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BLOODY COEXISTENCE  作者: AЯ!SΔ
4/4

食糧

次の日の夜まで黎は眠ったままだった。


黎のクラスの生徒達は、昨日の血の匂いは誰のものだ、呉羽沢のものなのか、1度吸ってみたい、など口々に話している。


その中で水無月、神無月そして玲於だけは黙っていた。


ガラ…ー


急に教室のドアが開いた。

ドアの向こうから入ってきた人物は丁度噂になっていた本人、呉羽沢黎であった。

姿を確認した瞬間辺りは静かになり、全員黎の方を見た。


「…何だ?」


視線に気付いた黎は顔を上げ、周りを見渡した。


「…この子からは血の匂いがしないよ?」


誰かがそう言うと、確かにそうだ、何も匂いがしない、じゃあ誰の血の匂いだったんだ?、とまたそれぞれ口々に話し出した。


黎は一度教室を見渡すと、席へと向かった。


「お前、昨日は何してたんだよ」


急に目の前に男が現れた。


「何って…寝てた」


嘘は言っていない。

実際どんな形であれ寝ていたのだから。

さっさと席へ座ろうと1歩踏み出した。

だが「待てよ」と言う声と共に腕を掴まれた。


「まだ何か用?」


掴まれた腕を一瞥して目を見ながら言った。


「お前の一族、吸血鬼(ヴァンパイア)ハンターの家系だろ?滅ぼされた、っていう」


黎の眉がピクリと動いた。

その動作を見逃すことなく、男はニヤリと笑い続けた。


「それに…」


男は黎に近寄り、耳元で呟いた。


「お前、吸血鬼(おれたち)の食糧なんだろ?」


黎は目を見開き、男の腕を振り払った。

〖呉羽沢〗と言えば吸血鬼ハンターで有名だ。

しかし、食糧としては上層部の吸血鬼達にしか知られていない。

何処でその情報を知ったのか、男は不敵な笑みを浮かべながら黎を見ている。

黎は男を睨みつけている。

強く握りしめた手が微かに震えている。

周りは何の事か分からず、ざわついていた。


そんな黎を守るように、玲於は黎の目の前に立った。


「何だ…お前はそいつを守るのか?ただの人間のくせに」


1歩、男は2人に近付いた。


「お前さ…」


玲於の後ろにいた黎がため息混じりに呟いた。


「早く私に殺されたいのか?」


今まで聞いたことの無い、殺気混じりの低い声で男を見ながら言った。

男は恐怖からか1歩引いた。

先程までのざわつきが一瞬で無くなり、辺りは一気に静まり返った。


「何をしているのですか。早く席に座りなさい」


ユイが片手に教材を持ちながら教室に入ってきた。

その一声で先程までの空気が一気に変わり、それぞれ席へと座った。

ただ1人、男だけその場から動けずにいた。


「何をしているのです、レンフェルド=マインツ。早く座りなさい」


レンフェルド=マインツと呼ばれた男は、黎の殺気の当てられ恐怖で動けずにいたが、ユイに名前を呼ばれ我に返ったレンフェルドは小さな声で謝り、席へと座った。


水無月と神無月は交互に黎とレンフェルドを見ていた。


ー食堂ー


「アレ?今日は來那1人なのか?」

「…水無月と神無月か。レイなら今学園長室に呼ばれて行っている」


人、食堂の隅で食べていた玲於の元に双子が近寄ってきた。

2人の手には、腕から落ちそうになる程沢山の食べ物を持っている。

その中には、吸血鬼の為の血液パックが混ざっていた。


「何で?」


