屈折率 3 「発表会」
読みにくいですが、戯曲です。
蠍の火になりました
市川先生を
偲んで戯曲を出させて頂きます。
この作品は、舞台劇、屈折率を題材に、高校演劇部と市川先生がオリジナルで作成した物です。
引用されているもの調べましたが、平成の物でどこまでが引用か解りませんでした。差別用語も含まれます。
現在、コロナ渦の中、現役で舞台を踏んでいる役者様、学校で演劇をしている学生、スタッフの方々、それに準ずる全ての人が、また、舞台に戻ってこれるよう願いを込めて。
この作品を上演したい方々がいましたら、メッセージを頂けたら幸いです。
先生も小躍りすると思います。
現役時代に作品に関わりました方々、異論あると思います。でも、また現役女子高生が演じてる姿を見て喜んでいる先生に、蠍の火になって報告したいです。
屈折率 3 「発表会」
作
某高校演劇部顧問 市川 及び同校演劇部員
演出
某高校演劇部顧問 市川
出演者
いきづまり 生徒 A 女子
八方ふさがり 生徒 B 女子
からまわり 生徒 C 男子
ひとりよがり 生徒 D 女子
袋小路 生徒 E 女子
びんづめ 生徒 F 男子
卒業生 某高校 卒業生
観客席 某高校 OB OG 関係者
この戯曲は、卒業生たちに、資本社会に踏み出そうとする全てのジョバンニ達に捧げられている。
舞台、客席とも明るいまま。幕はずっーと
前に上がっている。
舞台上は何もない。
八方ふさがり、いきづまり、うろうろと
でてくる。
八方ふさがり「東京芸術劇場ってきれいじゃん」
二人舞台の前に座って足をブラブラさせな
がら会話を始める。
すると、左右の幕からびんずめ、
ひとりよがり、袋小路、からまわり、が
顔を出して、のぞく。
いきづまり 「ところで何のお芝居するんだっけ、私たち」
八方ふさがり「銀河鉄道の夜でしょう」
いきづまり 「でも、遅番のジョバンニがまだ来てないよ」
八方ふさがり「またかよ」
いきづまり 「何しようか」
八方ふさがり「氷おにしよう」
ジャンケンポンで全員氷おにをする。
会場へ出ていき、ドアの外へ出ていき、
そこに子供たちの小宇宙が誕生するように、
走り回る。
やがて、いきづまりが鬼になる。
舞台の上、全員氷になって、動かなく
なってしまう。
歌ルイジ・ノーノ「すすむべき道はない、
たが進まねばならない」が短くかかり、
客電おち舞台上の照明のみ残る。
いきづまり、しばらく何がおこったのか
みまわしている。次第に恐くなって。
いきづまり「どうしたの。何で動かないの。私 何かした。
遊ぼうよ。ねぇ遊ぼうよ。
みんなどうしちゃったのよ。なんなの。
やめようこんなこと、やめてよ。」
再び沈黙
からまわり「最近良く人を見る。良い人。悪い人。
それぞれだがその姿は時折水に映った
自分のようなのだ。
彼らはそんなことはつゆ知らず、勝手に
ふるまっている。
その様をみると、私は時折
心苦しくなるのだ。
人生の十字路に立っている私たが、
時は空を落ちる槍の如く、凄惨かつ
残酷に流れ、他人は皆道を決め、
私は今だ決めあぐんでいるのだ。
ただむなしくも猫のごとく生きている、
私とはいったいなんなのだろう」
と言って無気力になってへたりこんで眠って
しまう。鏡を取り出して、頭をとかし口紅を
ぬる。
いきづまり「何言ってんだ、からまわり。
それは銀河鉄道の夜のセリフじゃないし、
なんなんだ。さあ、お芝居をしようね、
みんな」
ひとりよがり「私は誤植された活版印刷の活字です。
私は私の加害者にて被害者。
