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DIVE58「不穏な知らせ」

 俺たちが「RISK」を狩りながらファンデワースを練り歩いていたあるとき、一通のD(ダイレクト)M(メッセージ)が届いた。それはネイルからのメッセージだった。


「アイはネイルのこと知らないよな」


「うん。」


「初心者を守り育てる活動をしてるやつなんだ」


「なんの要件でしょうね?」


 また初心者指導の勧誘だったら適当に返事をして終わろうと思いつつ、俺がメッセージを開封すると、そこには驚くべき内容が書かれていた。


「マジか……!」


「何ですって?」


「大雑把にまとめると『うちのギルドに所属している初心者パーティと急に連絡が取れなくなった。心配なので探すのを手伝ってほしい』ってことらしい」


「えっ、それってもしかして……」


「ああ。おそらくな」


 何の前触れもなく消息を絶ったという現象からして、原因は「RISK」の可能性が高い。

 このまま見過ごすわけにはいかないだろう。もし違っていたなら、それで良い。


「助けてあげましょうよ!」


「そうだな。返事しよう」


 俺はネイルに一人で勝手に動かないよう念を押しつつ、会いたいという旨をしたためて返信した。すると、即刻返事が返ってきた。「初月前線」のギルドハウスで待っているから、いますぐに来てほしいとのことだった。


「よし、それじゃ行くか」


「うん。」


 俺たちはテレストーンの欠片を使って、首都ヘネクへと急ぎ帰還した。


 「シーカーズ」のギルドハウスから十分ほど歩いたところに「初月前線」のギルドハウスは建っていた。


 庭は手入れされた松の木や石灯籠など和風なモチーフのエクステリアで統一されており、その奥に大きな瓦屋根の日本家屋が鎮座している。

 池の近くに置かれた鹿威しが時折ことんと風流な音を立て、訪れる者の心を和ませんとしている。


 俺たちが庭先に立って敷地内を見回していると、家の方からネイルが歩み寄ってきた。


「お待ちしていました」


「よう、ネイル。おしゃれな家だなぁ」


「お褒めいただき光栄です。さ、こちらへどうぞ」


 ネイルは嬉しそうに言うと、ギルドハウスの中へと俺たちを招き入れた。

 室内に入ると、そこには家屋とおそろいの純和風の家具が並んでいた。畳張りの小さな応接室に通された俺たちは、きれいな紫色の座布団に腰を下ろした。


「それで、早速なんだけど話を聞かせてくれないか」


「はい……DMにも書いた通り、うちのギルドの初心者パーティが行方不明になってしまったんです」


「どの辺りでいなくなったかは分かりますか?」


「いえ……ただ、行き先は聞いています。沈黙の森に向かうと言っていました」


 沈黙の森は適正レベル15付近と比較的レベル帯の低い森で、生産(クラフト)用の素材が豊富なマップだ。普通にプレイしていれば、パーティが壊滅するような要素はない。

 もしかしたら、そこにも「RISK」が出たのかもしれない。俺は身を乗り出した。


「これから言うことはここだけの話にしてくれ。実は、最近バグモンスターが各地に出没するようになっている」


「ええっ!? バグモンスター!?」


「しっ! 声が大きい! やられると変なところに飛ばされて、外との連絡が取れなくなるんだ。俺のギルドではそいつらのことを暫定的に『RISK』と呼んでる」


「ということは、彼らはその『RISK』にやられてしまったということですか……!?」


「おそらくな」


 ネイルは困った様子で俺たちの表情をうかがう。


「どうすれば助けられるんでしょうか……?」


「お前の仲間たちの捜索は俺たちで行うから安心してくれ。それより、まずはその『RISK』を退治しておきたい。いまから俺たち三人で沈黙の森に向かうから、お前はここで待機していてくれ」


「待ってください! 僕も行きます!」


 俺は一緒に立ち上がったネイルの肩に手を置いた。


「これは危険な任務になる。ギルドマスターのお前までやられるわけにはいかないだろ」


「大事な仲間がやられたっていうのに、このままじっとしてなんかいられません! お願いします! 連れていってください!」


 ネイルはすがりつくように懇願してきた。俺たちは困惑に顔を見合わせた。どうしよう。一般プレイヤーを連れていっても良いものなのか。

 しかし、それからさらに三度の懇願を受けて、リリーが口を開いた。


「連れていってあげましょう、カヲルくん」


「でも……」


「私だって、ネイルさんと同じ立場だったら同じことを言うはずです。カヲルくんもそうでしょう?」


 俺はその言葉を否定できなかった。仲間の仇を打ちたいと思うのは誰でも一緒だろう。


「分かったよ。ただし、危ないと思ったらすぐに戦闘から離脱して逃げること。いいな?」


「はい! ありがとうございます!」


 ネイルはぱあっと表情を明るくして、俺の左手を握った。

 向かうは沈黙の森。果たして、鬼が出るか蛇が出るか。

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