双子は声を揃えて首を傾げ聞いた。

玲於は2人の方を見ずに「さぁな」とだけ答えると、また目の前にある食事を食べ始めた。

双子は玲於の目の前に食べ物を置きながら座った。


「來那と呉羽沢ってどういう関係なんだ?」

「どういうって…………幼馴染み?」

「何で疑問形なんだよ」


水無月がため息混じりに言うと、神無月は二人の会話を聞きながら笑っていた。


「幼馴染みって事は昔のあいつも知っているんだよな?」

「まぁな」

「くーちゃんが吸血鬼ハンターで有名な呉羽沢の生き残りって本当なんだよね?」

「あぁ。その話が一般的なんじゃないか?みーんな知ってるぞ」

「一般的?どういう意味?」


玲於の一言に疑問を感じ、双子は首を傾げ聞いた。

一般的にとはどういう意味なのだろうか。この他にも言われていることがあるのだろうか。

玲於は小さな声でヤベ…と呟くと、ため息を吐きながら頭をガシガシと搔いた。


「この話はトップシークレット事項だ。言うんじゃねーぞ」


真剣な顔をしながら言う玲於に双子はこくりと頷いた。


「さっきも言った通りあいつが吸血鬼ハンターなのは皆知っている事だ。だがな…」


声を落としながら言う玲於にブロマイドはゴクリと唾を飲み込んだ。


「吸血鬼の中でも上層部の奴らしか知らない事もある」


「”吸血鬼の食糧”」


玲於は消え入りそうな小さな声で呟いた。

だが、双子には聞こえたみたいだ。


「あいつの一族はな、吸血鬼の為に血を差し出していたんだ。お前たちが飲んでいる吸血パック…どこからその血が提供されていると思う?金のない人間達か?身寄りのない人間か?そうだ、そいつらの血もある。だがな、所詮1人から採れる血なんて痴れている」


淡々と話す玲於に双子は黙って聞いている。


「一部の人間…一族には一滴で人間1人の血を飲んだ事になる奴らがいる」

「そのひとつが呉羽沢一族って言うのか」

「あぁ。レイも生まれた時からその血をお前ら吸血鬼に食糧として提供していた。直接噛まれた跡もある。たった5歳で噛み跡やハンターとしての傷が身体中にあった。たった5歳だぞ。止めてとも言えない、辛いとも言えない。そんな環境で育ったんだ、あいつは」


双子は黙って聞いている。


「俺はそんなレイの姿を見たくなくて…少しでもレイを楽にしてやりたくて…」


玲於は一言置いて目を瞑りゆっくり呼吸をした。

そして目を開け呟くように言った。


「自分から吸血鬼達の食糧となった」


ー学園長室ー


一方学園長室では、黎と学園長、そしてエリートクラスの担任、ユイ=ラティーナが話をしていた。


「学園長、もうこの子の存在に気付いている生徒がいます」

「…とうとうこの日が来てしまったんだね。この際全生徒に言ってしまうかい?私の血でお前達は生かされているんだーって」


冗談交じりに言うが、黎は表情を変えず「黙っています」と一言だけ言った。


「君が黙っていると言うなら構わないよ」


ニッコリと微笑みながら言った。

黎は軽く会釈をすると踵を返し部屋から出て行こうとした。


「呉羽沢さん、少し待ってくれるかな」

「…何でしょうか」

「何点か約束してくれるかな?」


一拍あけると、黎はゆっくり頷いた。


「まず1つ目」


そう言って指を1本出した。


「この学園にいる以上、君の血を誰にも飲ませないで欲しいんだ。ここにある血液パックも君の血は一滴も混ざっていない。君の血は特に普通の人、他の一族の人とは違う…特別な血だから。そして2つ目…」


