予想外の後押し
早朝、屋敷の扉を静かに閉めリースは外に出た。
隣のマリアンナの家を見て、まだ寝ているであろうマリアンナに言った。
「じゃあ、いってきます。心配ばかりさせてごめん。でも、きっと夢を叶えて来るよ。今までありがとうマリア姉さん」
そして門に向かって歩き出そうとした時、横の木陰から声がかかった。
「どういたしまして。ついでに旅に出るのは少し待ちなさい?」
驚いて声のする方を見るとマリアンナが腕を組み立っていた。どこかに出かけるのか、バッグを持ち外出着を着ている。
「マリア姉さん!?どうして....」
「あんたの考えてる事なんてお見通しよ。何年一緒にいると思ってんの?」
ゆっくりとリースの所に歩いてくる。
「....何回言われても、僕は諦めないから!」
リースは身構えて防御魔法を起動させようとするが、
「ハァ...だから、あんたはせっかちだって、いつも言ってるでしょうが...はい、これ」
マリアンナは呆れつつ答えて、リースに手紙を渡す。
「えっ?これは...母さんからの...?」
差出人を確認すると筆跡からも母フィリスのようだ。
「読みなさい、今すぐ」
マリアンナに読むように促され、手紙を読むと驚く事が書いてあった。
『リース、久しぶりね。
マリアンナから貴方の事を教えてもらいました。
小さい頃からの夢を叶えようとする貴方の気持ちは、母としても応援したいと思います。
幸い、お父さんのこちらでの仕事は終わりそうです。あと少しでそちらに帰れます。
もちろんお父さん、ハルトも一緒に。
だから、貴方は貴方の夢を叶える為に頑張りなさい。
くれぐれも、無理はしないように。
竜族でも無敵ではありませんからね。
また再会出来る事を信じています。いってらっしゃい。
フィリス』
「...えっ?こ、これマリア姉さん、母さんに手紙を...?」
「まぁ、フィリス様の居場所を特定するのに、少し時間がかかったけど。昨夜遅くに使いの竜が届けてくれたのよ。何とか間に合って良かったわ」
「...そんなの聞いてないよ?いつも止めろって..」
「だから、せっかちなのよ、あんたは。せめて、フィリス様からの手紙が届くまでは待たせようとしてたんだけどね」
「マリア姉さん...」
リースはマリアの答えてを聞いて、思わずマリアを抱きしめた、ではなく抱きついた。身長がマリアンナは既に成人女性の平均値で、リースはまだ成長過程の為に、頭がマリアンナの豊かな胸の位置である。
誰が見ても、年上の女性に甘える子供の姿にしか見えない。
「ちょ...な、何を!?」
しかし、マリアンナはリースのいきなりの抱擁?に激しく動揺した。
「ありがとうマリア姉さん!大好きだよ!」
リースは抱きついたままそう言うと、さらに腕の力を強めた。
「なっ!?..バッ、バッカじゃないの!?いい加減放しなさい。こら、リース...ちょっ、もう..」
リースの言葉を聞いて、更に動揺して顔を赤らめるマリアンナだが、リースを自分から引き剥がす事は出来なかった。
「...ホント、バカなんだから....」
リースの返答変わりなのか、胸にリースの頭を強く抱きしめ返して呟き、リースの髪を優しくなでるマリアンナ。そして、
「さぁ、じゃあ行きましょうか!リースの夢を叶える為に!」
暫くして落ち着いたリースに宣言するマリアンナ。
「はい?どうしてマリア姉さんも一緒なの?」
不思議そうに尋ねるリース。
「リースが1人で旅に出る許可なんて、無理に決まってるでしょう?私の同伴がフィリス様の条件、約束ですから!」
きっちり言いきるマリアンナ。
「なっ!?....聞いてないよ!?」
驚くリースに、
「今言ったでしょ!拒否は許しません!」
豊かな胸を反らし断言するマリアンナ。
どうやら母フィリスとの本人無視の密約で、旅に同行するのは決定事項のようだった。
「ハァ...分かったよ。じゃあ、改めてよろしくマリア姉さん」
「えぇ、こちらこそよろしくね。リース」
2人は微笑み合い歩き出した。
リースの、いや、2人の夢を叶える為に。