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DIVE3「チュートリアル」

「――おい! おい! 起きろ!」


 俺は大声で呼びかけられ、慌てて目を覚ました。


 目の前には水色のスライムがいて、こちらを見下ろしていた。

 その頭上にはゲイリーとキャラ名が表示されている。文字が緑色であるところを見る限り、どうやらNPCらしい。


 ゲームを始めたてにしてはやけに手荒い歓迎だった。


「お前、大丈夫か!? ここは危ない! 早く避難しろ!」


「は、はあ……?」


 俺は浮遊感に包まれながら体を起こした。

 スライムの操作感は随分と独特らしく、地に足がついている気がしない。ずっと水中に漂っているような、そんな感じだった。


 周囲を見渡すと、どうやらここはモンスターの村のようだった。質素な木製の家がいくつも連なっている。

 しかも恐ろしいことに、それらの家々は燃え盛る炎に包まれていた。その近くには、パニックになりながら逃げ惑うスライムたちの姿も見える。


 こういうときこそ冷静さが必要だ。俺はゲイリーに恐る恐る尋ねた。


「何があったんですか?」


「ああ、さっき人間たちが攻めてきたんだ!この村はもうおしまいだ!早くここから離れるんだ!」


 なるほど、そういう感じか。この村から逃げながら、操作を覚えろってことだな。


「分かりました。ありがとうございます」


 ゲイリーに例を言うと、俺は画面上に表示される矢印に従いながら移動を始めた。

 ぼよんぼよんと飛び跳ねながら、ダッシュで村の外へと向かう。この何とも言えない弾力が癖になりそうだ。


 そのとき、火に包まれた家屋の柱がこちらに向かって倒れてきた。


「うおおっ!?」


 すんでのところでそれに気がついた俺は、慌ててそれを回避した。ずしんと音を立てながら柱が地面に倒れ込み、巻き起こる熱風が頬をなでる。


 とてもリアルなその感覚に俺は思わずうめいた。ゲームとはおよそ思えない臨場感だ。


 気を取り直して進んでいくと、ほどなくして村の外へ脱出することに成功した。村を囲んでいる柵の切れ間から、森の中を抜けるようにして道が続いている。


 道端に立っている看板を見ると、この先には「アムナック」があると書いてあった。モンスターたちが住む街の名前だろうか。


「さあ、こちらへ!」


 柵の横に立っているNPCのスライムが、さらに先へ進むよう促してくる。素直にその誘導に従い、アムナックへ向かおうとした、そのときだった。


 木の合間から一人の人間が飛び出してきた。頭上には「帝国騎士 Lv.1」と赤字で表示されている。

 鉄鎧を身につけており、手にはそれぞれブロードソードとシールドを握っている。いかにも強そうな見た目だ。


 画面上に新たなチュートリアルが表示され、俺は立ち止まった。攻撃の方法が書かれている。俺はその指示の通りに操作してみた。


「はあっ!」


 伸縮を利用して、スライムの体が帝国騎士の下へ飛び出していく。そのまま勢い良く体当たりすると、帝国騎士はよろけながら後退した。

 ダメージが表示され、HPのゲージが三分の一ほど減少する。


 帝国騎士は体勢を立て直すと、反撃してきた。お気に入りのぷるぷるボディが深々と切り裂かれ、俺は悲鳴をあげた。

 このままじゃ死――


「――あ、あれ?」


 驚くべきことに、表示されたダメージ量はたったの1。ほとんど痛みもなかった。物理耐性のアビリティが功を奏したらしい。

 雑魚敵として長年あしらわれてきたスライムの面目躍如といったところだろうか。


 これならいけそうだ。勢いに乗った俺は、立て続けに体当たりを決めた。帝国騎士は反撃する暇もなく倒され、地面に倒れ伏した。


 それからも、道を進むたびに帝国騎士が現れ、倒しの繰り返し。数人を倒したところで軽快なジングルが鳴った。


「よっしゃ! レベルアップ!」


 すると、画面の右上に小さな通知が表示された。レベルが上がる度にステータスボーナスがもらえるらしい。


 メニューウインドウから自分のステータスを開くと、たしかに残りポイント:2と書かれており、それが各ステータスに振れるようになっている。


 よく分からないので、俺はATK(攻撃)の値に全部振っておいた。こういうのは大抵攻撃に振っておけば間違いないはずだ。たぶん。


 こうして、俺の初めての戦闘は、チュートリアルとはいえ気持ちの良い結果に終わった。


 俺はヘッドギアを購入して初めての手応えを感じながら、戦火を逃れるため先を急ぐのだった。


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