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DIVE39「それからのコト」

 ジャオーへの劇的な勝利から三日。

 俺たち「シーカーズ」のメンバーは、ギルドハウスでゆったりと談笑していた。


 ソファーに深く沈み込んだまま、俺は四十万に尋ねる。


「それで結局、『ケオティック』の処遇はどうなったんだ?」


「ジャオーが自らの罪を全て白状してね。ギルドマスターであるジャオーと幹部連中の一部はバグの意図的な不正利用ということで垢BANし、残りのメンバーは一定期間の利用停止処分とすることになった」


「な、なるほど……」


 当然の報いとはいえ、そこまで大規模な制裁となるとちょっぴり背筋が凍る。俺は姿勢を正しながら、自分もそうならないように気をつけなければ、と気を引き締めた。


「やっぱりBANされたのか。まあ、事が事だけにしょうがないよな」


 02はそう言うと、カップに入った紅茶をすすった。クラリスからもらった茶葉で淹れた紅茶はランクが高く、普通の紅茶よりもずっと美味しいので、重宝している。


「『ケオティック』関係者の間ではてんやわんやしていると聞いたよ。カヲルくんはその辺、詳しいんじゃないか?」


「ああ、それはもう大変な騒ぎだよ」


 一気に主要人物がいなくなった「ケオティック」は、現在誰がジャオーの後任を継ぐかで大いに揉めているらしい。

 傘下ギルドにすると言ってしまった以上、責任者である俺にもその話題は当然漏れ伝わってくるというわけだ。


「ギルドマスターになってほしい、っていう話は結局どうしたんですか?」


「断ったに決まってるだろ。色々と面倒くさいからな」


 後継者問題に触れたくない俺は、「ケオティック」からの要請をばっさりと断った。

 ジャオーの後任として一国一城の主となることもできたわけだが、そういうのが性に合わないのは自分が一番よく分かっている。


「ギルマスになったカヲルも見てみたかったけどな」


「よせよ。俺はこのメンバーとこのギルドにいるのが楽しいんだ」


「なるほどね。まあ、いいけどさ」


「ふふっ、カヲルくんらしい答えですね」


 俺は02とリリーと笑い合いながら、再び紅茶をすすった。

 そのとき、四十万がすっと立ち上がった。


「さて、それではそろそろ君たちにも伝えるとしよう。次の調査対象だ」


「次って、まだ何かあるのか?」


「ああ。『ケオティック』の調査を進めていたところ、『アクセル』の生成方法が判明した」


 四十万はウインドウを開いた。そこには、クアール砦のとある場所のスクリーンショットが表示されている。


「クアール砦に存在する、バグが生成される座標でポーションを作ると、一定の確率で『アクセル』が出来上がるそうだ」


「なんか、昔のゲームの裏ワザみたいだな」


 なんとも原始的な方法で作っていたんだな。「ケオティック」クラフター班の苦労が伺える。


「そこで、君たちにはその座標を調査してもらいたい」


「いますぐにその場所を閉じないんですか?」


 リリーが言う通り、そんなバグにまみれた場所に立ち入るのはいかにも危険そうだ。即座に閉鎖した方が良さそうに思える。

 しかし、四十万は首を横に振った。


「その情報を知っている人間は少ないから、プレイヤーが立ち入ることはほとんどないだろう。それに、何よりまずはバグの再発防止を優先したい。だから私の独断で、いまはまだ解放してあるんだ。とはいえ、そのまま放置しておくわけにはいかない。どうか早急に調査の方を頼んだよ」


 四十万からたったいま届いたD(ダイレクト)M(メッセージ)を開くと、そこには問題の座標の位置が子細に記されていた。ここに向かえということだな。


「よし! そうと決まれば、いますぐに向かうぞ!」


「了解っと」


 俺は紅茶の残りを一気に飲み干すと、早速立ち上がり、ギルドハウスの玄関に向かって歩き出した。02もそれに続いて、俺の後ろをついてくる。

 一方、リリーだけは紅茶のカップを手に持ったまま、慌てた様子で右往左往している。


「ちょ、ちょっと待ってください! まだ紅茶が!」


「急がないと置いてっちゃうぞ~」


「い、いま行きますっ!」


 リリーが追いつくのを待って、俺たちはギルドハウスを飛び出した。


 これからも「シーカーズ」はこうして「The Fang」の治安を守っていくのだろう。

 俺は現実世界では味わったことのない充実感を覚えながら、首都ヘネクの賑やかな街を歩いて行くのだった。

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