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DIVE32「熔解尖峰ヴァンバジナ その3」

「これで最後!」


 俺はファイアバットの息の根を止めると、ふうと大きくため息をついた。長く険しい山道もこれでおしまい。次の部屋に続く通路には、白いモヤがかかっている。その向こうに2ボスがいる証拠だ。


「この後はギミック盛りだくさんだけど、例によって俺は何も言わないからな。頑張れよ二人とも」


 若干脅すような口調で02にそう言われ、俺は雑魚相手に緩んでいた気を再び引き締めた。


「初心者にそれはちょっと厳しくない? 少しくらい教えてあげなよ」


「いいんだよ、これで。こういうのは自分で覚えようとしないと覚えないからな」


 たしかに、自分の目で最初に確かめたギミックはよく覚えている。02の言うところには一理あると思った俺がうなずくと、隣に立っているリリーも同様にうなずいた。習うより慣れよとはよく言ったものだ。あろゑはそんな俺たちを見て、苦笑しながら肩をすくめた。


「それじゃ、入るぞ」


 モヤをくぐると、そこには天井部分の開けた大部屋があった。おそらくここが火口部分に当たる場所だろう。

 壁際にはシャドウが立っており、その隣には巨大なトカゲがたたずんでいる。


「もうここまで追いついてきたのか。思っていたよりやるようだな」


 再び相まみえたシャドウは、芝居がかったハスキーボイスでこちらに語りかける。


「とはいえ、ここでの私の仕事(・・)はもう完了した。ま、あとはせいぜい頑張ってくれたまえよ、冒険者諸君」


 シャドウはフードを深くかぶり直すと、火口から飛んで出ていった。翼もないのに一体どうやって飛んでいったのか、俺は不思議で仕方がなかった。空を飛ぶ魔法でも使えるのだろうか。


 それはさておき、いまは目の前の敵に集中しなければならない。全身ザラザラとした灰色の鱗に覆われた大トカゲ――リジッドリザードが、俺たちに向かって牙の生えそろった口を開けながら威嚇した。


「くっ……!」


 俺は猛突進してきたリジッドリザードを〈粘着〉アビリティと盾で押しとどめた。強烈な衝撃が俺の両腕を襲い、頭上のHPバーが少し削れる。盾越しに受けてこのダメージとなると、直撃を食らったら相当痛そうだ。


「スロウかけます!」


「頼む!」


 リリーのとっさの判断で、ミストインジェクションが放たれる。リジッドリザードの動きがわずかに鈍化して、俺は攻撃を辛うじて見切れるようになった。

 ボス級魔物には効きづらいらしく、雑魚相手に使ったときほどの劇的な変化は見られないものの、かけないよりは全然ましだ。


「バリオルかけたぞ!」


「おう!」


 続いて02の剣から放たれたバフによって、俺のHPバーが上限を越えて大きく伸びる。これで大打撃を食らっても即死は免れられそうだ。


 俺はリジッドリザードと力比べしながら、中央に踏みとどまる。その間に、あろゑが側面から連続コンボを叩き込んだ。


「コイツ、相変わらず固ったい……!」


 あろゑの殴ったところから灰色の殻がボロボロと落ち、橙色の皮が露わになった。どうやらこいつは自分の全身を固い殻のようなもので覆っているらしい。ということは――


「これでどうだ!?」


 俺は殻が剥けたところに目掛けてダイビングスラッシュを放った。するとHPバーが大きく減少し、リジッドリザードは鳴き声をあげながら嫌そうに首を振った。

 予想通りだ。殻の下の皮膚は柔らかく、弱点になっているのだ。そうと分かれば話は早い。


「リリー、殻が剥がれているところを狙え!」


「はいっ!」


 さらにリリーのフェザーシュートとエリアルスパイクがリジッドリザードの弱点を突く。やつは苦悶の鳴き声を出しながら後退すると、いったん溶岩の中に潜った。


「あの灰色の殻って、もしかして溶岩?」


「正解!」


 別のゲームで似たようなモンスターと戦ったことがあったので、俺はすぐにピンときたのだった。案の定、マグマの中から上がってきたリジッドリザードの体を見ると、剥がれた殻はすでに修復されていた。


 ファイアジーニーといい、こいつといい、こんな熱い溶岩の中に入ってよく平気でいられるな。そう思いながら、俺は再びリジッドリザードを中央に押しとどめる作業に入った。


(殻を剥がしながら攻撃するのを見てると、なんだか海老の殻剥きみたいだな……)


 疲れからか、そんなくだらないことを考えている俺の前で、リジッドリザードは動きを少し変えてきた。両前足を掲げて上に大きく伸びあがると、その巨体を思い切りこちら側に倒してきたのだ。


「やべっ……!」


 俺はなんとか移動して避けようと思ったが上手く避けきれず、そのボディプレスをもろに被弾してしまった。吹き飛ばされながら、俺は地面に膝と手をついて踏ん張った。


「痛てぇ~!」


 HPバーがガッツリ削られ、俺は冷や汗をかいた。バリオル込みでバーの半分を持っていかれるとは、相当のダメージ量だ。俺のレベルがまだ低いこともあるが、それにしてもかなりの強敵であることは間違いなかった。


「いま回復する!」


 02の回復魔法ヴァル・レメディが飛んできて、俺は体力を全回復した。これでまた戦える。俺は心の中で感謝しながら、めげずにリジッドリザードへと向かっていった。

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