彼の愛情から『あ』が失われたあの日。
私の太陽から『た』が失われたあの日。
かなってもかなってもかなわない夢。
私ののどはカラカラです。
頭に砂鉄が、こびりついてくる。
それは銀河の砂。
私に水晶のコルセットをはめてください。
さびてゆく私。雨が降ればもっとさびつく。
私、昨日のダンスパーティーで我を忘れて
しまいました。だから私は忘れ物。
遺失物係へ届けを出します。
名前はいつも三人称単数つまり他人です」
と言ってへたりこんでしまう。鏡をだし
口紅をぬったり髪を直したり。
いきづまり「またやってるな、ひとりよがり。やめろっ
て言ったろ。そういうひとり言とかは。
オマエは本当に、ひとりよがりの
自己中毒患者だな。
お前のひとり言や悩み事は、もう
うんざりだよ。くだらない。
マニュアル通りにしゃべれよ」
袋小路「あなたはどんどん消えていくのに、
私に混ざって残っているのね。
あのとき吸い込んだ、あなたの言葉たち。
あなたの言葉はわたしを犯すパラサイト。
過去というのは『死の市』です。
しかも完成形。怒りによっては決して
復元されない見事な彫刻。私は誰ですか。
私は袋小路です。袋小路は、壊れたジャズの
レコード。袋小路は首の回らなくなった
珈琲ひきです。」
と言って無気力になってへたりこみ、鏡を
見たり口紅をぬる。
いきづまり「袋小路までどうした。おい、みんな
どうしたんだよ。せっかく楽しく遊んで
いたのに。お芝居するんじゃなかったのか。
どこで道を踏み外したんだ。
こんなんじゃもう、
みんなで「銀河鉄道の夢」が見れなく
なっちまうぞ。何鏡ばかりみてんだよ」
びんづめ「勇気を一度も知らなくて、僕は悲しい。
恐怖が去ろうとしないので、僕は悲しい。
太陽に近く熱からは遠く。僕の終末は
もうそこまで来ていると思う。
ピクニックは華やかすぎて、足を踏みだせない。
テーブルは強すぎて、僕はヘリにしがみ
ついているだけだ。誰でもいい。
僕は人の肩に寄り掛かりたい。誰だって
僕より暖かいはずだ。
勇気を一度も知らなくて、僕は悲しい。
恐怖が去ろうとしないので、僕は悲しい。
太陽に近く熱からは遠く。
僕の終末はもうそこまで来ていると思う。」
いきづまり「おい、びんづめ。そのセリフはなぁ、
去年の文化祭の『タイタニック号沈没』
のセリフじゃないか。なんなんだ。
オマエボケタノカ」
びんづめも無気力になりしおれていく。
鏡を取り出し口紅をぬり髪をとかす。
八方ふさがり「何も持ってないことに、今気づいたん
です。あの時、気づくべきでした。
町外れの廃工場でザネリのセガレと
カンパネルラのムスメが羊の毛刈り
勝負で盛り上がっていた時に、
あの血気盛んな若者に力づくで押さえられ、
鋭いバリカンで刈り上げられ赤裸に
された子羊たちの目はまさに私の
それでした。
何も持ってないのは盗まれたからです。
私が持っていたスベテ。
一人で月を眺めた夜も、愛しい人の
微笑みも、
貝のボタンと間違えてぬいつけた夜空の
星星も、
名付けられない感情の数々も、
でも私は哀しくありません。
そんな感情さえ、あの盗人は持って
いってしまいました」
と言って無気力な高校生に戻り、鏡を見て
口紅をぬったり眠ったり。
いきづまり「八方ふさがり、オイそれは没になった
セリフじゃないか。みんな自分勝手な
セリフばかり言いやがって。これじゃあ
夢が実を結ばない。夢の柱が倒れて
しまうぞ。ばらばらになってしまいぞ。
この舞台がみんなの夢で出来ていること
を忘れたのか。
