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DIVE27「お人好し」

 善は急げということで、俺たちはクエストカウンターへとやってきていた。レベリングを兼ねて、残っているストーリークエストを進めるためだ。

 前回はジュールとの印象的な出会いがあったが、果たして今回はどんな内容になっているのだろうか。


 今回は新たなメンバーとして棘咲あろゑも同行している。ダンジョンを周回するなら人手は多い方がいいという理由で02が呼びつけたのだ。


「なんでアタシも一緒に行かないといけないんだよ!」


「垢 B A N」


「うっ……分かったから、その目はやめて……怖いから……」


 02にぎろりと見つめられ、あろゑは怯えながら肩を縮こまらせた。彼女はどうやら02に多少の苦手意識があるらしく、彼の前ではしおらしいことが多いようだ。

俺とリリーはそれを見て思わず苦笑した。


「それじゃ、続き行くぞ」


 俺は気を取り直してエリザに話しかける。


「おや、期待の新人くんたちじゃないか。元気にしてたかい?」


「ああ、おかげさまで」


「ジュールくんから聞いたよ。前回は災難だったね。でも、アンタたちのおかげで色々分かってきたよ」


 エリザはカウンターの上に地図を開いた。そこにはいくつものバツが書いてある。


「実は各地の魔物の増加について、調査を進めているうちにある仮説が浮かび上がったんだ」


「仮説?」


「魔王城のある位置に近づくにつれて、魔物の強さと出現頻度が上がっていってるんだ。そこから推測されることは、ただ一つ」


 俺は緊張しながらエリザを見つめる。それって、つまり――


「魔王が復活したんじゃないか、ってことさ」


「魔王……!」


 この世界の魔王がどういう扱いなのかは分からないが、エリザの表情から察するに、少なくとも善良な存在ではなさそうだ。


「いますぐどうこうという話ではないけれど、十分に注意しておく必要がありそうだ。アンタたちも、あまり魔王城の方へは近づかないように」


「分かりました」


 メタ的に考えれば、そっちの方に行けば行くほど強い敵が配置されている、ということなのだろう。その魔王城なるものも気になるには気になるが、いまはダンジョンでのレベリングが優先だ。横筋に逸れずに、クエストを進めよう。


「さて、暴雪原人を倒せたアンタたちにはもう少し難しい依頼を回しても良さそうだ。ヒギンズには言っておいたから、詳しくは彼から聞いてちょうだい」


「分かりました」


 俺たちはエリザの隣にいるヒギンズへと視線を移した。


「よく来たな。いまお前さんたちに回せるのはこんなところだな」


 俺はクエスト一覧の中から、新たに追加されたクエストを表示した。

 ナイヴズ山脈に住まうリジッドリザードの討伐。難易度は☆3。報酬は3000ジラだ。


 俺は迷わず、「受注しますか?」の下にある「受注」のボタンを押した。クエスト開始のファンファーレが鳴り、受注が無事に完了したことを告げる。


「なあ、リジッドリザードってどんな敵なんだ?」


「めんどくさいんだよねー、あいつ」


「一撃一撃が強いし、硬くてなかなかやりづらい魔物だよ。下手すると乙もありうるから、気を引き締めていくぞ」


「ああ、分かった!」


「はい!」


 俺たちは気合いを入れると、ダンジョンの所在地であるナイヴズ山脈へと向かうことにした。


 モンスター陣営の首都ヘネクの活気ある街並みを歩いていくと、やがて西門のある広場へとたどり着いた。

ここから先はバトルエリア、魔物やPK目的のPCに襲われる可能性がある。


「準備はいいな?」


「もちろん!」


「ああ」


「はいっ」


 俺たちは出発前の軽い確認を終えると、周囲に気を配りながら、街道を道なりに歩いていった。


 最初は平地だったのが、進むにつれて段々と道が険しくなっていき、やがて両側を崖に挟まれた細い峠に差し掛かる。そのとき、遠くの方からなにやら話し声が聞こえてきた。


「うわぁっ!」


「さっさと倒れろやオラァ!」


「言われた通りに倒れる方がおかしいんじゃないかなぁ!?」


「つべこべ言わずに死ねっ!」


 聞いた限り、あまり平和的な会話ではないらしい。進行方向と同じだったこともあり、俺たちは急いでその音の出所へと駆けつけた。

 見ると、三人のゴブリンに囲まれた小柄な人型の精霊モンスター――ホーリージーニーが、攻撃をすかしながらひらひらと動き回っている。


「お前ら、やめろ!」


「あぁん?」


 太っちょゴブリンは棍棒を肩に担ぎながら、訝しげにこちらを振り返った。


「またPKしてんのか、お前ら。しかも低レベルを狙って初心者狩りか」


「またって、お前どっかで俺たちと会ったか?」


「ああ。よーく覚えてるよ。俺もリリーもな」


 ゴブリンたちはお互いに顔を見合わせている。向こうは全く覚えていないらしい。ただの獲物なんか記憶にない、ってことか。つくづく最低なやつらだ。


「お前たちのPK、今度はきっちり止めさせてもらうぞ」


「あのときの恨み、晴らさせてもらいます!」


「何言ってんのかよく分かんねぇけど、俺たちの邪魔をするなら容赦しねぇぞ!」


 ゴブリンたちのレベルは26。対して俺とリリーはレベル18、あろゑはレベル25。レベル30の02がいるとはいえ、状況はほぼ互角か、少しこちらが劣勢といったところだ。


「ああ、もう! 放っとけばいいのに!」


「こういうやつらなんだよ。諦めて一戦付き合え」


「はいはい! 分かりました!」


 残り二人のゴブリンが棍棒を構えると、あろゑと02も武器を構える。こうして、初めてのPvPは乾いた土煙が舞い上がる峠でスタートした。

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