DIVE19「雪深い谷の底へ」
首都ヘネクから北へ歩くこと十数分。周囲は次第に冬景色へとその姿を変えていった。
足元には膝くらいの高さまで雪が一面に敷き詰められており、人が通った後の部分だけが踏み固められて道のようになっている。
立ち並ぶ木々には降った雪が積もって、白い衣を作っている。
降り積もった淡雪をざくざくと踏みしめながら、俺たちは目的の場所へと歩を進める。
ダンジョンを解放するためには、まずその開始地点まで行かないといけないシステムになっているのだ。面倒だが、こればかりは仕方がない。
02の話によると、『永久凍洞ドームリル』があるのは北の端、ヤオビ村のはずれだ。
つまりそこまでは一度、自力でたどり着かなければならないということになる。
「うひゃあ、寒いですね」
「いちおう寒さを抑えられてはいるけどな」
これはゲームなので、現実世界と同じレベルの過酷さを再現しているわけではない。気にせず楽しめる程度の五感を保っているにとどまる。
とはいえ、体が底冷えするような、少々応える寒さだった。
「お、早速絡まれたぞ。準備運動にはちょうどいい!」
02はそう言いながら右の方を振り向いた。NPCのスノーモンキーたちがこちらに向かってくるのが見える。おそらく道中でやつらの視界に引っかかってしまったのだろう。
俺たちは武器を抜くと、それぞれ構えた。戦闘開始だ。
「やっ!」
俺はダイビングスラッシュからのバイスクローを決めて、スノーモンキーたちのヘイトを取った。
それから、やつらがひょろ長い腕で殴りかかってくるのをラウンドシールドで受け止める。
深い雪に足を取られて結構戦いにくいが、戦えないほどではなさそうだ。
その間にリリーが矢を飛ばし、02が魔法でそれぞれ攻撃。俺も隙を見ながら攻撃すると、スノーモンキーたちは成す術なく倒れていった。
「強いかと思ったけど、戦ってみるとそうでもないなぁ」
「まあフィールドモブだからな。それなりの強さしかないよ」
「なるほどね」
たぶん、道を通る人に対するおじゃま虫のような存在なのだろう。とはいえ、舐めてかかるとやられそうなので真剣に戦おうとは思うが。
そんな会話を交わしていると、再び敵が寄ってきた。
今度はブルーバットたちだ。ご丁寧にも寒冷地仕様で、普通のバットとは色もステータスも違うらしい。
俺たちはこれまで通りのやり方でブルーバットたちを蹴散らしていく。
俺もリリーも、NPCの敵相手にはだいぶ戦い慣れてきたみたいだ。この調子なら、雑魚との戦闘ではもう怖がらなくても大丈夫そうだ。
敵を片付け終えた俺たちは、より雪深い奥地の方へと入り込んでいく。
谷底へ下り、しばらく進んでいくと、遠くの方にある洞窟の入口付近に、何やらキラキラと光っている場所が見えてきた。
「あれか!」
俺たちは氷の張った地面で転ばないように気をつけながら、ようやくその地点にたどり着いた。
地面から湧き上がっている光に触れると『永久凍洞ドームリル 解放』の文字がでかでかと画面に表示され、コンテンツ解放に成功したことを告げてくる。
「開けたか?」
「ああ、解放できたよ」
「はい! 私もです!」
確認を終えた02は、右の拳を左の手のひらに叩きつけた。
「よーし、それじゃ早速行ってみようか」
「おう!」
「今回はカヲルがパーティリーダーだから、コンテンツの申請頼む」
「あっ、そうか。分かった。えーっと、確か……」
俺はメニューウインドウを開き、コンテンツウインドウのIDから『永久凍洞ドームリル』を選択。参加申請を出すと、コンテンツ開始の確認ウインドウが即座に表示された。
「これでいいんだよな?」
「オッケー、オッケー。あとは突入を押すだけ」
「押すぞ?」
「はい!」
「ポチっとな」
「ネタが古いなぁ……」
02にツッコまれながら『突入』のボタンを押すと、目の前が段々と暗くなってきた。テレポートの際に必ず起こる現象だ。
やがて、俺は独特の浮遊感に包まれながら、真っ黒な暗闇に包まれた。




