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DIVE23「棘咲あろゑの牙☆生 part2」

 あろゑ一行は、ドームリルを順調に攻略していった。


 ミストが「パウダーダンス」や「ブルームウィップ」でヘイトを稼いでいる間に、リリーが円範囲内の敵に継続ダメージを与える「ミールストーム」を設置。

 あろゑはすばしっこく動き回りながら敵を殴りつけ、リリーと悪即山(あくそくざん)は遠距離から攻撃する。


 即席のパーティにしてはよく連携できていると俺は思った。


「どう思う、02?」


「確かに被弾は少ないけど、雑魚相手だとまだ分からないな。2ボスでどうなるかってとこだな」


 あろゑはコメントを適宜読み上げたり、パーティメンバーと他愛もない世間話をしたりしながら、ガンガン敵を倒していく。

 並行作業だなんて器用だなぁと思いながら、俺はその戦いを見守った。


 そうこうしているうちに1ボスのホワイトゴーレムも難なく倒し、残すは2ボスのみとなった。


〈もう終わっちゃうね~〉


〈サクサクだな〉〈みんな強いな〉〈あろゑもリリーもかわいい〉


〈最後だし、このままカッコよくビシッと倒して終わろっか☆〉


〈はい!〉


〈了解!〉


 あろゑはボスエリアの白いモヤに入る前に、再びポーションを取り出した。


〈ボス前にはやっぱりキメとかないとね☆〉


〈魔剤入りまーす〉〈魔剤タイム〉〈もう三本目やんけ〉〈キメすぎで草〉


 仮にこれらのポーションが全て「アクセル」だとすると、相当多くの量を服用していることになる。彼女の体調が心配になるところだ。


〈ふぃ~。よし、行きますか〉


 大きく息を吐くと、あろゑは白いモヤの中へと突入した。そのすぐ後ろをミストたち三人がついていく。


 最後に控えていた2ボスの暴雪原人に、あろゑは果敢にファーストアタックを仕掛けた。


〈やあっ!〉


 続けてミストが「パウダーダンス」で注意を引きつけると、暴雪原人はそちらへ向かっていった。その間に、リリーが「ミールストーム」を設置。ここまでは安定の流れだ。


 そのとき、暴雪原人はミストに向かって両腕を力強く振り下ろした。ミストが立っている位置を貫通するようにして衝撃波が地面を走り、その背後を走っているあろゑの下へと進んでいく。


〈っ……!?〉


 とっさの出来事にあろゑは避けきれず、衝撃波に当たったかのように見えた。しかし、HPバーは全く削れていなかった。


〈すげぇ〉〈神回避〉〈上手い〉


「今のは?」


「確かに怪しいけど、実際のところは分からない。ラグかもしれないし、反射的に避けたのかもしれない。断定はできないな」


「そうか……」


 やはり、プレイヤーの動きを見ただけで「アクセル」の服用の有無を見分けるのは難しいのかもしれない。


 その後、暴雪原人のHPバーは徐々に削れていき、やがて半分程度になった。


 すると、暴雪原人はいきなり部屋の壁を叩きだした。その衝撃が伝わったのか、天井から巨大な氷柱が三本落ちてきて、地面に突き刺さる。


〈こっからが本番だよ、みんな!〉


 あろゑが言う通り、ここからはギミック処理のフェーズだ。暴雪原人が放つ衝撃波を氷柱に当てないように上手く誘導しながら、ミストがヘイトを取り続ける。


 そうしてしばらく経つと、暴雪原人は大きく飛び上がって岩の天井に張り付いた。


〈はい、氷柱に隠れて~!〉


 あろゑたちは氷柱の陰に隠れながら様子を伺う。それから数秒の後、暴雪原人は地面にボディプレスをかました。三本の氷柱が豪快に砕け散る。


 このときにちゃんと隠れていないと、ボディプレスによって大ダメージを食らってしまう。

 幸いなことに、リリーはすでにこのギミックを予習済みだったので、スムーズに動くことができたようだ。


 息を切らしている暴雪原人に、あろゑたち四人は攻撃をぶち込んで一気に畳み掛ける。二回目のボディプレスが来る前に倒し切りたいところだが、果たして上手くいくだろうか。


〈もう少し……もう少し……!〉


 あろゑたちの必死の猛攻を受けて、暴雪原人はついに力尽きた。包丁を取り落すと、どすんと豪快に倒れ込む。


〈やったー! クリア! みんなありがとう!〉


〈うおおおおおおおおお〉〈やるやん!〉〈やったああああああああ〉


 あろゑは嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。その様子を見たコメント欄も大盛り上がりだ。


〈宝箱の前で記念撮影しよ!〉


 あろゑたちははしゃぎながら、暴雪原人が落とした宝箱の前に集まってスクショを撮り始めた。


「この配信を見てどう思う?」


 俺の問いかけに、02は腕を組みながらうーんと唸った。


「グレーだな。ただのロールプレイかもしれんし、断定するには証拠が足りなすぎる」


 やはり、普通のポーションと見分けがつかないところが厄介だ。目の前で堂々と飲まれても判別がつかない。となると、やはり本人に直撃するしかないだろうか。


〈宝箱の中身は~? あちゃ~、どっちも妖魔族(ウィマナ)用装備だ。誰も装備できないし、これは後で売ろう〉


〈残念〉〈運悪いな〉〈そういうこともある〉


 あろゑは手に入れた防具をインベントリにしまうと、配信画面に向き直った。


〈さて、そろそろ締めようかな。みんなから一言ずつもらえますか?〉


〈はい。ミスドじゃなくてミストです。気持ちよくプレイできて楽しかったです。いい思い出になりました。ありがとうございます〉


〈よくやったミスド〉〈いいぞミスド!〉〈上手かった〉


〈じゃあ次、悪即山さん〉


〈えーと、コメントで「いいやつそう」って言ってもらえて嬉しかったです。これからもあろゑちゃんのこと応援してます! 頑張ってください!〉


〈いいやつやんけ!〉〈実際いいやつだった〉〈これはホーリーエレメンタル〉


〈最後、リリーちゃん!〉


〈はいっ! あろゑちゃんがとっても可愛くて、見とれてたらあっという間に終わっちゃいました。これからも頑張ってください!〉


〈かわいい〉〈かわいいしつよい〉〈おまかわ〉


〈みんな、手伝ってくれてどうもありがとう☆ この後はいつも通りしばらくギルドハウスにいるから、気軽に遊びに来てね! それじゃ、ばいろゑ!〉


〈ばいろゑ~〉〈ばいろゑ〉〈ばいろえ~〉


 あろゑのPCがアップで手を振っているところで、生配信は終了した。


「リリーのやつ、上手くやってくれるといいんだけどな……」


 配信外で会える段取りをつけてくれれば、後は俺たちが乗り込んでいってなんとかできるかもしれない。そんな微かな希望にすがりながら、連絡を待つこと数分。


「来た! DMだ」


 俺は急いでウインドウを開いた。差出人はリリー。


「『アクセル』の話を出したら、会えることになりました。いますぐあろゑちゃんのギルドハウスまで来てください。だってよ!」


「マジか! あいつ、やりやがった!」


 俺と02はにこやかにハイタッチした。リリーの大手柄に、四十万も心なしか頬がほころんで見える。


 これでようやく本人とご対面だ。

 この出会いが事態を進展させる大きなきっかけになるかどうかは、俺たちの会話の手腕にかかっている。その重責に、俺は心がソワソワするのだった。

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