DIVE2「キャラメイク」
俺が最初に立っていたのは、どこまでも広がる青い空間だった。
目の前には、小奇麗な白い衣装を身にまとい、黄緑の長髪をした女性が立っている。目鼻立ちがしっかりしていて、なかなかの美人だった。
「おはようございます、新たな魂」
ソウルというのはおそらく俺のことだろう。初っ端からそういう含みを持たせた単語を出していくのか。なかなかいい感じだ。
「あなたがこの世界『ファンデワース』に降り立つにあたり、いくつか質問しておきたいことがあります。あなたに関する情報を教えてください」
よし、まずはキャラメイクだ。バッチコイ。
「まず、あなたの名前を教えてください」
「カヲル」
もちろん本名ではない。いつもネットで使っているハンドルネームだ。
女性は俺の音声を聞き届けると、こくりとうなずいた。
「カヲル様、ですね。よき名です」
誰にでもそう言うことになっているのだろうが、面と向かって褒められると悪い気はしなかった。
次に女性が手をかざすと、俺の目の前に半透明のウインドウが二つ出現した。
「あなたの魂の器は人型ですか?それとも獣型ですか?」
それぞれのウインドウには、彼女の言葉通り、人型か獣型かという選択肢が表示されている。
俺はこのゲームを始めるときから決めていた。せっかくなら、人間にはできない体験をたくさんしてみたい。それでこそゲームを遊ぶ価値があるというものだ。
俺は迷うことなく「獣型」のウインドウをタッチした。すると、そのウインドウはさらさらと崩れるようにして虚空へと消えていった。
「なるほど、分かりました。では次に、あなたにふさわしいのはどの器ですか?」
女性が腕を振るうと、今度は四種類のモンスターたちが俺の目の前に出現した。
ぼっ立ちしているところを見ると、こちらに危害を加えるような類のものではないらしい。おそらく、これが種族選択の場面なのだろう。
彼らの頭上には、ステータスが数値のリストになって表示されている。
どのモンスターも横並びで、これといった特徴はない。もしかしたらレベルアップするにつれて種族ごとの特徴が出てくるのかもしれないと俺は思った。
一番右にいるのは、然魔族に属するスライム。
アビリティは粘着(地面や壁、天井に張り付ける)、頑強(物理攻撃に強い)の二つ。
ぷるぷるしていて人畜無害にも見えるが、舐めてかかると恐ろしいモンスターであることを俺は知っている。
中央右にいるのは、獣魔族に属するバット。
アビリティは〈飛行〉(空中を飛行できる)、〈吸血〉(攻撃時に一定割合で体力を回復する)の二つ。
序盤から空を飛べるのはなかなか魅力的だ。
中央左にいるのは、妖魔族に属するゴブリン。
アビリティは〈マナチャージ〉(魔法発動時に一定確率でMPが回復する)、〈魔眼〉(攻撃がクリティカルヒットしやすい)の二つ。
また、火球を発射する攻撃魔法「カグファ」を覚えている。
最初から攻撃魔法が打てるモンスターはこいつだけのようだ。
一番左にいるのは、精魔族に属するホーリージーニー。
アビリティは〈英知〉(MP上限値が上昇する)、〈円陣〉(自分から一定範囲内の相手への回復効果アップ)の二つ。
また、回復魔法「レメディ」を覚えている。
味方の回復をするならこいつだろう。
各種族のステータスを確認した俺は、ここでも迷うことなく、選択肢を選ぶことにした。
ゲームを始める前から絶対この種族にすると決めていたからだ。それがたとえどんな性能であったとしても、後悔はない。
そんなわけで俺が選んだのは、スライムだった。
それから少し考えた末、スライムの横に浮かんでいるパラメータ画面をいじくってキャラの設定を変えることにした。
スライムに関しては、体の色以外に変えられるパラメータはないみたいだ。
赤色が好きな俺は、体色を深紅色に設定し、決定ボタンを押した。
「分かりました。それがあなたの器なのですね?」
「ああ、そうだ」
女性がパチンと指を鳴らすと、並んでいたモンスターたちは一瞬にして消失した。これでもうやり直しは効かない。
「それでは、これからあなただけの冒険が始まります。『ファンデワース』の世界をどうか、救って――」
女性は祈るように両手を合わせ、胸元で握った。すると視界が次第にぼやけていき、俺は広々とした青い世界に別れを告げた。