鏡ばかりみやがって。やる気あるのかよ。
みんなへたりこんじまって、どうした。
お芝居する気なくしたのか。
やる気なくなるよな
まったく。」
といきづまりもへたりこんで、鏡を出し、
髪を前にたらしたり口紅をぬったりし
はじめる。
からまわり「私は惑星がうらやましい。
惑星たちは軌道にしたがって運行すれば良く、
その運動をわずらわすものは何もない。
私はといえば、ひっきりなしに人間に
衝突している」
からまわりがこのセリフを言い始めると、
びんづめが、からまわりの動き・セリフを
真似しはじめる。
鏡をいきづまりの方へ向けゆっくりと立ち上がる。
びんづめ「ここは僕の領土です。ここから出る
つもりはありません。
限りなく貝殻の中へ、引きこもっていく私です。
かつて私は鳩でした。大空からスペインへ飛ぶ、
羽の生えた豚でした。
ワキ毛はちゃんとそっています。
マネキンの真似が好きなんです。
コピーされダビングされ、コラージュされて
スライスされた私です。
私の体はスデニ、ニセの私の命令を聞く
ロボットです。産業用の。
誰かを傷つけるかわりに私は自分を
殺してしまうのです。
僕はまだ離乳していなかったのです。
豚から。
僕はつまるところコンプレックスの
化学反応によって
生まれたクソのかたまりにスギマセン。」
びんづめがこのセリフを言い始めると、
からまわりと袋小路がびんづめの動き・
セリフを真似しはじめる。
他者は鏡を見て口紅をぬったり紙をなおしたり。
ゆっくりと鏡をいきづまりに向け立ち上がって、
いきづまりの方へ歩いていく三人。
袋小路「私をぶってくださいと、あなたに頼んだのは
私が見えなかったから。
私は黒い太陽の下で生まれました。
黒いコウノトリ、黒い鳩、黒い海、
いや生まれたのではなくしぼり
だされてしまったのです。
コールタールまみれの私です。
あなたって醜いわ。
マリアのお腹は泣いている。
ヨセフの両目は赤ヒ糸デ縫ヒ閉ジラレタ。
とてつもなく大きなものが近づいてくる。
とてつもなく大きいものが近づいて来ます
信じていたものはみんな奪われ僕らは
スッカラカンになっちまうだろう。
あのタンカーを燃やせ」
袋小路がこのセリフを言い始めると、
からまわり、びんづめ、ひとりよがり、
が動き・セリフを真似し始める。
次第にささやき声になる。
ひとりよがり「あの朝、私の戸棚から百羽の鳩が盗まれた。
だがそれは本当は海だった。
あの日から、私は銅像になりました。
砂鉄がこびりついた私。一色二色三色
以上で無限大。砂鉄は何色だったっけ。
それも昔に置いてきた。昔の昔の又昔。
平成時代に置いてきた。
寂しいくらいがちょうどいい。
優しく相手をしてあげる。アイスクリームを
なめるように、あなたの耳をなめて上げる。
両耳ともなめてあげる。
ベロベロなめてあげる。
ベロベロなめまわして、あなたの唾液と
私の唾液がまざるあの楽しい一時を
一緒に過ごしましょう。
ドロドロでベタベタの顔をこすりあわせ、
上から下まで舌なめずり。
一時の楽しみを味わいつくすように。私。
私ってね消して乾くことのない傷口のこと
なのよ。傷口を埋めてよ、あなた」
ひとりよがりのセリフが始まると、
八方ふさがりも真似しはじめる五人。
いきづまりにせまり、いきづまりの
身体自己に寄生してゆく。
からみあう六人。
ベルーメルの絵のような一つのかたまり肉塊
になる六人。
愛のパラサイト肉塊。
「傷口を埋めてよ、あなた」で鏡を客席に
向ける六人。
