DIVE15「ギルド結成」
レベリング作業の合間を縫って、俺たちはとあるギルドハウスへとやってきていた。
なぜかというと、アルゴスにDMで呼び出されたのだ。
わざわざ特定のギルドハウスに呼ぶということは、きっと何か重要な要件に違いない。
「なんでしょうね、一体」
「やっぱり例のポーションの話かなぁ」
「案外、それとは全く関係ない話かもしれないぞ。俺のフレンドになってくれ~とか」
「まさか。そんなくだらない話でわざわざ呼び出すわけないだろ」
とはいえ、実際に会ってみないと話の内容は分からない。
そんな他愛もない話を続けながら、俺たちはギルドハウスの前へと到着した。
それは小ぢんまりとした石造りの家だった。庭には畑が設置されており、何やらキャベツのような作物が育てられている。
ハウスの扉の前には、マントを身につけた骸骨が立って俺たちを待ち構えていた。
「待っていたぞ」
「その声は……アルゴス?」
確かに聞き覚えのある声だった。しかし、骸骨は首を振る。
「いまは四十万と呼んでくれ」
どうやらキャラクターごとにPC名が全然違うらしい。まあ、サブ垢ならそういうこともあるだろう。
俺たちは四十万に誘われてギルドハウスへと足を踏み入れた。
内装はシンプルなもので、人数分の木の椅子と机だけが置かれている。
「とりあえず座ってくれ」
俺たちが腰かけると、四十万はテーブルに肘をついて話しだした。
「今回君たちを呼んだ理由は二つある。まず、このギルドハウスについてだ」
四十万はそう言いながら室内を見回す。
「このギルド『シーカーズ』は現在、四十万というこのアカウントと別のサブキャラの二名だけでメンバーが構成されている。そこで今回君たちをギルドメンバーに加え、このハウスをシーカーズの作戦会議の場にすることとした」
「前回打ち合わせに使ったあんたの部屋じゃダメなのか?」
「運営本部はPCがおいそれと出入りしていい場所ではないんだよ。前回は特例として呼び出したにすぎない」
「あ、そっかぁ」
確かに、頻繁にPCが出入りしていたら公私の切り替えがつかなくなりそうだ。四十万の説明には一理ある。
「というわけで君たちにはこれからこのギルドに入ってもらいたいんだが、まだギルドには所属していないかな?」
このゲームでは、ギルドの掛け持ちはできないことになっている。
だから「シーカーズ」に所属するなら、他のギルドには入れない。
幸いなことに、まだギルド勧誘はされていなかったので、俺はこくりとうなずいた。
「してないよ」
「はい。私もまだです」
「俺もしてないぜ。サブキャラだしギルドはなんでもいいや」
「よし。それではこれから申請を送る。少し待っていてくれ」
それからほどなくして、俺の下に通知が届いた。「ギルド『シーカーズ』への勧誘を受けますか?」というメッセージウインドウが表示される。
俺は迷わず「はい」を選んだ。
どうやら、他の二人も無事に入れたらしい。みんなネームプレートの上に「シーカーズ」とギルド名が表示されている。
「よし、上手くいったな。今後何かあった場合、ここに集合とする」
自分の所属しているギルドのギルドハウスには、世界各地のテレストーンから直接テレポートできる。
これは普段集まるときにもかなり便利だ。
「さて、もう一つの要件について話そう。『アクセル』についてだ」
その単語が発せられた瞬間、それまでの和やかな雰囲気が一変した。
俺は緊張感にごくりとつばを飲み込んだ。
「『アクセル』の取引をしている末端の売人に連絡をつけることができた。君たちには買い手として取引の現場に向かってもらう。会話の中でできる限り情報を引き出してほしい」
いわゆるおとり捜査というやつだ。
テレビで麻薬取締官がやっているのを見たことがあるが、まさか自分がその立場になるなんて思いもしなかった。
「四十万はどうするんだ?」
「売人の行方を追いかけて、その出所を掴めないか試すつもりだ。陰から見守っているよ」
四十万はふっとニヒルに笑った。
「そうそう、一つだけ注意してほしい。我々が『アクセル』の調査をしているということは絶対にバレないようにしてくれ。肝心の尻尾を掴むまでは泳がせておきたい」
「分かった。気をつけるよ」
俺たちが運営とつながっていることがバレたら、せっかく掴んだチャンスが水の泡になってしまう。
それだけは避けたいところだった。
「詳細はDMで送ってあるから、チェックしておいてくれ。何か質問はあるかな?」
俺は他の二人の様子を伺った。すると、リリーが恐る恐る手を挙げた。
「あの……全然関係ないことなんですけど……」
「なんだい? 遠慮せず何でも聞いてくれ」
リリーは少し迷った末、がばっと立ち上がった。
「このギルドハウス、改装してもいいですか!? いくらなんでも殺風景すぎます!」
きょとんとしていた四十万だったが、そのうち愉快そうに笑い出した。
俺たちも、それまでの真剣な話題との温度差に思わず吹き出した。
「なんだ、そんなことか。構わないよ、好きなように物を置いてくれ」
「ありがとうございます!」
よほど堪えかねていたらしく、リリーは嬉しそうにガッツポーズをした。
たしかに、この机と椅子だけの素っ気ない空間でこれから長い時間を過ごすのは少々くたびれそうだ。
リリーのリフォームの手腕に期待しておこうと俺は思った。




