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DIVE14「笛鳴風穴ラングオルラ その3」

 敵を倒しながら進むことしばらく。俺たちはようやく2ボス前のモヤにたどり着いた。


 レベルは先ほどから3のままだ。そうポンポンと上がるものでもないらしい。

 まあ最序盤のダンジョンだし、これくらいの成長速度がちょうどいいのかもしれない。


「よし、それじゃ入るぞ」


「お願いします」


 俺たちは、俺を先頭にして慎重に白いモヤをくぐり抜けた。

 さあ、どんな敵が待ち構えているのだろう。


 期待に胸を膨らませる俺の眼前に現れたのは、巨大な肥満体の背中だった。

 身長は優に5メートルはあるだろうか。先ほどのギガワームよりもサイズがでかい。


 不審な侵入者の気配を察知したそのモンスターは、こちらを振り返り様にギロリとにらみつける。


 それは、緑色の肌をして棍棒を握りしめたトロールだった。


 トロールは棍棒を振りかざして怒りながら、こちらに向かってきた。

 俺は冷静に戦闘態勢を取ると、早速ファングエッジを放った。


「はっ!」


 剣の切っ先がどてっ腹に突き刺さるが、トロールはお構いなしに俺を棍棒で殴りつけた。

 こいつ、一撃一撃が重い。気を抜くと大ダメージを食らってしまいそうだ。


「カヲル、リリー、足を狙え! ダウンが入って隙が出来る!」


「分かった!」


 俺たちは攻撃のターゲットをトロールの足元へと切り替えた。

 頭上から降ってくる相手の棍棒をガードしながら下方を攻撃するというのは、なかなかに忙しい作業だ。


 しばらく攻撃を続けると、02が言う通り、トロールは膝をついてダウンした。

 俺は背中に回り込むと、通常攻撃を思い切り叩き込む。


「グオオゥッ!」


 トロールは苦悶のうめき声を上げた。どうやら効いているみたいだ。


 それから、俺たちは足元への攻撃を続け、何度かトロールのダウンを取った。


 この調子ならいけそうだ。そう思ったのも束の間。


 HPバーが半分程度になると、トロールは動きを大幅に変えてきた。

 理性ある攻撃をやめて、闇雲に暴れ回るようになったのだ。


「グオオオオオオオ!!」


 俺は必死にステップして大振りの攻撃をかわす。


「なんだこいついきなり! 危ねぇ!」


「カヲル、いったん離れろ! 発狂モードだ! 回避に専念しろ!」


「了解!」


 トロールはやたらめったらに棍棒を振り回しながら、フロア内をふらふらと徘徊する。


 俺たちが回避行動だけに集中していると、そのうち息切れしたのか、膝に手をついて立ち止まった。


「いまだ!」


 02のかけ声に応じて、俺たちは攻撃を再開した。

 無防備なトロールの体に剣が突き刺さり、HPを大きく削っていく。


 数秒のチャンスタイムが終わると、トロールはよろよろと体勢を立て直した。

 俺は再びトロールと距離を取って、様子を伺う。


「グオオオオオオオ!!」


 これでもかと言わんばかりに、トロールは一層激しく暴れ出した。

 地面や壁面にぶつかるのもお構いなしに棍棒を振り回している。


「おそらくこれが最後の発狂だ! 倒し切るまで気を抜くなよ!」


「分かった!」


 俺は遠く距離を保ちながら、トロールが発狂を終えるのを根気強く待った。

 リリーと02は距離を保ちながら攻撃をして援護してくれているが、発狂状態のトロールにはなかなかダメージが入らないらしい。


 やがて、そのときはやってきた。トロールは膝に手をつくと、はぁはぁと肩で息をしながら立ち止まった。


「食らえ!」


「えいっ!」


 俺たちはかけ声とともにスキルを発動した。

 剣と矢はそれぞれトロールのわき腹に深々と突き刺さり、トロールは背中から地面にずんと倒れ込んだ。


 ダンジョンクリアのファンファーレに続いて、レベルアップのファンファーレが鳴り響く。


「やりましたね! カヲルくん!」


「ああ、どうやらそうみたいだな」


 トロールはさらさらと消滅していき、後に金色の宝箱が残った。


「開けてみてもいいか?」


「もちろんです! パーティリーダーはカヲルくんなんですから」


「あ、そっか。そうだったな」


 パーティを組むとき、慣れた方がいいと言って、02は俺にパーティリーダーを譲ったのだ。


 俺は宝箱のふたに手をかけると、ゆっくりと開いた。


 中に入っていたのは、片刃の剣だった。


 俺がそれをいったんインベントリにしまうと、画面に武器ステータスが表示された。

 武器名はウインドシミター。数値を見た感じ、いま俺が使っているブロードソードよりもずっと強そうだ。


「お、ちょうど装備できるやつじゃん。装備してみろよ」


「ああ、そうだな」


 俺はいま持っている剣を装備から外すと、新たに入手した剣を装備した。


 見た目に反してその重量は軽く、長さもちょうどよくて取り回しやすい。

 これは良いものを手に入れた。俺は喜びに浸りながら、ウインドシミターを腰の鞘に収めた。


「さて、ダンジョンクリアおめでとう! 初めてクリアしてみてどうだった?」


「思ったより大変だったけど、その分クリアしたときの手応えも大きいな」


「私、フィールドで戦うよりこっちの方が好きかもしれません」


「そうか。それは良かった。経験値効率もダンジョンの方がいいからな。これからじゃんじゃん通うことになるから、そのつもりでいるといいよ」


 02はうんうんとうなずきながら、奥に出現したテレストーンの方へ足を運んでいく。


「それじゃ、帰ろうか」


「おっと、そこにある風鳴り草を取り忘れるなよ」


「そういえばそうだった」


 02に促され、俺たちは風鳴り草をゲットした。

 色々なことがあって後回しになっていたが、これでようやく最初のストーリークエストがクリアできる。


 俺たちは続いてテレストーンに触れた。

 「ダンジョンから帰還しますか?」というメッセージウインドウが表示され、俺はその下にある「はい」を選んだ。


 視界が徐々に暗くなっていき、独特の浮遊感が俺を包み込む。


 こうして、初めてのダンジョン攻略は大成功に終わったのだった。

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