DIVE53「vs巨大スライム」
まるでぬりかべのような巨体。大きすぎてどこから手をつけていいのか分からないため、俺たちはとりあえず攻撃を仕掛けてみることにした。
徐々に迫ってくる巨大スライムに、俺たちは通常攻撃を叩き込み、食い止めようとする。しかし、スライムが前進の勢いを止めることはなさそうだった。
たしかに攻撃は効いているのだが、いかんせん火力が足りない。後ろではリリーたちも頑張ってくれているのだが、このままでは時間がかかりすぎる。
「どうする、カヲル!?」
「どうするったって……!」
少しずつ後退しながら、俺たちは微量しかゲージを削れない攻撃を続ける。
そのとき、アイがふとつぶやいた。
「核。」
「えっ!?」
「バグには必ず魂の核……『魂核』がある。そこを攻撃すればいい。」
「核って、それはどこにあるんだ!?」
なんでもいいから突破口が欲しい。しかし、その願いはアイが放った次の一言で打ち砕かれた。
「普通のプレイヤーには見えない。場所を当てるしかない。」
「そんな!」
見えないものを探し当てろと言われても、そんなものはただの無理ゲーだ。
俺たちは通路の狭さと敵の異様な固さという二重の閉塞感を覚えながら、ひたすらにスライムを攻撃する。
「なあ、どれくらい減った!?」
攻撃に集中して敵のHPバーを見る余裕がない俺は、背後に向かって呼びかける。すると、02が即座に返事をしてきた。
「ようやく二割ってとこだな」
「マジかよ……!」
これだけ攻撃してやっと五分の一。気が遠くなるような作業だ。
じりじりと押し込まれた俺たちは、没入者たちが倒れている部屋のところまですでに戻ってきていた。
通路内に残っているのは俺だけで、後方支援のリリーたちはすでに部屋の中に入っている。
どれくらいのサイズがあるのか分からないが、部屋の隅に追い詰められるのだけは避けたいところだ。
そう思いつつ、俺が視線をスライムの方へ戻そうとしたそのとき、事態は起こった。
「きゃっ」
「うわっ」
「え……?」
頭上から落下してきた巨大スライムに、リリーたち三人が飲み込まれたのだ。
何が起こったのか理解できず、俺は一瞬固まった。
見間違いかと思い、俺は目を擦ったあともう一度振り向く。
そこには、スライムの体内でもがく三人の姿がありありと見て取れた。
腹の底に大きな穴が開いたかのような絶望感が、俺の全身を包み込む。
俺たちはてっきり、敵は一匹だけだと思い込んでしまっていた。
しかし、そうではなかった。
巨大スライムはもう一匹いた。
通路の上の見えないところを通り、こちらに向かっていたのだ。
俺はもがき苦しむ仲間たちに向かって一歩、二歩と近づく。
「お前、何やってんだよ……」
もう一匹の巨大スライムは俺の逃げ場を絶つように、その体で通路の出口を埋め尽くした。
「何やってんだよおおおおおお!!!」
俺は焦燥と憤怒の衝動に駆られながら、やたらめったらにスライムを斬りつけた。
斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。そして斬る。
しかし何度斬りつけても、仲間たちが解放されることはない。
やがて疲れ果てた俺は、失意のどん底に落ちながら、床に両膝をついた。
前後からスライムが迫ってくる。俺の体ももうすぐその流動体の中に飲み込まれてしまうのだろう。
こうして、俺たち「シーカーズ」は壊滅した。




