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DIVE17「新たな手がかり」

 俺たちは再び「シーカーズ」のギルドハウスに集合して話し合っていた。手に入れた情報を互いに共有するためだ。


「つまり話をまとめると、そのミスターエックスというのが『アクセル』を売りさばいている元締めということだね?」


「ああ、おそらくは」


 四十万(しじま)はそれを聞くと、腕を組みながら思案した。


「ふむ……何らかの形でそのミスターエックスに接触できればいいんだが……」


「ミスターエックス、ねぇ。大層な名前つけちゃって」


 自らは直接出向かず、自分の手足となる構成員を動かして取引を繰り返す。そのミスターエックスとやらは相当に用心深い人物のようだ。


「ところで、あのイカロスの売人の追跡はどうなったんだ?」


「ああ、それなら残念ながら失敗に終わった。あの後すぐにログアウトしてしまったんだ。アカウント情報も調べたが、作りたての捨てアカウントだった」


「痕跡は一切残さない、ってことか」


 簡単に尻尾はつかめなさそうだ。これは根気強い調査が必要になるかもしれない。


 四十万はテーブルに置かれた「アクセル」の瓶を眺めながら、嘆息した。

 思ったような成果が出なかったことに、少々がっかりしているように見えた。


「この『アクセル』は運営の方で解析に回すので、預かっておくよ。何かに使うことがあるかもしれないから、カヲルくんが一本だけ持っておいてくれ」


「分かった」


 俺は「アクセル」を再びインベントリに入れると、机に身を乗り出した。


「ずっと考えていたんだけど、ミスターエックスに接触する方法はやっぱり一つしかないと思うんだ」


「誰かの紹介で会わせてもらう、だろ?」


「ああ」


 地道に取引を重ねるという方法は、相手と接触できるようになるまで時間がかかりすぎるし、確実ではない。


 となると、考えられるのはもう一つ、ミスターエックスから信頼されている相手に紹介してもらうという方法しかない。


「そうは言っても、そんな相手に心当たりなんてあるか? ましてや、ミスターエックスが誰かさえ分からないのに」


「そうだよなぁ……」


「あの、いいですか?」


 展開が行き詰まりそうになったそのとき、リリーがそっと手を挙げた。


「実は一人だけ心当たりがあるんですけど……」


「マジか!? 誰だ!?」


「そ、そんなに食いつかないでください。ちゃんと話しますから」


 俺たちの注目を集めたリリーは、少し照れながら喋り出した。


(とげ)(さき)あろゑっていうVtuber、知ってますか?」


「知らん」


「ごめん、俺も知らない」


「あはは、だいぶ人気のVtuberなんですけど、知らないなら仕方ないです」


 Vtuberというのはたしか、動く立ち絵や3Dモデルを使って様々な配信をする生配信者のことだ。

 普段ほとんど見たことはないが、知識としては知っている。


「で、そのあろゑっていうVtuberがどうかしたのか?」


「はい。あろゑちゃん、配信中にいつも『魔剤』って言って、頻繁にポーションを飲むんですよ。そして、飲んだ後は急にキャラの動きが良くなるんです」


「なあ、それって――」


「はい。もしかして『アクセル』の常習者なんじゃないか、って思って」


 仮に彼女が「アクセル」のヘビーユーザーだとすれば、売り子と大量の取引を重ねているはずだ。

 しかも人気のあるインフルエンサーだという点でも、その利用価値は大きい。

 ミスターエックスの信頼を勝ち取っている可能性は十二分にある。


「でも、どうやってその棘咲あろゑと接触するんだ? 人気の配信者なら、なおさら交流しづらいんじゃないか?」


「それもちゃんと考えてあります! これを見てください」


 リリーはWEBブラウザを開くと、そのウインドウを机の上に平置きした。

 このゲームはフルダイブしながらネットサーフィンまでできてしまうというプレイの自由度の高さも売りの一つなのだ。


「『定期交流会のお知らせ』?」


「はい。あろゑちゃん、いつも肥料――ファンたちから募集を募って、即席パーティを組んでダンジョンに潜るんです。その抽選に当たれば、おそらくどこかのタイミングで話を持ちかけるチャンスができるはずです!」


「抽選に当たれば、って……当たらなかったら?」


「最悪、四十万さんに運営案件を持ち掛けてもらおうと思ってるんですけど、できますか?」


 四十万は腕を組んでうーんと唸った。


「できないこともないが、それではミスターエックスに警戒されてしまうだろう。私が出ていくのは最後の手段にしておきたいところだ」


「そっか、たしかにそうですね……」


 しゅんと(しお)れたリリーを見かねて、俺はすかさず助け舟を出す。


「何はともあれ、まずはその『定期交流会』とやらに応募してみるのがいいんじゃないか? 倍率はかなり高そうだけど、運よく当たれば万々歳だろ」


「そうですね。私もそれがいいと思います」


「それじゃあ、三人でそれぞれ応募してみっか」


 こうして、俺たちは棘咲あろゑの定期交流会に応募することとなった。


 結果の通知は一週間後。果たして、誰か一人でも抽選に当たることは出来るのだろうか。

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