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DIVE33「熔解尖峰ヴァンバジナ その4」

 リジッドリザードは突如俺たちに背を向けると、壁や天井を這い回りだした。

 俺はどうしたらいいのか分からず、戸惑いながらやつを見つめる。


「これは飛んでいいのか!?」


「ダメだ! 空中で打ち落とされるぞ!」


「じゃあ、どうすれば!」


「顔の動きをよく見ろ!」


 俺は言われた通りにリジッドリザードを注視した。しばらくすると、リジッドリザードは壁のある地点で立ち止まって口をもごもごと動かし始めた。そして次の瞬間――


「おっほ!」


 泥の高圧ビームを発射してきた。しかも一発ではなく、三連発だ。俺は慌てて横に飛び退いてそれを避ける。無様に転がる格好になったが、ダメージを食らってしまうよりはよほどましだ。


 リジッドリザードは再び天井を這いずり回り、そして止まっては三連ビームを放つ。それを何度か繰り返した。

 やつの口の向きを注意深く見ていればなんとか避けられるが、ビームが放たれるその速度はまさに初見殺しといっても過言ではなかった。


 思う存分ビームを放ったあと、リジッドリザードは足場に降りてきてこれまで通りの攻撃を再開した。

 どうやら、あの壁や天井を這いずり回る行動が、HP残り半分になった際のモードチェンジのようだ。もしあのビームに当たったらどうなってしまうのかは、考えたくもなかった。


「これなら行けるぞ!」


 それから、着実に攻撃を重ねること実に数十回。しぶとかったリジッドリザードも、ついにはHPバーを削り切られ、その力果てて足場に倒れ込んだ。


「勝った……!」


 劇的な勝利とともに、レベルアップのファンファーレが鳴り響く。

 緊張の糸がぷつりと切れた俺は、その場にへたり込んだ。今までで一番強かった敵ではないだろうか。少なくとも、タンクとしての重責は全モンスター中の三本指に入るだろう。


「よく死なずに倒せたな。すごいじゃん。俺、絶対蘇生入れると思ってたぜ」


「アタシも動き方見てて、カヲルは乙ると思ってた」


「初見にしてはよくやっただろ?」


「ああ、本当によくやったよ。カヲルもリリーもな」


 人を滅多に褒めない02から珍しくお褒めの言葉を頂いて、俺は照れながら頭をかいた。ベテランプレイヤーの02に認められたなら、頑張った甲斐もあったというものだ。


「んじゃ、忘れないうちに宝箱開けちゃおっか。カヲル、お願い」


「そうだな」


 俺は立ち上がると、リジッドリザードがドロップした宝箱を開けた。そこには、真っ黒なブーツとガントレットが入っていた。


「ブーツはカヲルがつけられるな。ガントレットの方はどうする、あろゑ?」


「あー、どうしよ。重ね着目的でもらおっかな」


「了解。ほらよ」


「あっ、ちょっと! 投げないでよ!」


 あろゑは02の乱暴な扱いにプリプリと怒りながら、そのガントレットをインベントリにしまい込む。


 一方、俺はブーツのステータスウインドウを開いてから足装備を履き替えた。

 「ヴァリトーリアン・ディフェンダーブーツ」というカッコいい名前がついており、見た目もシュッとしてカッコいい。あれだけ苦労した報酬としては十分だろう。


 そのとき、あろゑがいきなり叫んだ。


「あーっ! 思い出した!」


「なんだよ、いきなり! びっくりするだろ!」


「思い出したんだよ、あのクラリスっていうクラフターのこと!」


「ああ、ここに来る前に助けたあのホーリージーニーですね」


「そう! あの人、牙民の間で超有名なクラフターなんだよ! ほら、見て!」


 あろゑは興奮しながらWEBブラウザを開いた。そこには「クラリスのアトリエ」と題したブログが表示されており、装備のスクリーンショットがずらりと並んでいる。


「もしかして、これ全部あの人が作ったのか……?」


「そう! 何でも自分で作っちゃう凄腕のクラフターっていうんで、知名度ピカイチなの! そんな人と知り合いになれたっていうのは、すごいことなんだよ! うーん、ツイてるぅ☆」


 あろゑがそこまで言うということは、相当腕利きの職人なのだろう。


「せっかくだし、お前らなんか装備作ってもらえば?」


「なんか、って……そんなアバウトでいいんでしょうか」


「いいんだよ。専業クラフターってのはみんなものづくりが趣味でやってんだから、餅は餅屋に任せとけ」


 そういうものか、と思いながら俺はクラリスのブログをじっと見つめた。でもせっかく作ってもらうなら、なにかほしい装備を自分なりに探してみようかな。


「ま、それは周回した後の話」


「えっ……まさか……」


 02は悪魔のような笑みを浮かべながら、俺とリリーの首根っこをつかむ。


「地獄のIDマラソンpart3。行ってみようか」


「嫌だ! もうあいつとは戦いたくない!」


「私、ちょっとお腹が痛くなってきたかな~、なんて……」


「やると決まったらやる! はい、テレポートして準備!」


 こうなったらもう02は絶対に曲がってくれない。俺とリリーは観念して、とぼとぼとテレストーンの方へと向かっていく。


「アンタたち、いつもこんな感じなの……?」


「まあ、ね……」


「ご愁傷様です」


 あろゑは悲しそうな顔で目を閉じ、俺に向かって合掌した。

 これも強さのため。そう自分に言い聞かせながら、俺は半泣きでテレストーンを起動した。

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