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若き野原に華は舞う。  作者: しっちぃ
1.若き野原に華は舞う。

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21/23

第XX話-真白の園に花は咲く。

 あの気持ちに気づいて、伝えあって、もう二月も経つ。……恋人どうしって、ちゃんと言ったり言われたりはないけど、たぶん、今の関係を表すならこれなんだろうな。

 今日も、また部活で、……舞、遅く帰ってくる。名前で呼ぶの、まだ慣れないや。呼ぶだけで、まだ胸の奥がきゅって締まる。「まい」って、たた二文字なのに。昼寝を済ませても、もうちょっと帰ってくるまでに時間がかかる。舞の机の上に置かれたノート、最初からめくっていく。

 

「もう、結構しちゃったんだね。……舞がしたいこと」


 あたしが覗いたってこと言った後も、あのノートの中身は少しずつ増えてる。ページの隅っこに、ちょっと星が書かれているのは、そこに描いてあること、もうしたってマーク、なんだろうな。

 結構、いろんなことしてるんだね。手をつないだのはデートのときにしたし、抱き合ったり、髪撫でられたり、……ちゅー、されたりとかも。お風呂で、洗いっことかもしちゃって、……最初にした時からだっけ、舞と同じシャンプー使うようになったの。最初、妙にさらさらになって違和感しかなかったけど、髪、いっぱい撫でてくるようになって、そっからやめられなくなった。そろそろ、髪も鬱陶しくなってきたけど、なんか切れないや。

 もっと先のページは、もっと濃ゆいこと。それこそ、恋人どうしでしかしないような。そこから先には、まだ印も何もついてない。そういうこと、したいのかな。あたしは、……まだわかんないや。こういう風に想像したり、それを描いたりできるほど、そういう知識も欲求ももともと持ってなかったから。


「ただいまー……、って、またわたしのノート見てるの?」

「おかえり、ぁ、ごめん、……舞がしたいって思ってたいろんなこと、しちゃったなって」

「うぅ、そうだけど、やっぱり恥ずかしいよ……っ」


 考え事してたら、いつの間にかもう帰ってくる時間になっちゃってた。慌てて離して、机の上に閉じておく。……したいって、まだ言いきれないや。 

 

「ごめんって、……今日は一日、舞がしたいことしていいから」


 あの時、あたし達の関係が変わったときから、お互いに、全部こっちが悪いって思ったときにはこういう風に言い出すようになった。こうすれば、甘えてくれるの分かってる。微妙な雰囲気のままいるのは、苦手だ。たぶん、あたしの方が。


「じゃあ、一華ちゃんからちゅーして?」

「ぇ……、うん、……いっつも、もらってばかりだもんね、こういうことするとき」

「わたしだって、してほしいよ、……自分からあげるのも好きだけど」


 さっきまで見てたノートでも、結構、あたしっぽい方のキャラからっていうのあったな。……そうだよね、気持ち、おんなじだもん。あたしが、そういう気持ち受け止めたいって思うのと同じくらい、舞もそうなんだよね。


「じゃあ、ベッド行こ……、あたし、……舞がしてくれたやり方しか知らないから」

「ううん、……椅子座るから、一華ちゃんはわたしの膝の上に座って?」


 答えるより先に、自分の椅子に座る。あたしの方向いて、腕も広げて。……もう、受け入れる準備してくれてる。脚を広げて、向かい合うように膝の上に腰掛ける。普段はおんなじ高さなのに、今は、あたしのほうが見下ろしてる。


「……こうで、いいかな」

「うん、……ねえ、一華ちゃん……っ」


 背中、ぎゅって抱き寄せられる。……何だろう、恋のスイッチ、すぐ入っちゃうよね、舞って。上目遣いしてる目、うるんでる。あげたいって気持ち、こういうのかな。甘いにおいに、ふわりと誘われる。

 

「……いくよ、舞」

「ね、きて……?」


 吸い込まれそう。意識する前に、顔を寄せてる。あたしの胸の奥、きゅって締まる。初めて、気持ちを伝えあったときみたいな、熱に浮かされるような感じも。

 もう、目、閉じた。……あと、もうちょっと。ここまで来たら、あたしも目閉じていいよね。


「ん、……ぁ、はぁ、……ちゅ、んふ……、はむ、……ちゅぅ、……ちゅ」

「んん……、ね、ぁ、……はぁ、ん……、ぁ、んぅ……っ、ね……っ」


 ふにってしたぬくもりに、慌てて吸って、満たされるまで、何度も。……してくれるみたいに、上手くできたかな。そんな気、全然しないや。目開けると、まだ余韻でとろけてくれてるのかな。さっきより目うるんでるし、ほっぺも赤くなってる。


「ねぇ……、どう、かな……っ」

「おもったより、すごい、これ……っ」

「そう……?満足してくれたら、嬉しいけど」

「一華ちゃんだって、ちゅーされたら嬉しいでしょ?……わたしだって、一緒だよ」


 背中に回された手が離れたと思ったら、頭の高さに来て、そのまま撫でられる。あたしのこと、好きって証、……くすぐったくて、気持ちいい。頭の中、ほわって浮かぶ感じ。

 

「そっか、よかった、……こういうのあたしからしないから、上手くできてるかわかんなかったんだ」

「当たり前だよ、そんなの、……してく内にもっと溶けてもらえるようになって、もっと欲しくなって、もっと深いことしたくなるんだよ」

「……深いことって、……えっちなこと、とか?」

「うん、やっぱり気づいちゃってたか……」


 まだ、想像つかない世界。ちゅーするのだって精一杯なのに、これ以上とか、考えるだけで頭がおかしくなりそう。言葉にはしてないだけで、『恋人どうし』なんだから、もうちょっと、考えないといけないのかな。


「ごめん、……まだそういうの考えられなくて」

「焦らなくていいよ、ずっと好きでいるから」

「ほんと?……優しすぎだよ、……ありがと」


 撫でてくれる手も、止まらなくて。近づいた顔、わかってるように目を閉じる。今度は、乗せるだけの、優しいやつ。それだけで、お互い満たされて離れる。


「一華ちゃんも、結構欲しがりになってきたんじゃない?」

「……そうかもね、そのほうが、嬉しい?」

「もちろんだよ、そんなの」


 手、離してくれない。もうしばらく、このままでいたいな。肩に顎を乗せるように体を寄せると、くすりと笑う声が聞こえた。

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