DIVE21「永久凍洞ドームリル その2」
スタミナを回復した俺たちは「ドームリル」の後半を着実に進んでいく。
リリーのミールストームは結構有用で、敵の体力を削るのが以前と比べて格段に早くなった。
それともう一つ攻略を効率的にしているのが、俺がLv.10で覚えた新スキル「ダイビングスラッシュ」だ。これは敵一体に向かって飛び込みながらダメージを与えるというスキルで、これを打つだけで移動がかなり楽になる。
そんなわけで、一回り成長した俺たちはついに2ボス前の白いモヤへとたどり着いた。
「この敵は今までとひと味違うぞ。心していけ」
02がそこまで言うということは、よほどの敵なのだろう。俺とリリーは真剣な表情でこくりとうなずく。
俺は一度深呼吸すると、モヤをゆっくりとくぐり抜けた。
開けた部屋の中央には、包丁を手に持ち、全身を白い毛皮に覆われた、なまはげとイエティの合いの子のような敵、暴雪原人が立っていた。
その眼前には、すでに到着していたジュールが勇敢にも対峙している。
と思いきや、彼は足元にへたり込んだ。
「ひ、ひいい……! 助けて……!」
地面を這いつくばるようにして、ジュールは近くにある岩の影へと逃げていく。腰が抜けて動けないだけだったようだ。ちょっとは見直したと思ったのに、残念な結果だった。
ジュールを見送った暴雪原人は、その凶暴な視線をこちらに向けた。
「行くぞ!」
「はい!」
俺はダイビングスラッシュを暴雪原人にぶつけて、先制攻撃から戦闘に入った。
暴雪原人は包丁を振り回してこちらを攻撃してくる。木製のラウンドシールドでガードできているのが不思議なくらい鋭利な包丁だ。気分はまるでまな板といったところか。
リリーが地面に設置したミールストームの威力により、暴雪原人のHPバーはどんどん削れていく。この調子なら、割と早く終わりそうだ。
と、暴雪原人は両腕を頭上に振りかざした。俺はしっかりと受け止めるため、足裏に〈粘着〉を発動、衝撃に耐える心づもりをする。
しかし、その攻撃は予想より少し外れていた。暴雪原人が地面に向かって腕を力強く振り下ろすと、俺の体を突き抜けるようにして衝撃波が走ったのだ。
「きゃあっ!」
背後でリリーの声が聞こえ、慌てて振り返ると、リリーの頭上にあるHPバーがゴリっと削れているのが見えた。どうやらあの衝撃波に当たってしまったようだ。
「直線上に並んじゃダメだ! 軸をずらして!」
「はいっ!」
リリーは暴雪原人の周りをぐるりと回り、立ち位置を変えた。これで、また衝撃波が来ても大丈夫だろう。
その後、何度か衝撃波を発射されたものの、俺以外にそれが当たることはなく、暴雪原人のHPバーは順調に削れていった。
そうして、暴雪原人のHPが半分を切ったとき、やつの動きは急変した。俺を無視して、壁の方へと歩き出したのだ。
必死に攻撃しても、全然こちらを振り向かない。
そのうち部屋の端にたどり着くと、暴雪原人は思い切り壁を殴りつけた。すると、頭上から巨大な三本の氷柱が落下し、地面に突き刺さった。
「敵の動きをよく見とけ!」
言われた通り、俺は暴雪原人の動きを注視した。暴雪原人はしばらく暴れ回った後、部屋の中央へ向き直り、大きくジャンプして視界から消え去った。
「んっ……!?」
意味が分からず、俺は02の方を見る。しかし、02はニヤニヤしながら肩をすくめた。
ヒントはくれるが、答えを教えてはくれないらしい。自分で気づけということか。
俺はもう一度暴雪原人の行方を探った。大ジャンプしたのに落ちてこないということは――やはりそうだ。天井の中央にがばっと張り付いている。
そして、地面には三本の巨大氷柱が立っている。これが理由もなく落ちてきたとは思えない。
この状況から導き出される結論は――
「02、リリー、こっちだ! 早く隠れるんだ!」
「えっ!? は、はいっ!」
俺は二人を連れて氷柱の陰に入った。暴雪原人がおそらく落下してくるであろう地点を氷柱で挟んで、その反対側に立つ。
その直後、暴雪原人は腕を離し、地面に盛大なボディプレスをかました。部屋全体に衝撃波が走り、三本の氷柱が砕け散る。
「大正解。良く分かったな」
「まあな」
「よーし、この後はチャンスタイムだ! 好きなだけ殴れ!」
俺たちは地面に突っ伏している暴雪原人に殴りかかっていった。
HPバーが残り四分の一程度だったということもあり、暴雪原人は再び立ち上がることもなく、そのまま力尽きた。
「やった!」
「おめでとう。これでダンジョン制覇だ」
互いにハイタッチして喜びを分かち合う俺たちだったが、ふと背後から声がして振り返った。
「こ、今回は君たちの手柄にしてやるよ! でも、この次はそうはいかないからな!」
岩陰から転がり出たジュールは、足をわなわなと震わせながら俺たちを指差し、そして一目散に逃げていった。
「何だったんだ、あいつ……」
「思ったよりヘタレでしたね」
「な、だから言っただろ? 人気がないわけじゃないって」
最初はいけ好かないやつだと思っていたが、ふたを開けてみれば、なかなかどうして憎めない人間味のあるキャラクターだ。これはファンアートが沢山あるのもうなずける。
「んじゃ、宝箱を開けてみようか」
「そうだな」
暴雪原人が落とした宝箱を開くと、そこには毛皮でできた首巻きと盾が入っていた。
「首巻きはリリーがつけれそうだな」
「ありがとうございます! 大事に使います」
「それじゃ、盾は俺が」
アイテム名は『スノウファーシールド』。今付けているラウンドシールドよりも補正値が強いので、俺は早速装備した。見た目に反して軽く、着け心地もよい。
また一つ強くなった手応えを感じ、俺はふっと小さく笑った。
「それじゃ、もう一周行ってみよう!」
「うえぇ!?」
「ちょ、ちょっと休憩を……」
「時間がもったいないだろ。はい、習うより慣れろ! サクサク進む!」
02のスパルタな手拍子に、俺たちはひいひい言いながらテレストーンへと向かっていった。
結局この後何周もすることになったのは、別の話。




