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DIVE44「戦いの結末」

 彼岸の妖蝶メルズはこちらに気がつくと、優雅に羽を動かしながら飛んできた。

 その緩慢な動きからは秘めた危険性が全く伺えないが、気を抜くわけにはいかない。


 まずはリリーがミールストームを地面に設置。続いてミストインジェクションを放ち、敵をスロウ状態にする。その間に、02が俺にバリオルをかけて強化する。

 ここまではいつもの基本的な流れだ。


 それから俺とリリーは基本コンボを入れつつ、メルズの一挙一動に注視する。


 メルズは時折猛烈な羽ばたきを織り交ぜながら、体当たりで攻撃してきた。俺はそれをしっかりと盾で受け止める。


 幸いなことに、俺には〈粘着〉があるから、風圧で後退させられることはなかった。

 もしそういうアビリティを持っていなければ、どんどん吹き飛ばされて苦戦を強いられていたことだろう。


 そのとき、メルズが背中側に大きく羽を広げた。


 俺は〈粘着〉を解除してメルズの巨躯から飛び離れる。その次の瞬間、メルズの羽から大量の鱗粉がばらまかれた。

 日の光に赤く輝くその粉は見た目には美しいが、吸ったり触れたりしては危険だと直感的に理解した。


「当たると麻痺するから絶対に触るなよ!危ないから、こっちに引きつけろ!俺たちも後退する!」


「了解!」


 俺は離れたところから遠距離攻撃スキルのハウリングボイスを放ち、メルズを自分の方へと誘導して、鱗粉の範囲から引き離した。


 そしてまた、ファングエッジやジャギーガッシュ、フレイムブレスなどでダメージを与えていく。

リリーも負けじとフェザーシュートやエリアルスパイクなどを発動して、攻撃に参加していった。


 そうして鱗粉を避けながら攻撃することしばらく、メルズは突如として宙高く舞い上がった。


「急降下の前に鱗粉がくる!走り回って避けろ!」


「えぇ!?」


「は、はいっ!」


 俺は慌ててメルズの影から飛び離れた。直後、空中から鱗粉がパラパラと落ちてきて地表近くに漂う。

 それからメルズは円を描くように鱗粉をありったけまき散らした。俺だけでなくリリーや02たちの方まで届くとは、相当に厄介な攻撃だ。


 存分にまき散らすと、最後にメルズは俺目掛けて急降下してきた。


「ぐっ……!」


 盾越しにでも伝わる強烈な衝撃に、俺は思わずたじろいだ。


 〈粘着〉がなかったら今ごろ、踏ん張り切れずに地面を転がって、そのまま鱗粉に突っ込んでいるところだっただろう。

 前世がスライムで本当に良かったと思ったのは、これで何度目だろうか。


 苦しい戦いだが、メルズの猛攻ももうすぐ終わりだ。HPバーは残り一割を切っている。


「はああああ!」


 俺は突進を終えたメルズにダイビングスラッシュで接近すると、コンボを入れて一気に畳み掛けた。リリーもそれに合わせてコンボを叩き込む。


 メルズはついにそのHPを全て失うと、羽を力なく萎れさせて地面にばさりと落ちた。そしてノイズを発しながら、じわじわと消えていく。


「よし!倒した!」


「最後まで油断するな!何が起きるか分からない!」


「は、はいっ!」


 俺はメルズがきちんと消滅するまで視線を逸らさずに見つめ続けた。やがて、完全に消滅したことを確認すると、俺はようやく鞘に剣を収めた。


「お兄ちゃんは……!?」


 メルズが消え去った後の地面にミルルは駆け寄った。周囲を見渡すが、ミルルの兄らしきプレイヤーはどこにも見当たらない。


「そんな……倒せば戻ってくるって、思ったのに……!」


 ミルルはついにこらえきれなくなったようで、地面に手と膝をついてうなだれた。その両の瞳からは大粒の涙があふれだす。


「ミルルちゃん……」


 リリーは悲しそうな顔をしながら、ミルルの背中をさすってやっている。


 考えてみれば、その通りだった。メルズを倒せばミルルの兄は帰ってくると俺たちはすっかり思い込んでいたが、そんな確証はどこにもなかった。

 そしてその現実がたったいま、こうして自分たちの前に突きつけられたわけだ。


 俺たちは失意に飲まれながら、ただミルルの姿を眺めることしかできなかった。

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