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DIVE26「対抗策」

 ギルドハウスに戻ってきた俺たちは、得た情報を四十万と共有することにした。もちろん、あろゑの件については上手く真実を伏せながら、だ。


「つまり、そのジャオーが『アクセル』を蔓延させている元凶だと……?」


「はい。そのようです」


「どこからその情報を?」


「それはほら、あろゑちゃんの持ってる広いツテでさ」


 02の口の上手さに感心しながら、俺はそれを援護するために大きくうなずいた。リリーも俺にならって、うんうんとうなずいている。


 ここで運営にあろゑを売るのは簡単だが、それよりもいまは彼女に恩を売っておいて、その人脈の広さを活用した方がいいのではないか、というのが俺たちの出した結論だった。


「なるほど。当初の予想は外れたが、棘咲あろゑと接触したのは結果的に正解だったようだね」


 四十万は怪しむことなく02の言い分を信じたようで、にこやかに笑っている。ここで問い詰められたらどうしようかと思っていたが、その心配は無用だったようだ。


「となると、問題は彼をどう落とすか、だな」


「四十万はその、『ケオティック』に乗り込む危険性については理解できてるのか……?」


「ああ、もちろんさ。ただでさえPKギルドだというところに持ってきて、『アクセル』の存在があるからね」


 さすが四十万、頭の回転は俺たちより数段早い。


「だが、我々運営もこの数週間、ただ手をこまねいていたわけではない。きみたちから受け取った『アクセル』の解析を進めた結果、あることが判明した」


「あること?」


 四十万は一枚のウインドウを開いた。そこには、「アクセル」のデータの解析結果が事細かに表示されていた。その内容はよく分からないが、どうやら解析は順調に進んでいるらしい。


「『アクセル』のデータには、『The Fang』に既存のバグが含まれていることが判明した」


「既存のバグ? チートデータじゃなくて?」


「ああ。しかも、ゲームのデータの根幹に関わるバグだ。現状、我々には手が出せない領域のね」


「手が出せないって、そんな! 運営だったら直せるんだろ!?」


五嶋郁斗(いつしまいくと)。聞いたことはあるか?」


 運営体制のずさんさを糾弾しようと思っていた俺は、(やぶ)から棒に人名を出され、出鼻をくじかれた思いでうなずく。


「ああ、名前くらいは……」


「ゲーマーならみんな知ってる人だよな」


 首をかしげているリリーを見て、四十万は別のウインドウを開いた。

 それは某wikiサイトのページだった。ある男性の人物紹介が、本人の顔写真とともに載っている。


「五嶋郁斗。現在のVRゲーム隆盛の祖とも言える人物だ。また、VRMMORPG全てのテンプレートともなる『ZTOA(ズィトーア)』を作った天才でもある」


 「ZTOA(ズィトーア)」といえば、ニュースにも取り沙汰された有名なVRゲームだ。ついぞ一般公開はされなかったが、技術者やゲーマーの界隈では一時期その話題で持ちきりとなった記憶がある。


「現代に誕生したVRMMOは全て、オープンソースである『ZTOA(ズィトーア)』のシステムを流用して作られている。それはこの『The Fang』も例外ではない」


「じゃあ、そのシステムをいじって直せば……!」


「それが、簡単には手が付けられないスパゲッティコードで書かれていてね。しかもわざとそうしてあるのか、そのスパゲッティは極めて重要な部分にだけ複雑に絡まっているんだ」


「それじゃあ、俺たちにはそのバグはどうしようもない、ってことですか?」


「残念ながらね」


「そんな……!」


 VRMMOそのものにそんな脆弱性があるだなんて初めて聞いた話だが、『The Fang』のプレイヤーの監視を取りまとめる優秀な技術者である四十万が言うのならきっとそうなのだろう。


「少し話が逸れたね。とにかく、いま我々にできることは『アクセル』が引き起こす副作用をいかに防ぐか、ということだ」


「ゲームシステムそのものを改善することで対応できないなら、あとは対症療法をするしかない、ってわけか」


「そういうことだ。そこで我々はいま、あるものを開発している。それがこれだ」


 四十万はすでに表示されている「アクセル」のウインドウに並べるようにして、もう一枚のウインドウを開いた。そこにはCDのような丸いディスクが浮かんでいる。


「これは相手に直接打ち込むことで『アクセル』の強い精神浸食と依存性、そして現実への影響を抑えることができる、ワクチンのようなプログラムだ。その名も『ブレイク』」


「『ブレイク』……! これがあれば……!」


 「アクセル」の毒牙にかかったあろゑを救うことができる。そう言いかけて、俺は危うく言葉を飲み込んだ。


「完成にはあと少し時間がかかる。きみたちにはそれまでもうしばらく待っていてほしい」


「分かった。その間、俺たちは何をすればいい?」


「あの『ケオティック』の本拠地に赴くんだろう?だったら、もっと強くなるべきだ。そうは思わないか?」


 俺たちは四十万の視線に射止められ、ごくりとつばを飲み込んだ。


 現在の俺とリリーはLv.18。初期よりだいぶ強くなったとはいえ、これでもまだ強豪プレイヤーにはレベルでも経験でも敵わない。

 それならばせめてレベルだけでも追いついておきたい、というのは俺でもすぐに分かることだった。


「そうと決まればレベリング、だな」


「私たち、もっともっと強くならなくちゃ……!」


「ああ!」


 俺とリリーは互いにうなずきあった。

 目指すはレベルキャップの30だ。険しい道のりだが、02の助けがあればきっと乗り越えられる。

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