指をもう一本足した。


「もし、この学園内で違法吸血鬼が出てしまった場合…上の許可が降り次第、任務を優先してもらってもいいよ。例えこの学園の生徒であろうとも」


学園長の言葉に黎は短く返事をした。


「それと來那玲於君の事なんだけどね…」


黎は玲於の名前が出て、ピクリと反応した。


あの事(・・・)は誰も知らないはずだから安心していいよ」


その言葉を聞いて、黎は顔に安堵の表情を浮かべた。

黎のその表情を見て、学園長とユイは顔を見合わせて微笑んだ。


「ありがとうございます。では、失礼します」


深々と頭を下げると、部屋を出ていった。


「ユイ、あの子達の事をよく見てあげてね」

「はい、分かりました。私も失礼します」


ユイも一礼をすると踵を返し部屋を出ていった。

部屋には学園長だけが残った。

学園長は何か思い詰めた様な顔で2人が出て行った扉を見ていた。



「良かった…玲於の事をまだ知られていなくて」


黎は食堂に向かっていた。

すると突然、食堂から大きな音が聞こえてきた。

何かが割れた音だろうか。

黎は走って食堂へと向かった。

食堂に近付くにつれ、声が大きくなってくる。


「お前…なんでそんな事したんだよ!お前が死ぬかもしれないんだぞ!」


水無月は玲於の胸倉を掴み机に押し付けていた。


「みーくん、落ち着いていて!」


神無月が水無月の腕を掴み、止めようとしていたが力の差で止めることが出来ない。


「変だな。お前達が飲んでいるその吸血パック……それにも俺の血が混じってるんだぜ?何故怒るんだ?お前達は血を飲まないと生きていけない。それを提供しているっていうだけでどうして怒る?」


淡々として言う玲於に水無月は怒りで手が震え、玲於を投げ飛ばした。


「何をしているんだ」


入口の方から声が聞こえた。


「…呉羽沢…」


声の主は黎だった。

周りに居た人々は一斉に黎を見たが、本人は気にすること無く水無月達がいる方へ歩いて来た。


「だって…だってこいつが!」


何かを噛み締めるように途中で言葉を詰まらせた。


「玲於、何があったんだ」

「…悪い。俺がお前と俺の事…あいつらに話したんだ」

「…そっか」


黎は呟くように言うと、双子を見た。

大きな目を潤ませ、今にも泣き出しそうな2人がいた。

黎は黙って2人に近付き、手を伸ばすと2人の体はビクッと震えた。


「…え?」


気が付くと2人は黎に抱き締められていた。

背中を数回優しく撫でると、双子の目から涙が零れ出した。


「2人は私達の為に怒って泣いてくれてたんだよな。ありがとう」


黎が耳元で言うと、双子は年相応の小さな子供の様に泣き出した。



「何が呉羽沢の生き残りだ…何がありがとうだ…バカにしやがって。お前達人間共は俺達吸血鬼の言う事を聞いていればいいんだよ。この家畜共が」



急に男の声が食堂に響いた。

レンフェルドが食堂の天井にある鉄骨に座りながら見下ろしていた。

レンフェルドの周りには人影があるが、レンフェルド以外の人が誰なのか分からない。


「レンフェルド!それに誰なんだその周りの奴等は!」


水無月が叫んだと同時に、周りに居た男の1人が飛び降りてきて一瞬の内に水無月を押さえ付けた。


「ぐ…離せ…!」


男の力は強く、びくりともしない。


「みーくん!………あ”…っ!」


助けに行こうとした神無月も別の男に首を掴まれ、そのまま持ち上げられた。

首を締め付けられているのか、段々酸素が無くなり、手が震え涙が出ている。

次の瞬間、男は神無月の細い首筋に噛み付いていた。


「あ……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」


神無月は目を見開き、叫んだ。

ポタポタと血が落ち、地面に血の水溜まりが出来ている。

吸血行為、即ち吸血鬼最高級の違法。

その行為が今目の前で行われている。


「か、神無!」


水無月は必死に手を伸ばすが届かない。

押さえ付けられる力が段々強くなってくる。

大切な片割れが血を吸われているのに無力な自分がいる。

何も出来ない自分に、男の手から抜け出せない自分に、力無く垂れ下がっている神無月の体を見て視界が揺れ出す。


「神無ぁぁぁぁぁ!」


水無月は必死に手を伸ばし涙を流しながら神無月の名前を叫んだ。


ドンッー…


「ヴァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!俺の……俺の腕がァァァ!」


一瞬、何が起きたのか分からなかった。

水無月の視界には苦しそうに咳をしながら倒れている神無月の姿と、灰の中、男が片腕を失い悲鳴を上げながら無くなった腕を押さえる姿と、自分の目の前に立ち、二丁の銃を持っている黎の姿が写った。


