裏切られたと思った?なら俺が貰ってもいいよね? ~ハズレスキル?いやいやどうせ使いこなせば最強なんでしょ?追放といわれても…~
リハビリに追放もの?僕なりに書いてみました。つたない作品ですが温かい目で見ていただけると幸いです。
突然だがこの世界にはスキルというものがある。
昨今そんな物語がそこかしこにあるのは重々承知なのだがあるものはあるんだからしょうがないと思う。うん俺は悪くない。
お察しの通り俺は今異世界転生ってやつをしたらしい。と言ってもつい今しがた思い出したのだし、今の俺にはアレクって名前があるれっきとしたこの世界の住人だ。
ではなぜ冒頭の世界観説明になるのかというとこの世界は12歳になると神殿に行ってえらーい司祭様によって神様からスキルを授けて貰うのだ。
これはこの世界に生きる人種は皆授かる義務があり、人生がスキルによって狂わさるなんてザラに起こるようだ。
奴隷階級の子供が【剣聖】スキルで化け物みたいに強くなったり、王族の姫が【農業】なんてスキルで農村部が多い辺境の領主に降嫁なんてことも平気で行われる。
で、こんな話をしてるって事はですよ?そう、起こってしまったんですよ『良い方』ではなく『悪い方』のスキル習得が…俺じゃなく、俺の後にスキルを授かった女の子に。
「では領主エルバートン伯がご息女、エリナ・エルバートン前へ」
「…はい」
言われて子供たちが多くいる場から前に出たのは一人の女の子
12歳ということでまだ成長途上であるだろうに既に将来を期待してしまうほどの美貌、白銀の長い髪をなびかせて歩く姿は神殿内ということもあってどこか神秘的な雰囲気を放っている。
だというのに目元の無き黒子と優し気な眼差しを向ける緋眼碧眼から感じる確かな色気には不覚にも胸が高鳴ってしまう。
「ではスキルを授ける、我が絶対にして唯一神、創造の女神イレイア様。
大いなる恵みをかのものにお与えください」
司祭様(なんだっけ偉そうな役職だった気がするけど聞いてなかった)が歩み寄った少女に宝玉のついた大仰な杖をかざしながら祝詞を唱えると神殿全体が輝くような光に包まれた。
「「「おおおおおお!?」」」
周囲からはどよめきともとれる歓声が聞こえてきた。
それもそうだ、今までのスキル付与の瞬間はかすかにスキル習得者が光るといった程度のエフェクトだったのだ、それが神殿全体が光るほど。これは絶対有用なスキルを習得したのだろうと誰もが思ったことだろう。俺もそう思ったし。
周りの群衆がどよめきながらもどんなスキルを授かったのか期待を込めながら司祭様を見つめ、今か今かと司祭様の宣言を待った。
「…………」
しかし、10秒、20秒と待ってみても司祭様は額に汗を浮かべながら困惑している様で一向にスキル名の宣言を行わなかった。
「ライアス枢機卿、どうしたのだ?我が娘のスキルは一体なんのだね?」
「そ、それが…その…」
しびれを切らしたのかお嬢様のお父様(領主様か)が司祭様に詰め寄った。
…枢機卿てやっぱ結構偉い人だよな?俺宗教関係よくわからんのだが…?
