表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/76

DIVE10「運営の城」

 再び視界が開けたとき、目の前にあったのは巨大な城だった。俺の後からテレポートしてきたフードの男が、若干声をうわずらせながら声をかけてくる。


「かっこいいでしょう?テンション上がりますよね」


「え、ああ……すごいですね」


 俺はその存在感に圧倒されながら、フードの男の後ろについて歩を進めていく。


 開かれた城門をくぐると、そこには豪奢なエントランスホールがあった。

 天井にはシャンデリアが煌々と輝き、床には赤いカーペットが敷かれている。壁際にはいくつもの廊下が伸びており、この建物の広さを感じさせた。


「目的の部屋は二階にあります」


 俺は言われるがままに正面階段を上り、二階へと進んでいく。

 広々とした廊下をしばらく歩くと、フードの男は突き当たりの部屋でようやく立ち止まった。


「みなさん中でお待ちです。どうぞ」


 俺はノックすると、ドアノブに手をかけて室内へ足を踏み入れた。


「失礼しまーす……」


 そこは小さな書斎のようになっており、壁には本棚の代わりに沢山のウィンドウが表示されている。

 中央にある執務机には青い短髪の男が腰かけており、その手前にリリーと02が立っていた。


02(オズ)、リリー!」


「カヲルくん! 無事だったんですね!良かったぁ……」


「遅せぇぞ、カヲル」


 二人は振り返ると、俺の下に歩み寄ってきた。互いの無事を確認して、俺はようやくほっとした心地がした。


「さて、これでいたずらっ子は三人とも揃ったかな」


 男は冗談めかして言いながら、指をパチンと鳴らした。すると、俺たちの横にどこからともなく木の椅子が三つ出現した。


「まあ、固くならずに座ってくれ。君たちを叱るために呼んだわけではないからね」


 俺とリリーが困惑して顔を見合わせていると、02は遠慮せず、そそくさと椅子に腰かけてしまった。それを見た俺たちも、少し遅れて腰かける。


「さて、まず何から話そうか……そうだ、まずは自己紹介からだな」


 男は立ち上がると、胸に手を当てて会釈した。


「私はアルゴス。『The Fang』内部のチート行為やバグの監視、それとセキュリティチェックを担当している」


 アルゴスはそう言うと、背後のウィンドウに軽く目をやった。そこには、俺たち三人の詳細なプレイヤーデータが表示されていた。


「君たちのことはすでに調べさせてもらった。初心者にしてはなかなかに度胸があると思ったが――君の手引きだね、02くん?」


「ああ、そうだよ。面白い実験だったろ?」


 02が自慢げにそう言うと、アルゴスは机に手を置いて身を乗り出した。


「私もそういうのは嫌いじゃなくてね。一介のプレイヤーなら今ごろ君の計画に乗っかって、一緒に呼び出されていたところだ」


「へえ、あんたなかなかイケる口じゃんか」


「いまのはオフレコにしてくれよ。治安維持の要が不正に甘い男だと思われては困るのでね」


 アルゴスはくつくつと笑うと、再び椅子に腰かけた。


「話を戻そう。君たちをここに呼んだのは、私たち運営への協力を請いたいからだ」


「協力?」


「私は前々から、有志のプレイヤーを募って、バグやチートなどの不正を調査する部隊を結成したいと思っていてね。ただ、闇雲に募集をかけたのでは玉石混交になってしまう。メンバーとして適切な人材を探していたんだ。そこに現れたのが、君たちだ」


 アルゴスはぱんと手を叩くと、俺たちに向かって指を差した。


「君たちの発案力と実行力には目を見張るものがある。今までに誰も考えつかなかった手法で、未実装エリアにアクセスしたのだからね。仕様の穴を突くその頭の使い方は、不正をするときだけでなく、不正を暴くときにも大いに役立つだろう」


「つまり、俺たちで運営の監視作業に協力してくれってことか?」


「そういうことだ。どうだい? 頼めるかな?」


 それを聞いた途端、02は大きく首を振った。


「俺は嫌だね。手伝うメリットが何もない」


「報酬なら弾むぞ?」


 アルゴスはそう言うと、02に歩み寄って何やら耳打ちした。すると、02の目の色が一気に変わり、いやらしい目つきになった。


「いいねぇ! やるやる! やります!」


「さっきと言ってることが全然違うんだが」


「やっぱり、人生先立つもんがないとな?」


 にししと笑う02に、俺はがくりと肩を落とした。全く、現金なやつだ。


 一方、リリーはどうかというと、顎に手を当てながらじっと思案していたが、やがて拳を握りしめながら口を開いた。


「私、やります。私なんかでも、このゲームのために役立てるなら、やってみたい」


「そうか。ではカヲルくん、君はどうする?」


 俺はどうしたい?自分の心に問いかける。


 元はといえば、俺は平凡な日常を変えたくてこの世界に飛び込んだのだ。それが偶然の巡り合わせで、思いもしないような特別な展開になった。

 この機会を逃すなんて、あまりにもったいない。


「俺も、やるよ」


 俺の答えを聞いたアルゴスは満足そうにうなずいた。


「ありがとう。それでは現時点をもって、調査部隊『シーカーズ』の発足を宣言する。リーダーは私アルゴス、そしてメンバーは君たち三人だ」


 アルゴスが手をかざすと、机の上にウィンドウが出現し、盾に両翼の生えたロゴが表示された。盾の上に斜めにかかったタスキには「SEEKERS」の文字が記されている。


 俺は胸の高鳴りを感じ、胸元に手をやった。男の子はこういうのに弱いのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