DIVE18「きざなNPCジュール」
俺たちは棘咲あろゑの定期交流会の抽選結果を待つ間、ストーリークエストを進めることにした。
クリア報酬でもらえる経験値がおいしいし、未解放コンテンツもどんどん解放できるからだ。
「『ラングオルラ』の次のダンジョンはなんだっけ?」
「『永久凍洞ドームリル』だな」
「ドームリル」は氷雪系のモンスターが多数出現するダンジョンで、適正レベルは約10。
これまで「ラングオルラ」でレベリングをコツコツこなしてきた俺たちはそれぞれLv.9だから、なんとか戦えそうだ。
「よし、それじゃ早速クエストを受けてみよう」
「オッケー」
俺とリリーは協会のカウンターに立っているアルミラージのエリザに話しかけた。すると、エリザはにこやかにこちらを出迎えてくれた。
「風鳴り草、無事に入手できたみたいね」
「はい。おかげさまで」
レベリングのために何度も「ラングオルラ」を周回していたため、風鳴り草ならインベントリにたくさん貯まっている。いまなら、いくら要求されても提出できる自信があった。
もっとも、クエストで要求されるのは一本だけなので、どれだけ沢山持っていたところで何の意味もないのだが。
「あなたたちなら、もっと大きな仕事を任せても良さそうね。ヒギンズ、この子たちに例の案件を任せてもいいかしら?」
エリアの隣に立っているゴブリンのヒギンズは、腕を組みながらこちらをじっと見つめた。
「ああ、構わないぞ。とは言っても、簡単な調査だけどな」
「調査?」
「ああ。危険な魔物がいないことを確認するだけの任務だ」
ヒギンズの前に、クエストウィンドウが浮かび上がる。
依頼内容は永久凍洞の調査。難易度☆2で、達成報酬は1000ジラだ。
俺はクエストを受けるために「受注」を押そうとした。
しかしその瞬間、確認ウインドウが消え、金髪碧眼のにやけ面が眼前に現れた。たしかこの種族はストームキッドと呼ばれているはずだ。
「おやぁ? 僕だけで十分だと言ったはずですよね、エリザさん」
「あら、ジュールくんじゃない。もう向かったんじゃなかったの?」
「いえ、もう一度その美しいお顔を拝見してから、と思いまして」
「もう、こんなおばさんを褒めても何も出ないわよ」
ジュールの賛辞に、エリザは手を振るいながら苦笑した。
ジュールは続けて、俺たちの周りをぐるぐると回りながら、値踏みするようにジロジロと眺める。
「君たちが例の新人冒険者だね? 噂はかねがね聞いているよ。故郷が滅ぼされて大変だったろうね。同情するよ」
「それはどうも」
全く、よく舌の回るNPCだ。この軽薄そうな立ち居振る舞い、俺個人としてはあまり好きなタイプではない。
「まあ、それはそれ、これはこれだ。最初にこのクエストを受けたのは僕だからね。本来なら僕の任務なんだが、今回は特別に譲歩してあげてもいい」
「なに……?」
「先に調査を終えて戻ってきた方がこのクエストの報酬を得る、ってことにしようじゃないか。構わないですよね、ヒギンズさん?」
ジュールは得意げに鼻を鳴らしながら指を立てる。ヒギンズはその様子を見て、こくりとうなずいた。
「構わないぞ。こちらとしては調査さえ完了すれば問題ないからな」
「よし、それじゃあそういうことで。お先に失礼するよ、新人諸君。せいぜい頑張ってくれたまえ」
ジュールは自分の言いたいことだけ言うと、ひらひらと手を振りながら、さっさと建物から出て行ってしまった。
「あんな奴だが、悪い奴じゃないんだ。まあ、せいぜい付き合ってやってくれ」
ヒギンズが呆れ顔で肩をすくめると、再びさっきのクエストウインドウが表示された。俺は改めて「このクエストを受注しますか?」の下にある「受注」のボタンを押した。
すると、クエストを無事受注できたことを知らせるファンファーレが鳴り響いた。
俺はどうしても我慢できなくなって、02に話しかける。
「なあ、あのジュールってNPC、人気ないだろ? めっちゃムカつくんだが」
「いや、結構人気あるぞ。ファンアートがたくさん出回ってる」
「マジかよ……」
世も末だと思いながら、俺は嘆息した。
「気になるなら見るか?」
「いや、いい。胃が痛くなりそうだ」
「あっそ。まあ、いいけどさ」
そのやり取りを見たリリーは不思議そうに俺を見つめた。
「カヲルくん、ジュールのこと嫌いなんですか?」
「嫌いっていうか苦手、かな。なんかチャラチャラしてる、っていうか」
「珍しいですね、カヲルくんがそんな顔するなんて」
「人間だからそういうこともあるさ」
俺はそんなにひどい顔をしているだろうか。
今後ストーリーで何度もジュールと絡むことにならないよう祈りながら、俺は冒険者協会の建物を後にするのだった。