八方ふさがりのセリフが始まると、一瞬緊張し、
ゆっくりとひとりずつ立ち上がっていく。
いきづまりもバラサイト感染し、
同じセリフ同じ動作になっている。
八方ふさがり「私は廃園に立つ影。苦しまぎれの雲の汗。
水差しは壊れてしまい私の井戸も枯れて
しまった。
私は私の指先さえ疎外されてしまったのを
知っています。
強制労働が石をしょってやって来ます。
この洞窟を爆破しろ。影たちのつぶやきを
消せ。
いや、私はしない。まだしない。
蹴られてつらい。
あなたもあなたもあなたも、
あなた泣いているの。それでいいんだ。
痛くても痛くても我慢する。
痛くてもいたくても、もうここに
いたくてもいられない。
銀行の窓はすべからくひび割れている。
導火線は引かれている。あちらこちらに
ガラスのクモの巣。すでに入り組んだ
ところに立ちすくんでいる。
立ちすくんでいる。」
六人、ゆっくりと立ち上がり舞台上に
立ちすくむ。
いきづまり「ああ、もうめちゃくちゃじゃない。
なにやってるのよ。
私たち銀河鉄道の夜のお芝居をするはずが、
なんでこんなになっちゃうのよ。お客さん。
ごめんなさい。私たち、どう生きれば
いいかわからないまま。
柱時計の中はいつも雨。
火花になってぼろぼろに散る私。
ああ、これは去年の文化祭のセリフだ」
このセリフが始まると、全員いきづまりの
真似をしはじめている。
いきづまり「私までどうした。だいたいお前たちは、
いったい何なんだ。俺の真似ばかりしやがって。
真似すんなって言ったろ。いいかげんにしろ。
お前ら一体何なんだ」
舞台の全員「だいたい、お前たちは一体何なんだ。僕の真似
ばかりしやがって」
いきづまり「真似すんなよ」
舞台の全員「真似すんなよ」
いきづまり「真似すんなって言ったろ」
舞台の全員「真似すんなって言ったろ」
いきづまり「いいかげんにしろ」
舞台の全員「いいかげんにしろ」
いきづまり「お前ら何なんだ」
舞台の全員「私はあなただ」
いきづまり「私はあなただ」
全員 「私はあなただ」
私はあなただをくりかえす。
いきづまり「ああ、もう訳がわからないわ。ああ、
もうこんな鏡地獄はたくさんだ。
ほらこんないっぱい私がいる。どれが
本当の私かな。まとまらないのよ人生。
まとまらないのよEVERYDAY」
八方ふさがりのパケベル(No.1)が鳴る。
ポケベルパニックのはじまりだ。
八方ふさがり「私のパパはサカナよ。サカナから
ポケベル。青空から静脈注射。
つまらないのよ。EVERYDAY
嫌になるわね人生。
Happiness or UNHappiness、
UNHappiness or Happiness。
わたしのシャツは、ワニ。
わたしのくしは、カエル。
わたしのカバンは、クマ。
わたしの筆箱は、サカナ。
わたしのクリップは、フクロウ。
わたしのサイフは、ネコ。
わたしのカガミは、イヌ。
わたしのスリッパは、アヒル。
わたしの帽子は、ネズミ。
わたしのお弁当は、トマト。
摩擦がなく快適で便利な窒息。
夢見ながら進めねばならない。
進むべき道はないけれど力と
光の波のように、断ち切られた歌。
飛び散る鳩の群れ。ぶ厚い雲を
ぬけてやってくる屈折率を見た」
No.2のポケベルがなる。
いきづまり「お前ポケベル持って舞台のるなって、
練習の時百ぺん言ったろ。今本番中
なんだよ」
びんづめ「呼んでる。ぽけべるが呼んでる。
僕は公園になりたいと思っていました。
でも本当は砂漠なのです。
水をくれる人はいません。
