ex.1(2)
勝手に、何か期待してる。いつも通りの時間を過ごしてるだけなのに。それは、……舞も、みたいだけど。テンション上がってるの、隠しきれない感じ。先輩っぽくないどころか、あたしより年下みたいにも感じる。
二人で部屋から出るとき、何となく繋がってた手も、今は自然に受け入れてる。いつも通りのルーティーンも、そわそわがひたひたと迫る。ただ、ご飯食べに行くだけだっていうのに。握ってくる手も、ちょっと熱っぽいような。
「一華ちゃん、もしかしてドキドキしてる?」
「……そうだね、あたし、……こういうの、全然知らないのに」
あたしが誰かの『恋人』になるとか、趣味の悪い冗談としか思ってなかったのに、今じゃ、これが日常になってて。……こんなになってても、何であたしが選ばれたのかわかんないけど、……あたしの隣でこうしていてくれるのは、きっと舞しかいない。一人でいるときより、ゆっくりした足取り。こうやって一緒にいる時間も、自然と長くなる。
「……そういうの、女の子ならちょっとくらいは興味持つものじゃない?」
「そういうものかな、……あたしは全然だったな。そういうのめんどそうだし、あたしには関係ないなって」
「わたしのことは、めんどくさい?」
「そうじゃないって。……でも、そういうの全部どうでもよくなるんだね、『好き』って」
あたしが他の人に何かするのって、だいたい「やらなきゃ」でやってるのに、舞といるときは、そんなのも考えないで、むしろ「やりたい」からで。……その理由で、思いつくのなんて一つだけ。
「……そうだね、わたしも、一華ちゃんといるときと普段ってちょっと違うかも」
「そうじゃなきゃ困るよ、あたし」
「もう……、一華ちゃんしかいないって、『好き』な人は」
「なら、いいんだけど」
おんなじだ。あたしと舞の気持ちは。何度確かめても、酸っぱくて甘い。それと一緒に、心の中に、何かがチクリと刺さる。ヤキモチ、と言い切るには、ちょっと弱いかもしれないけど。そもそも、他の人に興味なんて無かったあたしが、こんな事考えるくらいには、染まっちゃってるな。舞のこと、いろんなとこに。
エレベーターの中も、二人きり。でも、最初から二人きりみたいなものか。
「言葉だけじゃ、足りない?」
「そうじゃなくてさ、……するなら、帰ってからね。恥ずかしいし」
「それじゃあしょうがないなぁ、早く食べに行こ?」
ああ、もう。そんなのもめんどくさいや。最初から、全部くれるから。頭の中、しゅわしゅわ溶かされそう。あたしの知らなかった、どんなお菓子より甘いもの。もっとちょうだいとか言えそうにないから、いいよ、だけで伝えて。それで欲しいだけくれるから、好き。その二文字も、あまり上手く言えないや。




