DIVE20「永久凍洞ドームリル その1」
俺たちパーティ一行は、「永久凍洞ドームリル」の探索開始地点へとテレポートを完了した。
「なんかこう、ゴツゴツしてますねぇ」
「鍾乳洞だからな」
分厚い氷をまとった洞窟の中にいま俺たちはいる。
天井からはたくさんの鍾乳石と氷柱が生え、行く手には氷と岩でできた起伏のある通路が待ち構えている。まさに天然の要害といった様相だ。
「よし、それじゃどんどん行ってみよう」
02に促され、俺たちはタンク役の俺を先頭にして進んでいく。
角を曲がったところで早速現れたのは、小型のスライム三体だった。
「なんか、倒したくない……」
「私もです……」
「気持ちは分かるけど、倒そうな」
自分たちがスライムだった頃の短くも楽しい記憶を思い出しながら、俺は泣く泣くスライムたちを攻撃する。
さすが物理攻撃に強いスライム、なかなかに耐久力がある。とはいえ、俺たちの度重なる攻撃の前には耐えきれず、一匹また一匹と倒れていった。
「ごめんな、スライム……お前たちの遺志は俺たちが継ぐから……!」
「はい……絶対に……!」
呆れ顔の02を連れて、俺たちは泣きながら肩を組んで進んでいく。元スライムにしか分からない気持ちというものはあるのだ。
それから続けて出てきたスライムたちを倒したところで、俺より先にリリーがレベルアップした。
「あっ、なんかスキルを覚えました!」
「どれ、打ってみ?」
「はい! ミールストーム!」
リリーが手を前に出しながらスキルを発動すると、魔力を込めた矢が地面に着弾し、そこを中心として大きな風の渦が巻き起こった。
02は興味深そうにその光景を見つめていたが、そのうち旋風の内部に躍り出た。
「あっ、危ない!」
「大丈夫だよ。こういうスキルは大抵、味方に当たらないように出来てんの。おそらく範囲内の敵にダメージかデバフってところだろうな。あいつらに使ってみて」
「はい、分かりました」
「そうそう、カヲルは打ち終わるまでガードしたまま攻撃しないように」
「了解!」
俺たちは次の白い毛むくじゃらな敵グループのところにたどり着くと、戦闘を始めた。リキャストを待って、リリーが再びミールストームを発動する。
すると、陣風に巻き込まれた敵モンスターたちの頭上に二桁ほどのダメージが表示された。
そのまま、じわじわと小刻みにHPバーが削れていく。やがて風が収まると、ダメージもなくなった。
「円範囲にダメージ判定を出すみたいだな。リキャストごとに使うといいよ。それと、もう攻撃しちゃって大丈夫」
「オッケー」
継続ダメージを与えるとは、なかなか便利なスキルだ。俺も新しいスキルを早く覚えたい。リリーのことが少しうらやましかった。
やがて、俺たちは白いモヤの前にたどり着いた。1ボス戦だ。
02に回復魔法を打ってもらって態勢を立て直すと、俺はリリーのことを振り返って確認した。大丈夫そうだ。
「よし、入るぞ……」
モヤをくぐった俺の眼前に現れたのは、全身白い色をしたゴーレム、その名もホワイトゴーレムだった。氷に覆われた体の所々には氷柱が生えている。
ゴーレムはこちらに気づくと、そのゴツゴツとした腕で殴りかかってきた。
俺は足裏に〈粘着〉を使いながらゴーレムを室内の中央に食い止める。
その間に、リリーがミールストームを設置、フェザーシュートやエリアルスパイクを打ってゴーレムにダメージを与えていく。
そのとき、突然ゴーレムが体を縮こまらせて丸くなった。
「な、なんだ!?」
「よーく動きを見て、壁際ギリギリのところで避けるんだ!」
「できるかなぁ!?」
俺は一抹の不安を抱えながら壁際に退避した。リリーと02も同様に壁にへばりついている。
ゴーレムは部屋の中央部で円形にぐるぐると転がったあと、俺に目標を定めてきた。その巨体に似合わない速度で俺の方に転がってくる。
「うわあっ!!」
俺は辛うじて横っ飛びをして、ゴーレムの突進を避けた。ゴーレムは壁にしたたかに体をぶつけて、ふらふらとその場にくずおれた。
「いまだ、殴れ!」
俺たちはその隙に、ゴーレムを袋叩きにした。
しかし、このまま行けそうだと思ったのも束の間。10発ほど攻撃を入れたところで、ゴーレムは立ち直ってしまった。
「倒すまでこの繰り返しだ! 頑張れ!」
「ひええ~!」
ゴーレムは中央に戻ると、再びゴロゴロと回転を始めた。そして今度はリリーを標的にしたようだ。一瞬ためてから、一気にリリーの下へ突進していく。
「ひゃわっ!?」
リリーは素っ頓狂な叫び声を上げながら、横に転げた。ゴーレムは部屋全体をずんと揺らしながら壁に激突し、地面に座り込んだ。
HPバーは残りわずか。俺たちは一気呵成に攻撃を叩き込んだ。やがて、ゴーレムは力尽きて前のめりに倒れた。
レベルアップのファンファーレが鳴り響き、俺も遅れてLv.10に到達したことを告げる。
「はい、1ボス、ホワイトゴーレムでした。お疲れ」
「はぁ……はぁ……」
現実世界の体は全く運動していないはずなのに、すっかり息が上がってしまっている。戦闘の臨場感を出すにも程があるのではないか。
「ダンジョン二つ目にしては結構ハードじゃないか?」
「なんのなんの。まだ2ボスさんがいらっしゃるからな。頑張れ」
「マジか……!」
確かに02が言う通り、これでまだ半分だ。しかし、もう半分をこなす前に小休止しないと身が持たない。そう思った俺は、両手を大きく振った。
「ちょっと休憩!」
俺とリリーは互いの健闘を称え合いながら、近くにあった手頃な岩の上に座り込む。
02はそれを見て、やれやれと言いたげな様子でその隣に腰かけるのだった。