彼女は有刺鉄線に囲まれた王国の中で
便秘です。
サボテンがはえて星に刺さろうとして
います。その刺が。
でもすべてはムナシクデタラメです。
もう釘だらけの愛も沢山です。
僕は今日、ふたのついたビンの中で
泳ぐ金魚。
たまむし色の光をキラリキラさせながら、
腹を出しおっぽをたらして泳ぐ金魚。
泳ぐことは頭をぶつけることだ。
見ているあなたに痛さは分からないだろう。
僕上へ下へも行かない所で泳ぐ赤い金魚。
ああ、もういやだと思うことだけが
まだこうしていれる力なのです。
だから僕を愛していると言うなら、
このビンを手に持って
あの堅いコンクリートの壁に
たたきつけてください」
八方ふさがり、びんづめはセリフを
言いながら舞台を下りてドアの方へ行く。
いきづまり「おい、びんづめ。又校則違反だな。
ポケベルなんて持ってくるなよ。
おい、みんな何処へ行くんだよ」
袋小路のポケベル(No.3)が鳴る。
袋小路「会社からポケベル。呼んでる、私を。
マリアが私を殺した。ヨセフが私を食べる。
国・社・英・数学・化学・化学。数・数・
英・英・古典・古典。私の進路。
あなたの進路。あなたのセールスポイントは。
私の長所は……。私の調書をとるのは
もうやめてください」
ひとりよがりのポケベル(No.4)が鳴る。
袋小路「私の進路。あなたの進路。もうまとまらない
のよ。砕け散る銀河。
ああ、このやり場のない私の悲しみを
はるかマジェランの星雲のまで届けておくれ。
かかとが片方くびれた靴で
見つめていた君のこと。
歩みはいくらか頼りないけど、噛みしめて
いた君のことら。
歩みはいくらか頼りないけれど、
噛みしめている。砂利の音。かかとが
片方くたびれた靴で見つめていた君のこと。
まっすぐ見えるはずなのに、いつしか愛の
骨になる。使いすぎた魔法で
つなぐことはできない世界のかけら。
いつしか夏の骨になる。
人は光でできている。
人はヒカリでできている」
と言って、又ブッブッ、ドアのところへゆく。
ひとりよがりのポケベルが鳴る。
ひとりよがり「死んだじいちゃんからポケベル。
何をやっても間に合わない。
世界全体間に合わない。幻想が
向こうからせまってくるときは、
もう人間の壊れるときだ。
何時でも何処でも愛おしい人が
何をしているのか声を聞きたい。
だからドコモのポケベル」
からまわりの携帯が鳴る。
ひとりよがり「さあ、涙をふいてきちんと立って。
もう、そんな宗教風の恋をしては
いけない。そこは、ちょうど両方の
空間が二重になっているところで、
お前のような初心の者のいられる場所
では決してない。世界を区切る大きな
思想も祈りも地に堕ちて、クリスマスの
靴下をただぶら下げる人ばかり。
エスキモーの風習もアフリカの象の死に
場所も、インディアンの筋肉も、
その靴下に腹いっぱい。
どんな風に祈ればいいか。
誰か教えてくれないか
頭の中はぐちゃぐちゃ、噛んでるガムは
クチャクチャ。
ヘンデルもグレーテルもお菓子を食べて
だまされた。
サンタクロースがいるのなら
私の靴下をどんな風につるせばいいのか。
誰か教えてくれないか。
クリスマスの裏通り、サンタクロースの
変化体。私の部屋の靴下は誰が
開けたか穴だらけ。どんな風に
祈ればいいか、誰か教えてくれないか。
どんな風に祈ればいいのか。誰か教えて
くれないか。メーテルリンクの青い鳥。
からっぽの鳥かご、それは私のろっ骨。
私の心臓は小鳥のぬくもり、首をくくら
れた小鳥の心臓。
皆さん、ろっ骨は内側におりたたまれた