「なんだね?先ほどの現象となにか関係あるのか?…まさか…」
「……非常に申し上げにくいことなのですが…その…エリナ嬢のスキルは…」
固唾を飲んで領主様と司祭様の動向を見守っていた群衆、神殿内は異様なほど静まり返っていた。
そして告げられるスキル名。
「エリナ嬢のスキル名は……【コード権限アスタリスク】、…全くの新しいスキル…いうならば外れスキルですね」
♢
そこからは早かった。
確かに今まで聞いたことがないスキルであるし、前例も何もあったものじゃないものだったのだ。
人間知らないものは怖いもの必要ないものとでもいうように、すぐに使い方もわからないようなスキルに対しては興味も示さなくなったのだ。
やれ「そんなスキルは聞いたこともない」「領主が娘のスキル習得を派手に見せようと閃光魔法でも使って罰が当たったのでは?」「使えもしないとか何の役にもたたんな」などあることないこと言いながら神殿を後にしていく群衆。
領主様もやかん置いたら瞬間沸騰しそうなほど顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。
「あ…あの、お父様…」
そんな領主にお嬢様は戸惑いながら声をかけていたのだが…。
「触るでない!!!このエルバートン家の恥晒しが!!」
「っ!?…あぐっ!」
おずおずと領主の袖をつまもうとしていたお嬢様を領主はあろうことか振りほどきそのまま殴りつけた。
「そんな使えもしない、用途も全くわからない屑スキルを授かりおって!!これでは政略結婚の駒としても使えん!!見目だけはいいがこんなことになるなら妾の子のほうがよほど有用だ!!そうだ、それがよい!エリナお前は廃嫡だ!これを持ってどこへなりとも消えるがいい!!」
「ひぐっ!?…ぁ…」
そんな暴論とともにおそらく金貨か何かが入っているだろう革袋を懐から取り出し投げつける領主。
硬貨の落ちる音とともに聞こえた彼女の小さい絶望の声を聴いても誰も声もかけず、やれやれといった様子で去っていく者たち。
だがこれがこの世界では日常的に行われていることなのだ。まだその場で殺されないだけましなのかもしれない。
「…ひぐぇっ…んぐ…」
誰もが声を押し殺して泣く彼女に手を差し伸べるものはいない。…なんだったら彼女の拾う硬貨を狙ってか、それとも見目麗しい彼女自身を狙ってか舌なめずりするものもいるぐらいだ。
これが冒頭でスキルについて語った俺が今いる世界の話だ。
神から授かるというスキルで身分から何まで一瞬で壊れてしまう世界。
幼い子供たちが当たりはずれで一喜一憂し、当たった者たちは栄光を手に、外れた者たちは簡単に地に堕ちる。本当、くそったれな世界だど思うよ。
だけどさ
未だに蹲りせめて無様に泣き喚くまいと懸命に声を殺す彼女を見て
ああ、なんて強いのかと思った
まだたった12歳で…人生これからだって時だ
今日授かるスキル次第ではこれからどんなことでもできただろう
夢も希望もあったはずだ
それでも現実は厳しかった
見たことも聞いたこともないスキル
今までが嘘のようにまるで裏切るかのように一瞬で離れていく民衆、家族
それでも彼女は自分の教示だけは守ろうと、必死に耐えているのだ。
だって…うつむきながらもチラリと見えた彼女の目がまだ死んでいなかったのだから。
…………もういいかな?いい加減我慢の限界だ。
「おい」
「ん?なんだね君は?私が領主とわかっtぐへええええええええええあああああ!?!?」
気が付けば俺は領主のおっさんの腹を力いっぱいぶん殴っていた。
…ごめんちょっと下にずれていたかもしれない世継ぎは大丈夫だろうか。
仕方ないじゃん俺もまだ子供だもんよ。
膝から崩れ落ちぴくぴくしているおっさんにちょっと罪悪感を感じつつも俺は見上げてくるおっさん、お嬢様、まだ場に残っていた者どもに言ってやった。
「そんなにこのお嬢様が必要ないなら俺が貰うがいいな?文句があるなら今言ってみろ聞くだけ聞いてやる」
ちなみにだが俺は孤児で神殿付きの孤児院にいるいわゆる最下層の住人だ。
領主にこんな事をすればどうなるかなんてそれこそ孤児にだってわかる。
そんな俺がこのくそ領主に対してこんなに強気に出る理由、それは…
「あ、アレク君!…いやアレク様!?いくら当代の【勇者】であるあなたでもこのような傍若無人な態度はさすがにいけませんぞ!?」
なんだっけ、えらい司祭様が言ってくれた通り。俺、【勇者】でした。てへぺろっ!
