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DIVE16「闇取引」

 モンスター陣営の首都ヘネクから歩くことしばらく。俺たちはハンドリスの町に到着した。


 さすがに首都には敵わないものの、こちらの町もとても盛況だ。昼間から多くのモンスターPCたちが出歩いている。


 売人はどうやらこの町で「アクセル」を売りさばいているらしい。

 しかも、すでに取引の経歴がある相手か、その相手から紹介された相手としか取引しない、というリスク管理の徹底ぶりだそうだ。


 光あるところには必ず影ができる、といったところか。


「何があるか分からない。気を引き締めていくぞ」


「はい……!」


「おう」


 俺はリリーと02を大通りに待たせると、賑やかな人通りからわき道に逸れ、さらに奥の細い道へ曲がっていった。


 指定された裏路地の一角には、すでに取引相手が待っていた。鳥の頭をして、背中には翼の生えた獣人、イカロスだ。


「何を買うかい?」


 そのイカロスは鋭い鳥目でこちらを見つめる。俺は四十万(しじま)に予め教わっておいた通りに答えた。


「きぼう」


 合言葉を聞くと、イカロスはこくりとうなずいた。よかった、どうやら上手く通じたらしい。


「あいよ。いくつ欲しい?」


「5個くれ」


 数が少なすぎると「アクセル」を調べるときにサンプルが少なくて困るし、多すぎると今度は売人に怪しまれるかもしれない。

 値段的にもこれくらいがちょうどいいだろう。


「あいよ。15000ジラね」


 つまり、一本当たり3000ジラ。

 普通のポーションが一本100ジラだということを考えると、べらぼうに高い値段だ。もしアルゴスから軍資金をもらわなかったら、絶対に買えなかった。


 これも「アクセル」の特筆すべき点の一つということだろう。


 売人がアイテムトレードの準備をしている間に、俺は気さくな雰囲気を醸し出しながら話しかける。


「なあ、これってどんな効果があるんだ?」


「あん?」


「初めてだから心配でさ。念のためにもう一度聞かせてくれよ」


 イカロスの売人はこちらをちらりと見ながら答える。


「感覚が敏感になって、時間がゆっくり流れるんだ。副作用は、そうだな、感情が豊かになるって言やいいのか?」


「感情が豊かに?」


「起伏が激しくなんだよ。悲しいときはわんわん喚くし、頭にくりゃちょっとのことでもブチ切れる。ま、効果が切れてもキマり続けるほどがぶ飲みしなきゃ大丈夫だ」


 なるほど、道理でトラブルが多発するわけだ。つい感情的になって、言い争いや喧嘩に発展してしまうのだろう。


 母親を刺傷したという例の事件もそうだったのかもしれないと思うと、本当に悔やまれる。


「それじゃ、トレードするけどいいか?」


「大丈夫だ」


 俺とイカロスはアイテムトレード機能を使って、ゲーム内通貨であるジラと「アクセル」を取引した。いま俺のインベントリに「アクセル」が入っていると思うと、少しドキドキする。


「ありがとう。気をつけて使うよ」


「おう。それじゃあな」


「あ、ちょっと待って!」


「あん?」


 立ち去ろうとするイカロスを、俺は慌てて引きとめた。

 あまり会話の間が開くと不審がられてしまう。なにか言い訳を考えなければならない。


 俺はとっさに思いつき、口から出まかせを言い放った。


「『アクセル』の使い心地が良ければ、もっとまとめて大口で購入したいんだけど、あんたのボスとは直接取引できないのか?」


 イカロスは手をひらひらと振った。


「ああ、ダメダメ。ミスターエックスは一見さんとは取引しないんだ。地道に取引を重ねるか、しかるべき相手から紹介されるかして信用を得てくれ」


 そう簡単には会えないということらしい。

 まあ、こういう危険なアイテムを取り扱って儲けているのだから、警戒するのは当然と言えば当然のことだ。


 これ以上食い下がって変に怪しまれても困るので、俺はこの辺で切り上げることにした。必要な情報は十分に得られたと思う。


「分かった。ありがとう」


「次回もよろしく頼むぜ。じゃあな」


 イカロスは手を軽く挙げると、今度こそ立ち去っていった。


 俺は元来た路地を戻ると、他のメンバーと合流した。


 リリーは俺の姿を見るなり、心配そうに駆け寄ってきた。


「ど、どうでしたか!?」


「無事に取引できたよ」


「よかったぁ……」


 リリーが胸をなでおろす一方、02はニヤニヤしながら俺の肩に手を回した。


「どんなもんか見せてくれよ」


「おいおい、ここでか?」


「いいだろ。普通のポーションと見た目は一緒なんだし、減るもんでもなし」


「しょうがねぇな……」


 俺は渋々インベントリを開くと、普通のポーションとは別枠で保管されているポーションを一つ取り出した。


 見た目は本当に何の変哲もないポーションだ。ポーションと「アクセル」が横に並べられていても、おそらく見分けがつかないだろう。


「ほえ~、これが例の……!」


「ふた、開けてみてもいいか?」


「飲むなよ……?」


「飲まねぇよ!」


 02は「アクセル」のふたをあけると、瓶の口の辺りを手で仰いでくんくんと香った。


「あらら、マジで分かんねぇわこれは」


 色だけでなく、匂いまで一緒らしい。全く、恐ろしいアイテムもあったものだ。


 02はふたを注意深く閉めると、俺に「アクセル」を突き返してきた。


「やるな、カヲル。景気づけに一本キメるか?」


「バカ言え。帰るぞ」


 「アクセル」をインベントリにしまい込んだ俺は、02の肩に軽く手でツッコみながら、俺は「シーカーズ」のギルドハウスへ帰っていくのだった。


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