第2話
ふわふわしてて、なんかおっとりしてるな。最初に見た時の印象と、実際の雰囲気はそんなには変わらないみたい。
「説明会とか疲れたでしょ、着替えて、ちょっと休まない?」
「いいんですか?……じゃあ、お言葉に甘えて」
「じゃあ、わたしちょっと買い物してるから、その間に着替えてていいよ?」
「あ、はい、……わかりました」
鍵はここだから、出たいときは閉めといてね、なんて、玄関先のフックを指して、どこか行っちゃった。他にすることもないし、……とりあえず、荷物出さなきゃ。部屋着用のチノパンとシャツと、あとハンガーも。本格的な整理は、多分それからやるんだろうけど、今からちょっと気が重い。
ふぅ。零れたため息は、思ったより深かった。優しい人だけど、それだって緊張はする。ワイシャツも畳んで、制服もハンガーにかけた。ベッドサイドに掛けて、気力は、そこで尽きる。今そのままベッドに寝転がったら、確実に眠れる自信がある。……でも、実際寝転がりたくて、欲望は、それに逆らえない。
ぼふん、……ふかふかにされたベッドは、優しく受け止めてくれる。あー、もう今日は、一週間分くらい考えた。だから、ちょっとくらい、休んじゃっても、いい、よね……。
「……かちゃん、一華ちゃん、起きて、お昼食べないの?」
「……ん、……あ、寝てた……?」
「そんなに疲れてたんだね、でも、もうすぐ食堂閉まっちゃうから、早く起きて?」
声、近い。すぐそばで、目が合う。買い物に行く前と同じような場所で、今度はベッドの上に膝をついて。分かってるけど、声、柔らかくて、優しい。差し出された手を、寝ぼけたままなのにすんなりと取れる。それが、ちょっと不思議だ。多分、一人じゃいつまで経っても起きれないのに。
「すみません、ちょっと、昨日緊張してて、全然寝れなくって」
「去年のわたしもそうだったなぁ……、あ、制服、クローゼットに入れてあるから、後で場所も教えるね?」
「ありがとうございます、……その、そんな気力もなかっただけで、場所はわかってますから」
「あ、見学してるからわかるんだったね、……って、そんな話してる場合じゃなかったや」
手を引っ張られる。そういう風に、強引に振り回されるみたいなの、いつもなら苦手だし、何なら振り払いそうになるのに、今は、どこかしら、波長が合うのか知れないけれど、……何故か、そんな風には思えない。それに逆らわずに体を起こして、そのまま玄関も過ぎて、エレベーターホールまで。
……やっぱり、二階の部屋がよかったかな。なかなか来ないエレベーターを待つ間、なんとなく、繋がった手はそのままになっていた。