「まぁ、さすがにいきなり殴りかかったのは悪かったとは思うけどさすがに見てられなかったからな、ちなみに俺的には見て見ぬふりしてたお前たちも同罪だからな?」
「そ、それは…」
俺が睨みを聞かせながらそういうと司祭様も押し黙ってしまった。ほんとこの世界スキルで縛られすぎだろうよ…。
そうこの世界で【勇者】とはそれほど価値があるスキルだ。
曰く何もない空間から伝説の聖剣、聖鎧なんかを取り出し剣を振ればどんな魔物も切り捨て、魔法を打てばどんな堅牢な守りの城壁さえ砕く。対を成す【魔王】を唯一倒せる存在である…なんて言われているとんでもスキルでありそれこそ他国の王族並みの好待遇で王都に迎えられるぐらいの権力を持ってしまうらしい。
ぶっちゃけこんな大層なスキルなんていらなかった。だってだって!こんな世界で勇者なんて明らかに昨今のweb小説ではざまぁ対象じゃんよ。勇者と分かった瞬間俺はハーレムという言葉が頭に浮かんだが絶対破滅するなと思ったからあきらめたね!そんな甲斐性ないし。
それに…
「…あ…レク……様…?」
「おう!」
きれいな相貌から今だに大粒の涙を流してはいるがこちらを呆然と見上げぼそぼそ呟いたエリナにいたずらが成功した悪ガキみたいに笑いかけてやる。
「ぁう…///」
わかります?エリナめっちゃ可愛いのよ。もう容姿から性格まで俺のドストライクだったのよね?
だってエリナさんよく孤児院に視察と称してよく遊びに来ていましたし?ぶっちゃけその頃から俺は彼女にぞっこんでしたし?何なら彼女に告白までしてますからな?身分差があるからいい返事ではなかったけど意識してくれてると思うのは俺の願望か?
フフフ、ただの孤児とは違うのだよスキル貰った時に前世思い出したけど今世の俺グッジョブ
「そういう訳だ、エリナ様…いやエリナ。俺と一緒に世界を見て回ろうぜ、俺がお前を絶対幸せにする」
「ひぅっ…あれく…でもわたくし外れスキルで…」
「関係ない、むしろ俺とお前の間に障害がなくなった。何か問題があれば俺が解決する。それに…」
前世知識がある俺としてはエリナのスキル【コード権限アスタリスク】は絶対外れスキルなんかじゃないとわかる。アスタリスクはわからんがもうコード権限って字面がもうね?絶対後でチート覚醒するのが目に見えすぎて末恐ろしい。
でもこの世界じゃそんなスキル存在しなかったんだ、こうなっても仕方ないだろうな。
…でもこれ、俺も前世の記憶戻らなかったらエレナ裏切ってたパターンになるとこだったんだよね。
この世界基準でいくとハズレスキル=価値なしだからもし記憶が戻らなかったら「君に告白…?知らないなぁ」とか言わないとも思えない…
あっぶねマジで覚醒したエリナにざまぁ!!されるとこだったよ…。
ちなみにこのことはまだ誰にも言うつもりはない。だって言ったら領主とか復活して俺とエリナの中を邪魔するかもしれんからな!