天使の羽です。」
と言いながらドアのところへ。
いきづまり「ポケベルばっか鳴りやがって。みんな、
自分の都合ばっか。こんなんでお芝居
出来るわけないだろ。家へ帰って一人で
勝手な夢でも見てろ。何がドコモの
ポケベルだ。」
からまわりの携帯電話が鳴る
からまわり「もしもし、お母さん。今芸術小劇場で
お芝居してるんだよ。えっ、本番中だよ。
ご飯、終わったら帰るって。すぐ帰って
来いって、ちょっと待ってよ。
お芝居めちゃくちゃになっちゃうよ。
僕、ほら主役のジョバンニなんだから
さぁ。こんな時、電話しないでよ。
分かったけど。さあ、今、
ほらお客さんも見てるんだから。
はずかしいよ。又電話するからさぁ。
でも、帰るってどこに帰ればいいん
だろう僕たち」
とぶつぶつ言ってドアのところへ行く。
舞台に一人残ったいきづまり
いきづまり「おい、みんな何処へ行くんだよ。
銀河鉄道の夜もお芝居するんじゃ
なかったのかよ。帰って来いよ。
戻って来いよ。もう、いいからさぁ。
言い過ぎたよ。もう一回氷おにしようよ。
一緒に遊ぼうよ。一人にするなよ。
そうだ、だるまさんがころんだ
しようよね」
からまわり「暗転の夜空に浮かぶ、あの白い星を
見た時、運命の申し子であるかのような、
私はその星にロマンを感じたのだ。
希望が絶望か分からぬロマンを。
ユリアが私の左を行く。大きな紺色の
瞳をりんと張って。
ユリアが私の左を行く。
ペムペムが私の右にいる。
ユリアペムペム、私の遠い友達よ。
私は随分しばらくぶりで君達の
大きな真っ白な素足を見た」
と言いながら舞台の一番前まで出てきて、
だるまさんがころんだを一人ではじめる。
いきづまり「だるまさんがころんだ。だるまさんが
ころんだ。だるまさんがころんだ。
だるまさんがころんだ…。」
各自以下のセリフを言うときに懐中電灯で
自らを照らし、しゃべり始める
生徒F男子「陽が照って鳥が喘ぎ、あちこ
ちのナラの林もけむる時、ぎちぎちと鳴る汚
い手のひらを僕はこれから持つことになる」
とドアの方へ消える。からまわりはゆっくり
びんづめのドアへ行く。
生徒D女子「ねぇ、カンパネルラ。
僕たち二人っきりになったね。
僕たちどこまでもどこまでも一緒に行こう。
僕はもうあのサソリのように、本当に皆の
幸いのためなら、僕の体なんて百ぺん
焼いてもかまわない。けれど、本当の
幸いって何だろう。僕は分からない」
とドアの方へ消える。
生徒E女子「私という現象は仮定された有機
交流電灯のひとつの青い照明です。
(あらゆる幽霊の複合体)風景やみんなと
一緒にせわしくせわしく点滅しながら、
いかにも確かにとまり続ける因果交流
電灯のひとつの青い照明です。
(光は保ちその電灯は失われ)」
と言ってドアの向こうへ去る。
生徒B女子「おい、ジョバンニ、
お前はもう夢の鉄道の中でなしに、
現実の世界の火や激しい波のなかを
大股でまっすぐに歩いていかな
ければいけない。天の川の中で
たった一つの本当のその切符を
けしてなくしてはいけない」
とドアの方へ消える。
生徒C男子「まずもろともに輝く宇宙の
チリとなりて、無辺の空にちらばろう」
いきづまり、だるまさんがころんだを繰り
返している。いきづまりのポケベルが鳴る。
いきづまり「オットぶるった。私のポケベルが
鳴る番だ。電話しにいかなくちゃ」
とゆっくり客席に下りてゆく。
いきづまり「でもその前に皆さん。
これからのお芝居は東京という退屈な
町で生まれ育ち、普通に壊れて
