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DIVE48「祝祭大洞レスティバ その2」

 順調にゴブリンたちをなぎ倒した俺たちは、ついに2ボス前の白いモヤへとたどり着いた。


「お神輿の次はなんだろうな?」


「もしかして、だるまとかですかね?」


「俺は招き猫にかけるね。02は金のシャチホコな」


「なんでだよ!」


「お前が言ったんだろ」


「そ、そういえば俺、そんなこと言ったわ……」


 愕然とする02を置いて、俺とリリーは白いモヤをくぐる。

 さて、賭けの結果は――


「えっ?」


 てっきりボスが現れると思っていた俺は、面食らった。

 そこに立っていたのは、だるまでも招き猫でもシャチホコでもない。

 美少女だったからだ。


 頭上の表示を見たところ、青色の文字で表示されている。つまり、その子はプレイヤーらしい。

名前はアイ。レベルは10だ。


 さらさらとした銀のロングヘアーに、同じ銀色の瞳。青白い肌をしており、リリーと同じくらい露出が激しい衣装を着ている。

 これはなんというモンスターだろうか。初めて見る種族だ。


 まさか俺たち以外のプレイヤーが紛れ込んでしまったのだろうか。俺は若干の戸惑いを感じながら、アイに近づいていった。


「あんた、どこから来たんだ? ここのボスはどうした? あんたが倒したのか?」


「……?」


 質問攻めにされたアイはゆっくりと首をかしげた。どうやら質問の意味が理解できていないらしい。


「俺たち、ここのボスを倒しに来たんだよ。なにか知らないかな」


 アイはしばらく俺の顔をじっと見つめていたが、そのうち無言で背後を指差した。そこには、金色の宝箱がでんと鎮座していた。


「あれ、もらっていいのか?」


 俺が優しく尋ねると、アイはこくりとうなずいた。


「ありがとう! 恩に着るよ」


 俺は困惑しているリリーと02を連れて、宝箱の方へと歩み寄った。中を開くと、そこにはイベント報酬と交換できるお祭りメダルが何枚か入っていた。


「どうなってんだ、一体? I(インスタンス)D(ダンジョン)に別のプレイヤーが勝手に入り込むなんて、聞いたことないぞ」


「そうだけど、別に問題はないだろ。報酬はきっちりもらえたし、ボスは倒さなくて済んだし」


「まあ、いいけどさ」


 02は未だに納得がいかないというような顔をしながら、分け前のお祭りメダルをインベントリにしまい込んだ。その隣に立っているリリーもまた、アイに何度も頭を下げながら、自分のインベントリにメダルを入れた。


「ありがとう、アイ! それじゃあな!」


 アイはその場に立ったまま、俺たちがテレポートで脱出するのを最後まで見つめていた。不思議な子だったなぁと思いながら、俺は静かに目を閉じた。


 ほどなくしてテレポートを終えた俺たちは、マンドラゴラにクエスト完了の報告に向かった。


 再び人だかりをかき分けて話しかけると、マンドラゴラは嬉しそうに飛び跳ねた。


「お祭りのアイテムを取り返してくれたんですね! ありがとうございます! おかげで祭りに参加できます! これはほんのお礼です、どうぞお受け取りください!」


 クエストが完了したことを告げるファンファーレとともに、俺は「セレブレイト・ハッピ」と「セレブレイト・ハチマキ」を入手した。


「後で着てみようか」


「そうですね! せっかくですから」


「どうやら、どの種族でも着られるみたいだな」


 周りを見ると、すでに法被とハチマキを身につけたプレイヤーたちがワイワイと騒いでいるのが見える。すっかりお祭り気分といったところか。


「とりあえず、ギルドハウスに戻るか?」


「そうだな。ダンジョンだったらどこからでも突入できるしな」


「はい。ちょっと人酔いしちゃいました」


 意見の一致をみた俺たちは、こうしていったんギルドハウスに向かうことにした。


 そのとき、俺は腕を後ろにグイッと引っ張られる感覚がして立ち止まった。


「あれ、アイじゃないか」


 俺を引きとめていたのは、さっき「レスティバ」で出会ったアイだった。

 アイは俺の腕を控えめに掴んだまま、ピタリとくっついて離れない。


「どうした? って、さっきの子じゃないか」


「なぜだか分からないけど、手を放してくれないんだよ」


 俺が困ったように言うと、02はニヤニヤとこちらを眺めはじめた。


「ははーん。さては懐かれたな?」


「ええっ?」


「その子まだレベル低いみたいだし、面倒見てやれよ」


「そんな、俺は初心者指導なんて――」


 そう言いながら振り向いた俺は、思わず口をつぐんだ。

 アイが純真無垢な瞳でじっとこちらを見上げていたからだ。


 昔こういうCMあったよな。ペットショップで犬が飼ってほしいと見つめてくる。まさにそんな感じだ。


「……ええい、分かったよ! アイ、一緒についてこい。色々教えてあげるから」


 俺が心を決めると、アイはこくりとうなずき、ぐいぐいと腕を引っ張るのをやめた。もっとも、ぴったりと腕に密着していることに変わりはないが。


 そういえば、リリーはずっとぶっきらぼうな顔をして黙っていたが、何かあったのだろうか。

 まあ真面目なリリーのことだから、さっき2ボスが出てこなかったのが気に入らないとか、そんなところだろう。機嫌ならそのうち直るはずだ。

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