「呉羽沢…」

「すまない、水無月、神無月。助けるのが遅くなった」


横目で黎が水無月を見た。

いつの間にか玲於が神無月を連れて来てくれたのか、傍に抱えて立っている。

「玲於、水無月、神無月…3人は離れてろ」とだけ言うと、男と向き合った。


「今ちょうどタイミングよく許可が降りて来た。…何処でみてるんだか…」

「…何の…話だ…」

「お前を殺す許可だよ」


そう言うと銃を構えなおした。


「ミッションスタート」


小さく呟いたと同時に、床を強く蹴り一気に男と距離を縮めた。

銃口を男の頭に定め、数発撃った。

だが全て避けられてしまった。


「危ねーなぁ!」


男は弾を避けながら黎に近付いてきた。

男が手を伸ばし黎を捕まえようとしたが逆に手を掴まれてしまい、呆気なく首を捉えられてしまった。

男が黎の手を離そうと爪を立てた。

腕に爪が食い込み一瞬黎の顔が歪んだが、銃口を頭に向け、躊躇うこと無く1発撃ち込んだ。


男は真っ黒なはいとなりー死んだ。

周りは金縛りが溶けたように崩れ落ちる者や、黎を恐怖の対象として見る者、泣き出す者や悲鳴を上げている者など様々な反応だった。

目の前で吸血鬼が灰となり、死ぬ姿を見るのは初めてだったからである。


「捕まえた」


いつの間にかレンフェルドが降りて来ており、黎の両手を掴んでいた。


「呉羽沢の血には興味があったんだよ。食糧と言われているお前の血がな…特にお前血を飲むと強い力が手に入るってな」


レンフェルドは首筋に顔を埋め、舐めている。


「離せ!」


黎は突き放そうと暴れるが、力が強くびくりともしない。


「レイから離れろ!」


玲於がどこから出したのか刀を構え、目の前に立った。

刀の刃や柄、鍔全てが漆黒の刀だ。


「お前、俺と戦う気?でも…」


黎を掴んだまま玲於の前まで移動した。


「お前が相手じゃ俺が退屈するだけだ!」


玲於を思いっ切り蹴った。

防ぎはしたものの吸血鬼と人間の力では差があり、5m程飛んでしまった。


「玲於!くそっ離せ!」


黎は暴れるが何の意味も持たない。


ブツー…


レンフェルドは黎の首に牙を立てた。

耳元で喉を鳴らしながら血を飲む音がやけに大きく感じ、体内から血が失われていく感覚が気持ちが悪い。

今にも気を失い倒れそうになるのを必死に耐え、銃を持ち替えレンフェルドの足を撃った。


「ぐあ!」


撃たれたレンフェルドは黎から離れた。

足を押さえているが、太腿から先が無くなっている。

黎は今にも倒れそうな体を何とか支え、首に手を当て血を止めていた。

その指の隙間からは血が流れている。


「はは…はハハはハ!」


レンフェルドは狂ったように笑い出した。


「これだ…この力!内から溢れてくる様なこの感じ!」


無くなったはずの足がどういう訳か普通にある。


「今は一旦引いてやる。呉羽沢、次会った時はその血を全て飲み干してやる。その時まで楽しみに待っていろよ、俺達の食糧さん」

「ま、待て!」


強風が吹いたと思うと、レンフェルド達の姿は消えていた。


「神無、大丈夫か!?」


水無月が心配そうに神無月の顔を覗き込んでいる。


「私は大丈夫」

「…良かった…」


神無月の微笑んだ顔を見て、水無月は泣きそうな顔になり、強く体を抱きしめた。

それと同時にドサッという音が聞こえた。

音のした方を見ると、黎が顔を青白くさせ倒れていた。


「レイ!」


玲於は慌てて近寄り、黎を抱き起こした。

黎の反応はない。


「早く、早く救護室に…!」


玲於は血相を変え、黎を抱き抱え救護室に向かった。

双子もその後を追い掛けて行った。

遅れて食堂に着いたユイは、悲惨な状態を見て言葉を失っていた。

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