DIVE12「笛鳴風穴ラングオルラ その1」
「というわけで、ダンジョンにやってきました」
02は誰に言うでもなく、ひとりごちた。
俺たちは、レベリングのためにパーティを組んで、最初のダンジョン「笛鳴風穴ラングオルラ」にやってきていた。
このゲームではIDと呼ばれるその都度生成されるダンジョンに、パーティ単位で潜るシステムとなっている。
しかもダンジョンの内部構造は毎回ランダムに形成されるため、いつでも新鮮な冒険が楽しめるというわけだ。
俺たちはモンスターに警戒しながら洞窟の内部を進んでいく。
「このゲーム、人間がモンスターを倒すのは分かるんだよ。どうしてモンスターが同族を倒すんだ?」
「それって世界設定的な意味で?」
「うん」
「よし、それじゃ説明してやるよ」
02は背中に下げた杖を抜くと、しゃがみ込んで地面に図を描き、講釈を始めた。
「モンスターはそもそも瘴気から生成されるもんだっていうのは二人とも知ってるよな?」
「あっ、はい。公式サイトに書いてありましたね」
「それが近年、正気を失ったモンスターたちが暴れ回るようになったんだ」
「正気を失った? ステータスで言うと混乱状態みたいな感じってことか?」
「まあ、そんなとこだな。相手が人間だろうが同族だろうが、見境なく襲い掛かるようなモンスターがぽんぽん生み出されるようになったわけ。見分ける方法は、目が赤いかどうかだ」
「なるほど。私たちはそういう悪いモンスターたちを倒してるってことなんですね。それなら安心です」
「そゆこと。だから『モンスター』と『魔物』って使い分けるわけ」
02は立ち上がると、再び歩き出した。俺とリリーもそれにならって後を追いかける。
「そういえばお前たち、種族って話し合って選んだの?」
「いや? 自分が好きなのを選んだだけだけど」
「そうだったのか。いやさ、偶然にしてはずいぶんバランスのいいパーティだなと思ったわけよ」
言われてみればそうかもしれない。
俺は近接攻撃が得意なドラゴニュート、リリーは遠隔攻撃が主体のハルピュイア、02は回復役のエンジェルクレリックと、図らずもちょうどいいパーティ構成になっている。
これなら、効率良くレベルアップが出来そうだ。
と、そんな他愛のない会話を続けていると、目の前にゴブリンの群れが現れた。Lv.3が三体。
レベルキャップのLv.30まで達している02にとっては雑魚かもしれないが、まだこのゲームを始めたてのひよっこである俺たちにとっては結構な強敵だ。
「来たぞ! 配置につけ!」
「オッケー!」
俺たちは早速、決めておいた陣形を作って応戦する。
先頭に俺が立って敵の攻撃を食い止め(そういう役割をタンクというらしい)、後方にリリーと02が控える形だ。
タンク役の俺はまず、敵のヘイトを集めなければならない。なので、スキルを発動した。
「食らえ、バイスクロー!」
剣を横薙ぎに払うと、その攻撃は切り裂くようなエフェクトとともにゴブリンたちに命中した。
その瞬間、ゴブリンたちはこちらを向いて攻撃を開始した。
いちおうこれでヘイトが集まったということになるらしい。
敵の攻撃をラウンドシールドでガードしながら、これ以上手前に来ないようにせき止める。
一方、リリーは遠距離攻撃が主体の種族のため近接戦闘はできない。
なので弓による通常攻撃とスキル「フェザーシュート」「エリアルスパイク」で一体ずつ攻撃して、相手のHPをじわじわと削っていく。
「おい、タゲ漏れてるぞ!」
「ああ、ごめん!」
俺はリリーの方へ向かいそうになったゴブリンに再びバイスクローを当て、ターゲットをこちらに戻した。
このヘイト管理というやつが結構難しいな。慣れが必要そうだ。
そうやって三人でわちゃわちゃしているうちに、三体のゴブリンをなんとか倒すことが出来た。
ただタックルするだけだったスライムの頃とは操作難度が大違いだ。
「はぁ、はぁ……やっと倒せた……」
「ま、最初だしこんなもんだな。経験値はどれくらいもらえた?」
「バーの四分の一くらい貯まったかな」
「よし、いい感じだな。回復はいくらでもしてやるから、安心してどんどん突っ込んでけ」
「ひええ……!」
俺は嬉しいんだか悲しいんだか分からない悲鳴を上げながら、先頭を歩いていく。
また敵が出た。今度はLv.2バット一体とLv.3ゴブリン二体の複合パーティだ。
「はっ!」
俺はバイスクローを全員に当てようとしたが、バットだけ対象から漏らしてしまった。
そのため、バットはリリーの方へバサバサと飛んでいってしまった。
「範囲を当てきれないときは単体攻撃もしっかり使え! 特にお前の場合は飛べるんだから、空中もしっかりカバーしろよ!」
「あっ、ああ! 分かった! えっと、単体スキルは……」
俺は画面上に小さく表示されているコマンドを見ながら、リリーを攻撃しているバットの方へ飛行する。
「これだ! ファングエッジ!」
攻撃を当てると、バットはこちらを振り向いて攻撃を開始した。なんとかターゲットが取れたようだ。
そのまま着地して元の位置に戻ると、三体全てのターゲットを俺に集中させることに成功した。
「これ、結構大変じゃないか!?」
「そうだよ。タンクは意外と忙しいんだ。特にこういう多対一の戦闘のときはな」
ひいひい言っている俺の方を見ながら、リリーは申し訳なさそうに頭を下げる。
「すいません、攻撃くらいしかできなくて!」
「リリーはそれでいい。火力担当はただ殴ってればいいのさ」
「なんだよそれ~! 俺もそれがいいな!」
「もう種族選んじゃっただろ。というかそもそも、お前が最初に選んだスライムからしてタンク職だろ。一からキャラ作り直すか?」
「それはめんどくさい!」
「じゃあ、その調子で頑張れ」
「うぇ~……」
俺はぶーたれながらも、敵の攻撃を丁寧に受け止めていく。
隙を見て、通常攻撃を織り交ぜながらバイスクローを打っていくと、やがてゴブリンたちは倒れて消滅した。
「いいぞ。このペースならすぐに1ボスのところまでたどり着けそうだな」
「あ、いきなりラスボスじゃないのか」
「どのIDにも必ず1ボスと2ボスがいるんだ。覚えとくといいよ」
なるほど、いきなり敵の頭は取れないということか。
俺たちはときおり会話を交えつつ、敵を倒して進んでいく。道中に一度レベルアップしたところで、前方になにやら白いモヤが見えてきた。
「なにあれ?」
「あれがボスエリアの入口だ。まずは1ボスだな」
なるほど、これは分かりやすい。俺は意を決してそのモヤをくぐった。




