DIVE55「一件落着」
俺たちはマップ外エリアから没入者たちを運び出すと、すぐに四十万に連絡を取った。
急ピッチで現場に到着した四十万は、すぐに没入者全員の状態を確認してくれた。
すると、ログを確認した限りでは接続状態やアバターデータに問題はなく、脳の方に異常がなければ何もせずともじきに目覚めるだろう、とのことだった。
中にはすでに意識を取り戻している者もいたから、実際そうなのだろう。
結局、いまは応急処置として全員強制ログアウトさせることになった。
そのまま接続し続けていると、マップ外エリアから獲物たちが抜け出したことを知った「RISK」にまた狙われるかもしれないからだ。
「でも、全員帰しちゃっていいのか? 調査とかあるんだろ?」
「ああ、全員のPC名リストは作成したから心配ない。ログデータの精査と事件についての聞き取り調査は後日改めて行うよ」
「さっすが、有能社員」
02に肘で突かれた四十万は、ふっと自慢げに鼻を鳴らした。褒められてまんざらでもないようだった。
四十万と一緒に急いで駆けつけたミルルは、兄が無事であることと接触しても大丈夫なことを聞くと、チルルと強く抱き合った。
「お兄ちゃん……!」
「ミルル!」
そのまま十秒ほど抱き合うと、チルルはミルルの頭を優しく撫でた。
「ごめんな、心配かけて。お兄ちゃん、バットに戻っちまった」
「ううん、いいの。お兄ちゃんが無事で帰ってきてくれたなら、それでいい」
「……そっか」
それだけ言うと、チルルは笑顔でミルルの肩を抱く。種族は違えども、そこにはたしかに兄妹の絆があった。
「本当に、良かったですねぇ……!」
「ああ、そうだな」
兄妹の再会に感動したのか、リリーは目を潤ませながら鼻をすすった。俺もつられて、ちょっぴり涙がにじむ。
一方、02とアイは表情を変えることなくその光景を眺めている。なんともクールなやつらだ。
ひとしきりスキンシップを終えたミルルたちはこちらに向き直り、深々と頭を下げてきた。
「皆さん、本当にありがとうございました。なんとお礼を言ったらいいか」
「いや、礼なんていいよ。困ってる人たちを助けるのが俺たちの役目だから」
「そうなんですか! かっけぇ……!」
チルルは目をキラキラと輝かせると、いきなり敬礼した。
「俺たちに協力できることがあれば、何でも言ってください! すぐに駆けつけます!」
「こら、お兄ちゃん! お邪魔になるようなこと言わないの!」
「いや、素直に嬉しいよ。ありがとう」
妹に頭をはたかれて目玉を飛び出させるチルルを見て、俺たちはくすくすと笑った。これだけ元気なら、ログアウトした後も大丈夫そうだ。
「それじゃ、失礼します!」
「ゆっくり養生してくださいね~!」
「はい!」
ミルルたちは笑顔で手を振りながらログアウトしていった。
彼が最後の没入者だ。これで後はもう見送る相手はいない。
俺は安心のあまり、深いため息をついた。
「君たちもお疲れさま。大変だっただろう」
「大変もなにも、ガチで死にかけたからな……」
「なに? 初耳だぞその話は。詳しく聞かせてくれ。ほら、早く」
「いや、鬼か! 今日はもう勘弁してくれ!」
四十万はニヒルに笑うと、必死にのけぞる俺の肩に手を置いた。
「冗談だよ。ギルドハウスに戻るなりログアウトするなりして、ゆっくり休んでくれ」
「はぁあああぁ……」
四十万は冗談を真顔で言うものだから、そうなんだかそうでないんだか分かりにくい。俺はいらぬ疲労がさらにたまったのを感じながら、重い体を動かしてテレストーンの欠片を取り出した。
「じゃ、帰ろうか」
「おう」
「はい!」
「了解。」
俺たちの実地調査は、マップ外エリアというイレギュラーな場所を探索したにも関わらず、全員生還という奇跡的な結果で幕を閉じたのだった。