しまった女の子の愛と資本主義を
めぐる冒険のお話となるでしょう。
『すべての仕事は売春である』と
ある映画監督が言っていますが、
私もそう思います。
しかりそれをそう思っている人、
知らずにいる人、知らんぷりしている人、
その他いろいろですけれど、繰り返します。
(冷静に) 『すべての仕事は売春である』
と。
そしてすべての仕事は愛でもあります。
愛ね。『愛』は通常語られて
いる程ぬくぬくと生暖かいものでは
ありません。多分それは手ごわく
手ひどく恐ろしい怪物のようなものです。
そして資本主義も。でも私は思うのです。
すべてが私の中のみんなであるように、
みんなおのおのの全てですから、
正しく強く生きるということは、
みんなが銀河全体をめいめいとして
感じることでありますからって、
この平坦な戦場で僕たちが生き延び、
そして砕け散らんことを。」
観客席の後ろの方に座っていた観客。
卒業生、すくっと立って。
卒業生 「又、やってるな。もう終わりだ、
ジョバンニ」
いきづまり「又、やってるね。どうしたらお芝居
やめられるの」
卒業生 「さあな」
いきづまり「『銀河鉄道の夜』のお芝居できなかったね」
卒業生 「いや、これからかもしれんよ」
いきづまり「先輩、受験はどうしたの」
卒業生 「二月八日だ」
いきづまり「お芝居をやめるのはムズカシイ」
卒業生 「それは宇宙のはじまりから続いてた」
いきづまり「お芝居ってなんなの。カンパネルラは
何処へ行ったの」
卒業生 「宇宙って何だろう。ほら今夜もこんなに
星が出ているよ。ジョバンニ。
そして誰もがカンパネルラだ」
いきづまり「この宇宙というオーム貝の外には
何があるんだろう」
卒業生 「ドアの外には何があるんだろうね」
いきづまり「あけてみなくちゃわからないわ」
と言って八方ふさがりのドアを開けて外へ。
卒業生席を立っていきづまりの後でドアの
所へ行く。ドアに向かって歩きながら。
卒業生「たよりになるのは~雪ばかりです」
宮澤賢治 くらかけ山の雪を セリフで伝える
ドアのところで一言
卒業生「やめるのは難しい(実感をこめて)」
そこでホリゾント上がり青い照明
(歌 P.Model サイボーグたからかに
かかる)
いきづまり・卒業生以外舞台に出てきて、
縄のない銀河のかなたの縄とび
を始める。生者と死者の銀河の虹。
カンパネルラも死んだじいちゃんも
ジョバンニも夏の大三角形の中で銀河の
縄とびをしている。
OB・OGたちは客席から望遠鏡を取り出し
立ち上がり縄とびの観測を始める。
(私は仮定された有機交流電灯の一つの青い
照明です)という。
ゆっくりと暗転。
舞台再び青い有機交流電灯がうっすらつくが
そこには誰もいない。
ドライアイスの煙うっすらと。
歌 宇宙の子守唄 or 風の音、静かに流れる。
A.ソクーロフ(オリエンタルエレジー)
よりの音楽。
「わたしはあなただ」の
ポスター顏中、包帯だらけの男の顔が
ゆっくり舞台を進んで来て止まる。
全員「(祈りのように)私はあなただ」
ゆっくりと音楽フェードアウトし暗転。
そして星が今夜もまたたく…
以上です
舞台にたった人の前日、当日、後の一言がありますが、伏せます。
構成・演出の先生の一言
前日の心境…宇宙の片隅のつかのまの一家団欒
当日の心境…のちにはなす。早く部屋に帰って眠りたい。早く物質に帰って眠りたい。早く物質にかえって踊りたい。踊れ。皆なんもかんも踊れ。
本番後の気持ち…いつかはこのお芝居の意味がわるかな