第3話
閉まりかけの食堂には、これから部屋に戻る人はいても、これから食べにくる人はあたし達くらいみたいだ。
券売機の前で、さりげなく繋がれてた手が離れる。どことなく自然だったから、離れた後に、ほんのり違和感が残る。手を繋がれるなんて、最後はいつだっけ。そんなことを考えるくらいに、人と触れ合うなんてないのに。
「一華ちゃんは、何にする?」
「んー……、今、お腹空いてないからなぁ……」
「えー?ちゃんと食べないと体に悪いよ?」
春休みに好きなように寝てたら、普通に昼に起きるなんてことも珍しくなかった。昨日も、起きたのは昼過ぎくらい。今日も、朝ごはんは食べたけど、ほとんど押し込むようなものだったし。今も、普通のセットメニューとかは食べれそうにない。あとは、
軽めにパスタにしようかな。一人前の量だと意外と少ないし、……うどんって意外に重いし、そばはあんまり好きじゃないし。今日のパスタってとこには、春野菜とベーコンのジェノベーゼってあるけど
「じゃあ、パスタにしよっかな」
「一華ちゃんもパスタにするだぁ、なんか嬉しいね」
「……そうですか」
同じものを自然に選ぶのは相性がいいとか嬉しいとか、いきなり言われるとびっくりする。まだ、出会って初めてだし、どういう人かだって、あんまり良く分かってないし。
でも、確かに、親近感はちょっと沸く、……かも。嫌な人じゃないって感じは、出会って数時間なのに伝わってくる。このままでいるのも、嫌じゃない、かな。今の感覚が、そのまま続くなら。
「わたし、パスタは結構好きなんだー」
「そうなんですか」
「一華ちゃんは、なんか好きなのあるの?」
「うーん……サンドイッチとかですかね、お腹空いたときとか気軽に食べれるし」
なんて言って、本当は余りにも動きたくなくても、寝転がったままで食べれちゃうからとか言ったら、さすがに引くだろうな。そんなことを言えるほど、仲良くなれたと思う人なんていなかったけど。
「楽だもんねぇ、考えすぎて、時間忘れちゃう感じ?」
「あー……、そうかもですね」
一人で過ごしてたら、多分部屋に籠ってたかも。いや、……コンビニもスーパーも遠いし、やっぱりここに来ることになってたのかも。それでも、混む時間は避けてそうかな。今みたいに、閉まるギリギリの時にばっかり行ってそう。
そんな事考えながら、先輩の動きを真似して席までついていく。何となく、隣の席に座って、二人で手を合わせる。
「ごめん、わたしばっかり話しちゃったね」
「いいですよ、……別にあたし、できる話あんまりないんで」
「そんな事言わないでよ、二年間一緒なんだから、ちょっとは一華ちゃんのこと知りたいな」
趣味があるとかもなくて、先輩みたく話上手でもない。正直、話すのはそんなに好きになれない。自分のことを晒すのも。
……そのはずなのに、ちょっとくらいはいいかなって思わされる。何か、むず痒いな。よく食べるのか、スパゲッティをくるくるとフォークに巻き付ける手さばきは綺麗で。それを眺めながら、何から話そうか、ぐるぐる頭の中をかき回してる。




