皆さまに受けていただきたい重要なクエストがございます。少々長くなりますが、お話ししてもよろしいでしょうか」
「かまいませんよ」
「ありがとうございます。それではお話ししますね。実は、魔王がついに復活を遂げたようなんです。各地に生息する魔物たちの動きが非常に活発になっていますが、それだけではありません。先日、その魔王からキルギア・グランテス双方に対して宣戦布告がなされました」
「なっ……!?」
キルギアは人間領、グランテスはモンスター領を示す総称だ。いきなりの一報に俺は驚いた。
「もうすぐ魔物たちが群れを成して攻めてきます。しかし、我々としてはこのままやられるわけにはいきません。目下の課題として、迎撃の準備を整えなくてはなりません。そこで、あなた方にはニモ砦を防衛していただきます」
クエストウインドウが開き、詳細が表示される。
目的はニモ砦の防衛。難易度は☆4、報酬はなんと10000ジラ。難易度が上がるにつれて段々と報酬の額も上がってきている。
俺は迷わず「受注」のボタンを押した。
「危険な任務になりますが、どうかご武運を」
「ありがとう、クルミさん」
お礼を言うと、俺はリリーたちの方に向き直った。
「それじゃ、ニモ砦に向かおうか」
「はい。どこにあるんでしたっけ?」
「えーっと、ちょっと待って」
俺たちはマップウインドウを開きながら、砦の位置を確認することにした。
「あろゑ、詳しい場所分かるか?」
「北の方だよ。ヤオビ村から南西に下ったところ――これだね」
「あー、これか。だいたい分かったかもしれない」
砦はどうやらこの前マップ外エリアが出現したクドマ平野の北東方面にあるようだ。ファンデワース全体でもかなり北の方にあり、魔王城からグランテス領に向かって南下してきた軍勢がちょうど通過する位置にある。戦場になるのは不可避といえるだろう。
大体の位置を把握し終えると、俺はマップウインドウを閉じた。
「みんな、準備はいいか?」
三人がうなずくのを確認すると、俺は協会本部を出てヘネクの北門へと向かった。
「道中の敵も結構強くなってきてるから、気をつけて進もうね」
「ありがとう。あろゑって、結構優しいんだな」
俺が何気なくそうつぶやくと、あろゑはなぜか顔を真っ赤にして怒り出した。
「ちょ、何言ってんの急に! 当たり前でしょ、バカカヲル!」
「な、なんで叩くんだよ!」
「うるっさい! アンタは黙って叩かれてればいいの!」
「意味分かんねぇ! 痛って!」
リリーにくすくすと笑われながら、俺はあろゑの拳を必死に防ぐのだった。