本当は【勇者】になったからそのことで功績をあげて10年以内にエリナをもらい受けに行くつもりだったが、エリナには悪いが身分差を一気に詰められたのは大きいのだ。
「そういう訳で領主サマ?エリナは俺が貰っていく。文句があるなら国王様でも通してくださいな」
「きゃ…ぁぅ」
そういいながら俺は真っ赤になってるエリナを抱き寄せて颯爽と神殿を後にした。
…後ろから「ゆぅううううしゃあああああああああ!!!」とかなんか聞こえた気がしたけど気のせいだろう…多分。
♢
あれから3年ほどたった。
ぶっちゃけあの後は我に返ったエリナにそれはもうこっぴどく怒られた。それはもう俺が泣くぐらい怒られた。
確かに俺に救われたのは事実だが、だからと言って暴力に訴えるのはやはりまずかったのだ。
いくら勇者であろうともやはり貴族を殴る…というか不能にしてしまったのはねぇ…本当にごめんなさい。
幸い妾の子に男子がいたので後継問題にはならなかったみたいだがエルバートン伯はそらもう大変お怒りであったそうで軍の編成を急がせマジで俺をどうにかしようとしていたみたいだ。
それでも俺の捨て台詞通りというわけではないが国王様が動いてくれて本当にほんっとうにギリギリ不問になり、俺も罪滅ぼしというわけではないが回復魔法での不能治療と国内の魔物討伐にと忙しい日々を送った。勇者の回復魔法で不能治療…なかなかにひどい使い方だと思う(自業自得)。
そんな忙しい俺だったけどエリナはしっかりついてきてくれた。
今まで身分が邪魔をしていたとでもいうように俺の面倒を甲斐甲斐しく見てくれたし、領地から出て見た外の世界が新鮮でとても楽しそうだ。
…そして驚くべきことにエリナはスキルをしっかり覚醒させたのだ。
【コード権限アスタリスク】
それは恐ろしいことに脚注の対象となる字句を書き換え、書き込みを行えるという能力だった。
簡単に言うとスキル【鑑定】のようにその物の名称、説明、用途、人であればステータス、称号、犯罪歴等を読み取りそこに脚注…[*①は○○に弱い]なんてつけることができるようになる
正直この世界の法則すら変えられるとんでもないスキルなんだけど制限はもちろんあるようで効果時間は300秒ほどしか持続しない、同じ対象に一度だけとあるがそれでも破格だと思う。
お前はスキル使用不可!とかされるだけで5分間一般人の出来上がりだからね…。
しかも止める手立てがない。スキル発動中は思考加速するのか世界が止まるらしい。…それなんてザ・ワー〇ド?
それ以外にもなぜが星降らしで有名な星属性魔法や氷属性魔法も最初から最上級のものまで使えてとんでもなく強く、さらにその二つの属性に関してまるで乗算でもするように重ね掛けして倍以上の威力を出すこともできた。
…正直引いたら頬を膨らませて怒られたけど可愛かったのでほっこりした。…でも山消し飛んでんだよなぁ…。
まぁ、そんなスキルだったので当然エルバートン伯も国王様も黙っていられなかったのかエリナを連れ戻して政略の道具に…なんて考えてたらしいが当の本人から
「魔王討伐の為に私たちは戦っているので今更遅いです。それにアレクのそばを離れる気はありません…ただでさえ最近油断ならないのに…(ボソボソ)…しつこいようなら星が落ちますがよろしいですか?」
とか普通に国王に面と向かっていった時には肝が冷えた。…なんでそんなに過激な子になっちゃったの…と口に手を当てて静かに涙を流す俺。そしてその隣には「大丈夫ですか?勇者様」「なに泣いてんのあんた…」とハンカチを当ててくれる【聖女】とエルフの【剣聖】さんがいるのだ。
彼女たちが仲間になった時にもいろいろあったわけだが明らかに彼女たちがきた後からエリナの様子がおかしくなったのである…俺はエリナ一筋だよ!?いつもの素直で冷静な君に戻って!
そんなわけで俺は今日も元気に魔王討伐に向けて冒険を続けている。ぶっちゃけもう俺よりもエリナの方が強いけどそれは今更だな…。
これは追放された大好きな令嬢を貰った転生勇者の物語。
お読みいただきありがとうございます。
だいぶ書くのに期間が開いてしまったので書き方とか丸っと忘れたんですけど楽しんで書けました。
もしお気に召して頂けたなら評価、ブクマ、感想等よろしくお願いします!