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DIVE37「蜥蜴vs竜」

 クアール砦の外に広がる荒野の一角に俺たちは集まっていた。


 円を描くようにして大勢並んだ「ケオティック」の所属メンバーたちに取り囲まれながら、俺たちはいま立っている。

 なんとも威圧的だが、逆らえるような雰囲気ではない。いまだ主導権はあちらにあるのだということを思い知らされた心地だった。


「さて、それじゃあ始めるぞ」


 首をコキコキと鳴らしながら、ジャオーは群衆の中央に自然と出来上がったスペースへと進み出た。俺もそれを見て、数歩ほど前に歩み出す。


「平常心ですよ、ソウジくん!」


 そう呼びかけるリリーが一番緊張しているように見えたので、俺は安心させるために笑顔で手を振り返した。


 今日この日まで、何もしてこなかったわけじゃない。

 レベリング作業だけでなく、PvPの訓練だってしっかりこなしてきた。あとはその成果を発揮するだけだ。そう自分に言い聞かせる。


 俺とジャオーが互いに剣を構えると、開始の合図を務める「ケオティック」メンバーのゴリラマジシャンが手を上に掲げた。


「用意――」


 俺はクラリスに打ってもらった漆黒の剣「ラッカークロウ」をギュッと握りしめ、ジャオーを見据える。ジャオーも黄金色のレイピアを片手にこちらを見据えている。

 お互いの視線がばちりとぶつかり合った次の瞬間、ゴリラマジシャンは手を勢い良く振り下ろした。


「はじめ!」


 かけ声が聞こえた瞬間、ジャオーが駆けだした。這うようなフォームから、上に向かってレイピアを振り上げる。

 俺は体を反らしてそれをなんとか避けると、バックステップで距離を取ろうとした。


「はっはぁ!」


 張りつくように距離を詰めたジャオーは、基本コンボから流れるようにスキルを発動した。

 盾の上からでも効くその強打に、俺は思わず後ずさった。ダメージを受けて、じわりとHPバーが減少する。


 防戦一方になってはダメだ。力量で負けている以上、もっと積極的に攻めていかなければ。


 俺は仕切り直すために、レベリング中に新たに覚えたスキルを発動した。

 その名も「フレイムブレス」。口から放たれた火炎が扇状に広がり、ジャオーに襲い掛かる。


「ちっ!」


 ジャオーは舌打ちすると、いったん俺から離れた。さすがにこの広範囲攻撃を無視することはできなかったようだ。


 俺はブレスを吐き終えると、一度大きく深呼吸をして、それから駆け出した。


 初っ端からダイビングスラッシュは使わない。軌道を相手に読まれやすいからだ。

 戦闘の基本に忠実に、近づいてからの基本コンボで攻め立てる。ジャオーはそれを丁寧に受け流していく。


「はっ!」


 今度は俺のファングエッジがジャオーの頬をかすった。刃を顔の横でがっしりと受け止めたジャオーは、楽しそうに笑った。


「いいねぇ! そう来なきゃ困る!」


 ジャオーは俺の剣を跳ねのけると、その勢いのまま反転して尻尾で攻撃してきた。すかさず俺も、尻尾を振るうスキル「テイルスイープ」で迎撃する。

 尻尾と尻尾が衝突し、鱗同士がガチンとかちあう。


 ジャオーは続いて、脛を狙った横薙ぎの一撃を放ってきた。俺は後ろに飛び跳ねると見せかけて、ダイビングスラッシュで反撃する。


「甘い!」


 しかしジャオーはそこまで読んでいたらしく、高く飛び上がってからの強烈な打ち下ろしで迎え撃ってきた。

 頭から突っ込んでいた俺はそれを避けきれず、肩口に深い斬り込みが入るのを感じた。


「ソウジくん!」


「ソウジ!」


 俺は歯を食いしばりながら、なんとか後ろに飛び退いた。しかしその傷は深く、HPバーがみるみるうちに削れていく。


「もう終わりか?」


 肩にレイピアを担ぐと、ジャオーは心底つまらなさそうにぼそりと呟いた。

 俺は首を横に振ると、剣を上段に構えながら無様に突撃する。


「うおおおおおおお!」


「ふん……くだらねぇ……」


 死に際の悪あがきと思ったのか、ジャオーはレイピアを構えることすらせず俺の剣を打ち払った。ガラ空きの腹部に、ジャオーの鋭い剣技が突き刺さる。


「か……はっ……」


 俺はHPを失い、そのまま地面に崩れ落ちる――


「なーんちゃって♪」


「なっ――!?」


 俺は無防備なジャオーの胸を袈裟掛けに斬り下ろした。確かな手応えとともに、ジャオーのHPが大きく減少する。


 ジャオーは困惑の表情を浮かべながら数歩退いた。


「『ハードスケイル』。7秒間無敵になるスキルだよ。これで五分五分だな?」


「けっ、そんなのありかよ……!」


 ジャオーは大ダメージを負ったはずなのに、愉快そうに笑うと、ショートカットを利用してポーションを取り出した。

 俺は思わず目を見開く。


「それじゃ、俺もそろそろ本気を出すとするか……!」


「おい、待て! それは……!」


 俺が制止する前に、ジャオーはそのポーションを一気に飲み干した。HPバーが微量回復するが、本命の効果はそれではない。「アクセル」だ。


「来た来た来た来た! これだァ!」


 次の瞬間、ジャオーは素早く俺の懐に潜り込むと、基本コンボを叩き込んできた。さっきよりも数段キレのあるその斬撃を、俺はなんとか盾で受ける。


「くっ……!」


「はっはぁ!」


 ジャオーは俺の隙を突いてローキックを放ち、体勢を崩させると、全身でタックルを仕掛けてきた。俺はその勢いに対処しきれず、もろに食らいながら後ろに尻餅をついてしまった。


 これ以上ダメージを受けたらまずい。俺はゴロゴロと転がって距離を離すと、なんとか盾を構え直した。


 しかし、ジャオーは地面に座り込んでいる俺に対してなぜか追撃せず、ゆっくりと歩み寄ってくる。


「なあ、おい、カヲルとか言ったな」


「ああ」


「お前も持ってんだろ。使えよ」


「なに……?」


「俺に勝ちたいなら使えよ! 『アクセル』を!」


 ジャオーはそう叫ぶと、俺の盾を上からガンガンと蹴りつける。


「俺はなぁ、勝ちに執着しないやつが嫌いなんだよ! 世の中は弱肉強食! 強い奴が弱い奴を食らって何が悪い! 勝者こそが正義だ!」


 俺のHPバーがさらに削れていく。


「だが、お前は違う! 俺の勘がそう囁いてる! だったら使っちまえよ! 勝ち方にこだわるこたねェ! 手段なんて選ばず、俺をぶっ倒せればそれでいいじゃねぇか! なぁ!」


 このままだと本当に負けてしまう。

 俺はショートカットを利用して、手に「アクセル」を握った。


「そうだ! 使え! そして全力でぶつかり合おう!」


「カヲルくん! 使っちゃダメです!」


「バカ! 何してんの! やめて!」


 俺は心を一つに決めると、「アクセル」をぐっと握りしめた。そして、それを自分の口元へ近づけながら、ぽつりと呟いた。

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