第5話
ちょっと休もっかって言葉通り、部屋に戻ると、今度は先輩のベッドに一緒に座る。何話そうか、迷ってるような顔。
「……一華ちゃん、無理に固くならないでいいからね?」
「え、……それ、どういうことですか?」
最初に比べたら、けっこう落ち着いてきたはずなんだけどな。そんなに、そぶり見せてたっけ。考え込むあたしを置いて、先輩はずっとゆったりしてる。
「なんか、ずっと緊張してる感じするよ?」
「そう、……ですかね?」
「ほら、ちょっと言葉選んでる感じするもん、……敬語、使わなくていいからね?」
一応、先輩だし、……なんて考えてたけど、それすらいいなんて。いくらなんでも、ちょっと恵まれすぎてないかな。とは言っても、いつも通りだらんとした口調には戻せないしなぁ。
「ん……、じゃあ、そうする。まだ、慣れないけど」
「うん、ゆっくりでいいよ、……せっかく一緒に過ごすんだから、堅苦しくないほうがいいでしょ?」
「……そうね、そのほうが嬉しい、かな」
でろんでろんになりそうなくらい、だらんってできたらいいんだけどな。さすがに、それは望みすぎかな。でも、……ほんのちょっとくらいは、期待してもいいのかな。先輩は、おっとりしてて、優しそうで、どことなく、おんなじ感じがするから。
あたしの形を保たせてる何かを、少しずつ剥いてく感じ。今は、ひとまず、ここまで。
「だよねー、……食休み、これくらいで大丈夫そう?」
「ん……、これくらい、かな」
正直、ずっと休んでたいけど、目の前に積まれてる段ボールでさすがに正気に戻る。そこまで荷物は多くないけど、品数自体は割とあるし。
「重いとかだったら手伝うけど、何かある?」
「特に重いのはないけど、……その、コンセントとかどこかなって」
「勉強机のライトと、あとベランダの手前のとこにあったはずだよ」
「そうなんだ、延長コードあるし、ベッドのとこまで持ってきちゃおっかな」
めんどくさいのを押して、勉強机の後ろを跨いでたのを取ってきてよかったな。電気使うのも結構持ってきちゃったし、けっこう数も多いから、先輩に貸してもいいし。
「手伝うから、わたしも一個使っていいかな?勉強机のとこの使ってるんだけど、コードがギリギリなんだよね」
「うん、それくらいなら」
「ありがとー、それ、どこにあるかな?」
ちらりと、奥の方を見てみる。ベランダに行く入り口のとこの両脇に、コンセントが二個ずつ。テレビとインターネットの端子も一個あるし、狭めだけど、結構揃ってたんだな。
「準備できたら呼ぶから、プチプチでけっこう包んでたから、見つけてもちょっと時間かかるし」
「わかった、他にはない?」
「他はそんなないかな」
「そっか、……片づけ終わったら、お菓子買ってきたし一緒に食べよ?」
買い物行ってたのって、もしかしてそれのためだったのかな。わかった、って返しながら、少しずつ、固かった心がほぐれてくのを感じる。
わざわざそんなことしてくれるって、やっぱり、優しい。初めてみたときの印象は、少しずつ嘘じゃなくなってく。