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DIVE22「棘咲あろゑの牙☆生 part1」

 俺たちは「シーカーズ」のギルドハウス内でWEBブラウザの画面を眺めている。表示されているのは、Vtuber棘咲(とげさき)あろゑの生配信だ。


「もうすぐだな」


「ああ」


 俺と02は、リリーがこの前新しく置いてくれた白いソファにゆったりと腰かけながら、四十万はきちんとテーブルの椅子に腰かけながら、配信が始まるのを待機している。


 この前「定期交流会」に応募した俺たちだったが、無事当選したのはリリーだけだった。


 日頃の行いというか、ファンだから応募メッセージに熱がこもっていてそれが伝わったというのはあるかもしれない。


 というわけで、俺はリリーの出番を若干ワクワクしつつ待ち構えているのだった。


「おっ、来た!」


〈肥料のみんな、おはろゑ~! 棘咲あろゑの(きば)(なま)、始まるよ~!〉


〈おはろゑ~〉〈あろゑちゃんおはろゑ~〉〈おはろゑ〉


 画面中央にはThe Fangのプレイ画面が映っている。

 あろゑのアバターは獣魔族(アニマ)に属するアルミラージのようだ。額に角が生えたウサギが地面の上でぴょんぴょんと跳ねている。


 画面右下にはトゲ立った緑色のツインテールをした可愛らしい少女の立ち絵が配置されており、謎技術によってぐりぐりと動いている。たしかそういうソフトがあるんだっけか。

 また右枠のコメント欄では、「肥料」と呼ばれる視聴者たちが打ち込んだ大量のコメントが流れていく様が見てとれた。


〈さて、今日は毎週恒例の定期交流会だね! 今回も沢山の募集、どうもありがとう! 残念ながら当たんなかった肥料のみんなは、来週また頑張ってね☆〉


〈当たんなかった(T_T)〉〈当たった奴らうらやま〉〈俺にもその運分けてくれよ!〉


〈では早速、選ばれし三人に登場してもらおっか。こちらへどうぞ~〉


 あろゑの呼びかけに応じて、三名のモンスターPCが画面脇から現れた。


〈それぞれ、種族と自己紹介をお願いしま~す〉


〈マンドラゴラのミスド……噛みました、ミストです。あろゑちゃんを守る盾になれればと思います。よろしくお願いします〉


〈ミスド?〉〈ドーナツなのに草〉〈ドーナツなのに草は草〉〈草生える〉


〈ダークエレメンタルの悪即山(あくそくざん)です。今回は選んでいただけて本当に嬉しいです。よろしくお願いします〉


〈面白い名前してんな〉〈斬るんじゃなくて山送りか〉〈見た目は悪いけどいいやつそう〉


〈ハルピュイアのリリーです。配信、いつも楽しく見ています。この交流会も楽しんで帰ろうと思います。よろしくお願いします!〉


〈かわいい〉〈この種族なに?〉〈こんなのあったか?〉〈イカロスの変種じゃね〉〈レア種族かな?〉


 コメント欄がリリーの種族についてざわついているのを見た俺と02は頭を抱えた。リリーは上手く言い訳できるだろうか。


〈リリーちゃん、その種族についてちょっと聞いてもいいかな?〉


〈あっ、はい! これはなんか、適当にステータスを振ってるうちに、気づいたらこうなってました!〉


〈草〉〈初心者か~?〉〈よく分かってないの草〉〈攻略班はよ〉


 初心者ムーブとその場のノリでまあまあ上手く誤魔化せたようだ。まあ、分からないと言っておくのが一番無難だろう。


 もっとも、今ごろネット上の各所では大騒ぎになっているに違いない。もちろん、半ば不正に転生している俺自身も明日は我が身である。

 今後の身の振り方については、一度リリーと話し合う必要がありそうだ。


〈というわけで、今回はこの濃ゆい三人とパーティを組んでやっていくよ~! んじゃこれからパーティに誘うから、三人は入ってね☆〉


 無事にパーティが組めたことを確認すると、あろゑはコンテンツウインドウでI(インスタンス)D(ダンジョン)の物色を始めた。


〈今日はどれに行こっかな~。みんなのレベルから考えるとドームリルとかどうかな?〉


〈ええやん〉〈いいね〉〈ドームリルならグダらんだろ〉〈わちゃわちゃするところも見たかったけどな~〉


 パーティメンバーの三人はそれぞれうなずいた。

 リリーはすでに何度か「ドームリル」に通っているから、立ち回りは大丈夫だろう。


〈よし、それじゃあドームリルで決まり!行ってきま~す!〉


 あろゑは元気よく飛び跳ねると、ダンジョンへ突入した。パーティメンバー共々、その場でテレポートすると、彼女らはダンジョンの開始地点へと転移した。


 氷に包まれた鍾乳洞の一角に降り立つと、あろゑは早速インベントリからポーションを取り出した。


〈んじゃまず、景気づけに一発キメますか〉


〈早いな〉〈魔剤〉〈魔剤きた!〉〈はい一本目〉


 あろゑはそう言うなり、慣れた手つきでふたを開け、瓶の中身を勢い良く飲み干した。


 隣でそれを見ているリリーの表情が若干こわばったのを、俺は見逃さなかった。

 応援している配信者がドラックジャンキーかもしれない、という状況を目の当たりにしている彼女の心情は察して余りある。


〈ふぃ~、いいねぇ。ポーションはリリンの生み出した文化の極みだよ。それじゃ行こっか〉


 あろゑは気分上々で鼻歌を歌いながら先頭を歩いていく。その後ろをミストと悪即斬は楽しそうに、リリーは控えめに最後尾でついていった。

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