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DIVE34「情けは人の為ならず」

 地獄のID周回を無事生き残った俺たちは、一度クラリスに会いに行ってみることにした。

 事前にアポを取るためD(ダイレクト)M(メッセージ)で連絡をすると、いつでも大丈夫とのことだったので、周回を終えてからすぐに向かうことになった。


 クラリスから指定された番地にたどり着いた俺たちは、綺麗なエクステリアで飾り付けられた庭を通り、ギルドハウスの中へと入っていく。


 玄関ロビーの内装はシンプルなデザインの家具で統一されており、質素かつ機能的な空間となっていた。クラフトだけでなくハウジングも一流とは、さすがとしか言いようがない。


「すいませーん、お邪魔しまーす……」


 室内全体に響くように俺が声を掛けると、クラリスが奥の部屋から顔を出した。先日助けたときと同じクラフター装備を身にまとっている。


「いらっしゃ――って、どうしちゃったんですかその顔は~」


「リジッドリザードを5体連続で狩ってきたやつらだ。面構えが違う」


「あら~それは大変でしたね~」


 チベットスナギツネのようにしけた顔で入室してきた俺とリリーに唖然としながら、クラリスは部屋の奥から追加の椅子を持ち出してきた。これで五人ちょうど座れるはずだ。


 そのとき、あろゑが手をこねくり回しながら、クラリスの隣にずずいと歩み出た。


「私、いつもブログ見てます! コーデを考えるとき、すごく役に立ってありがたいです! ぜひ今後とも仲良くしていただけたら嬉しいですっ☆」


「こら、お前の営業をしに来たわけじゃねぇんだぞ」


 02にチョップされたあろゑは、叩かれた部分を手でさすりながら02をにらみ返す。


「いいでしょ、ちょっとくらい! こっちは生活がかかってんだから!」


「あはは、面白い方々ですね~」


 クラリスはそう言いながら全員のカップに紅茶を注ぐと、自分の席に腰かけた。


 このゲームでは飲食もできる。満腹感や排泄機能はついていないから、飲み食いし放題というわけだ。もっとも、現実世界ほどの味覚は感じないから、おまけ程度のシステムということになっている。


 俺は紅茶を静かにすすると、単刀直入に話を切り出すことにした。


「あんた、腕利きの職人なんだって?」


「はい~」


「今日来たのは他でもない。現時点で作れる最強の装備を作ってほしい。これから大切な戦いがあるんだ。絶対に負けるわけにはいかない。だから、頼む!」


 俺は深々と頭を下げた。クラリスはそっと紅茶を一口飲んだ後、にこやかに口を開いた。


「いいですよ~」


「本当か!?」


「その代わり、大事に使ってくださいね~」


「ありがとう! 助かるよ!」


 無理な要求をするからには、多少なりとも交換条件を突きつけられると思っていたのだが、ふたを開けてみれば全然そんなことはなかった。俺は喜びのままに、クラリスの手を固く握った。


 そのとき、リリーがおずおずと手を挙げた。


「あの、私たちレア素材とか全然持ってないんですけど、それに関しては大丈夫なんでしょうか……?」


「はい~。うちのギルドハウスには各種素材を常に備蓄してあるので、材料はそこから使います~。カヲルさんたちにはお代だけ頂ければ大丈夫ですよ~」


「神……! クラリスお姉様、神……!」


 あろゑはクラリスのそばに膝をつくと、両手を合わせて大仰に拝んだ。彼女が言う通り、控えめに言っても神対応だ。

 ただ、そうなると一つの疑問が生まれる。


「あの、どうして俺たちにそこまでしてくれるんだ?」


 クラリスはふふっと笑うと、自分の身の上を語り出した。


「私、バトルに関してはからっきしで、これまでに何度もPKされてきました~。ですが、見ず知らずの通行人から守っていただいたのはあれが初めてだったんです~。それを見たら、なんだか嬉しくなっちゃって~」


 クラリスは照れながらはにかんだ。

 このゲームには殺伐としたいがみ合いだけではなく、助け合いの精神もちゃんとある。そのことをお互いに実感できた、いい機会だったのかもしれない。


「ですからむしろ、こちらの方がお礼を言いたいんですよ~。助けていただいて本当にありがとうございました~」


「いや、俺たちはただやるべきだと思ったことをしただけだよ」


「そうそう! 情けは人の為ならず、ってね」


「いや、嘘つけ。あろゑお前『放っとけばいいのに~』とか言ってただろ。しかも本人の目の前で」


「うっさい! いまいいところだったでしょ!」


 02が片手でビシッとツッコミを入れると、あろゑは悔しそうにぎゃんぎゃんと喚きたてた。まるではしゃぎ回る犬と飼い主を見ているようだ。


「本当に、面白い方々ですね~」


 俺たちは他愛もないやり取りに笑いながら、ひと時のだんらんを楽しむのだった。

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