DIVE61「レベリングは大切です」
ギルドハウスに戻ってきた俺たちは、四十万に調査結果を報告した。
「そうか、ありがとう。ネイルくんのことは災難だったね」
「ああ……」
俺は怒りとともに拳を握りしめた。何を企んでいるのか知らないが、罪もない人々を巻き込んでいる黒幕のことは絶対に許さない。
そのとき、四十万が「あっ」と声を上げた。
「そうだ、君たちに一つ言おうと思っていたんだ。忘れないうちに聞いてくれるかな」
「何でも言ってくれ」
「フィールドだけではなく、IDの方も調査してくれ。もしかしたら、そちらにも『RISE』が出現するかもしれないからね」
「言われてみれば、そっちはまだ全然調査してなかったな」
「アイくんのレベリングにもなるし、一石二鳥だろう」
各地を転々としながら魔物討伐を繰り返した結果、アイのレベルは17まで上がっていた。とはいえ、レベルキャップの30にはほど遠い。
「レベル、上げたい。」
「そうだよな、一人だけ低いなんて嫌だもんな」
「うん。」
アイはどうやらやる気満々のようだ。これなら俺たちも周回しがいがあるというものだ。
「よーし、それじゃあ02直伝のスパルタダンジョンマラソン、行ってみるか!」
「おー!」
「マラソン……?」
「やれば分かるから。あっ、そうだ。せっかくだし、あろゑも呼んでみるか?」
「そうですね。アイちゃんの紹介もできるし、いいと思います」
「んじゃ、ちょっと待ってな」
俺はテキパキとメッセージを入力し、あろゑに送信した。すると、すぐに行くとの返事が返ってきた。これなら、垢BANの恐怖をちらつかせなくても済みそうだ。
そうして待つこと15分ほど。
「ちょっと! アタシをなんだと思ってるわけ!?」
「お手伝い大好きあろゑちゃんでしょ」
「天下の棘咲あろゑ様に決まってんでしょ! 人使い荒いんじゃないの!?」
「まあまあ、とりあえず座んなよ」
俺がソファをぽんぽんと叩くと、あろゑは不服そうな顔をしつつも腰かけた。
「全く……で、この子がアイちゃん?」
「アイです。よろしく。」
「あら可愛い。棘咲あろゑです。ってかまた新種族じゃん!? どうなってんの、アンタの周りは!」
俺はアイを見つめるあろゑの横顔をじっと眺めた。よくもそうころころと表情を切り変えられるものだ。
「ほんじゃ、どうしようか。準備が良ければまず、アイのストーリークエスト処理しに行こうか」
「そうですね。早いうちに済ませた方がいいと思います」
「ん、そういうことね。了解」
なんだかんだ言いつつパーティに馴染んだあろゑを連れて、俺たちはアムナックへと向かうことになった。
それから俺たちはアイのストーリークエストを受注しつつ、ドームリル、ヴァンバジナと順番にクリアしていった。四人中三人が慣れているということもあり、ダンジョン攻略は非常にスムーズに進んでいった。
「ふぃ~、やっぱりヴァンバジナは大変だな」
「そうですね。ギミックがちょっと面倒くさいです」
「アンタたち、そんなこと言ってたら防衛戦で苦労するよ」
ニヤニヤしながらそう言い放つあろゑに、俺は首をかしげた。
「防衛戦? ああ、もしかして次のIDか」
「そそ。ここまできたら、カヲルとリリーも一緒にストーリークエこなしちゃいなよ」
「そういえばそうだった!」
俺とリリーは「シーカーズ」の活動にかかりっきりで、まだストーリークエストを最後まで進めていなかったのだ。
「よし、それじゃ次のやつを受けるぞ」
「了解です」
「オッケー。」
俺はカウンターに立っているエリザに話しかけた。
「こんにちは、エリザさん」
「あら、冒険者くんたち。ちょうどいいところに来たわね。渡したいものがあったのよ」
「これは……?」
エリザから手渡されたのは、一通の白い封筒だった。冒険者協会のロゴで印ろうがしてある。
「協会にあなたたちの活躍が認められたみたいよ。開けてごらんなさい」
俺は封筒の中身を取り出すと、リリーたちにも分かるよう、声に出して読み上げた。
「冒険者 カヲル殿 リリー殿 アイ殿 棘咲あろゑ殿
あなたたちのめざましい活躍を認め、本日付で協会本部所属とする
冒険者協会本部長 カイラス・マーティン」
「おお……?」
「ふふっ、あなたたちはもう辺境の地アムナックじゃなく、ヘネクの協会本部でクエストを受注しろってことよ」
「あ、そういうこと」
つまり、分かりにくいが、昇進したみたいな扱いということらしい。
「おめでとう。もう私の手助けはいらないみたいね」
「いえ。エリザさんのおかげでここまで来られました。ありがとうございます」
「会いたくなったら、またいつでもいらっしゃい。二人で待ってるわ」
そう言うと、エリザは笑顔で手を振ってくれた。一方、ヒギンズは照れ隠しなのか、そっぽを向きながらふんと鼻を鳴らした。
「これでヘネクに向かうわけか」
「本来はね。まあでも、律儀にここまで待ってる人の方が少ないんじゃないかな。いまどきみんなネトゲでロールプレイなんてしないでしょ」
「まあな」
あろゑのメタ発言に苦笑しながら、俺は封筒をインベントリにしまった。どうやら大事なもの扱いになっているらしく、スロットを圧迫しないのは嬉しいところだった。
「んじゃ、いったん戻りますか」
「そですね」
「うん。」
テレストーンの欠片を使うのはもったいない。ギルドハウスから協会本部に向かった方が早いと判断した俺は、ハウス用のテレストーンを使ってテレポートした。
「って、ちょっと! あたしは!? 置いてくな、バカカヲル~っ!」




