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若き野原に華は舞う。  作者: しっちぃ
1.若き野原に華は舞う。

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20/23

第19話

「そっか、あたしもたぶんそういうきっかけはあるんだけど、……ごめんね、あたし、先輩に先に言わなきゃいけないことあるんだ」


 あたしも、最初からいい人だとは思ってたけど、そういう意味で、あたしが気にしだしたきっかけは、たぶんあの事だったから。してしまった、戻れなかった『いけないこと』だったから。


「ん……何?」

「あのさ、あたしのこと、看病してくれたときあったでしょ?……そのとき、先輩も寝ちゃってたよね」

「あ、うん、……それがどうかした?」

「そのときさ、見ちゃったんだ、先輩の大事にしてそうなノート」

「えっ、待って、あれは……っ」


 また、先輩の体に力が入る。隠し事、親に見つかったみたいにもじもじしてて、……こんなとこ、初めて見たかも。


「ごめん、その……、やっぱり秘密にしときたかったよね」

「そうだけど、……見られちゃったら、もう隠せないね、わたしが一華ちゃんにしてたこと」

「なんかあったっけ、絵しかなかったはずだけど」

「ぅ……、あれのモデル、わたしと一華ちゃんなの、……そういう、友達同士でもできないこと、考えて絵にしちゃって、変だよね」


 ぽつぽつとこぼされる声。あたしが勝手にネタにされてたとか、そういうのより先に、なぜだか、ほっとしてる。何だろ、……あたしじゃない人じゃなくてよかった、とか。


「別に、……あたし、恋とかそういうの、あんまり興味ないけど、……そういうものだってのは知ってるから」

「いいの……?」

「うん、……それに、あたし、……何でか分かんないけど、ほっとしてる。あんな、特別な仲じゃないようなことしたいって、あたしと考えてるっていうの」

「そう……、なの?一華ちゃんも、わたしのこと……」

 

 そういう意味で、好き。そう言い切るには、まだ「?」をつけなきゃいけない。……まだ、知らない気持ち。それも。言われてるほどの熱は、あたしの気持ちには無いような。


「先輩とおんなじかはわかんないけど、……一緒にいるとほっとするし、ここにいたいなって思うよ」

「ぅ……、わたし、わがまますぎかな……、一華ちゃんとしたいこと、いっぱいありすぎちゃうよ」


 しょうがないな、先輩は。いいよ、いつも、優しさに甘えてばかりだから、その分おかえししても。誰かに尽くすのとか、めんどくさいと思ってたのに。『好き』なんて気持ちに縁なんて無いって思ってるの、そういうとこなのに。何故だか、今は普通にできる。……もう、誤魔化すなんてできないだろうな。


「いいよ、……分かんないし、気持ちの大きさは違うかもだけど、……意味は、多分一緒だと思うから」

「本当に?……手離してくれてもいいよ、もう、治っちゃったから、……そのかわり、わがまま訊いてくれる?」


 熱っぽい声に、なぜか惹かれる。自覚してた気持ち、もしかしてずっと熱かった?そんなことすら考えるくらいに。

 回してた腕から力を抜いてあげると、あたしから離れるようにころがって、こっちを向いたと思ったら抱きつくように動く。向き合った顔、近い豆電球のほの暗い明かりに染まってても、顔赤くなってるの分かる。さっきとは違う、ミルクみたいなにおいする。


「いいよ、あたしができるやつだったら」

「ありがと、……じゃあ、あのね、一華ちゃん、……わたしのこと、名前で呼んでほしいな、『舞』って」


 そういえば、そっか。もう、こうやって誤魔化さなくていいんだっけ。何となく変えないでいた呼び方、そういう風に言われたら、変えない理由なんて見つからない。


「ん、……そうだよね。あたし、顔覚えるの苦手だからってあんまり人のこと名前で呼ばないけど、さすがにもう分かるよ、先輩の顔は。一緒にいて結構経つし、……『好き』、だし」

「……ねえ?」

「分かってる、……っ、けど、なんか照れる……っ」

「そっか、……へへ、本当に、一華ちゃんもおんなじなんだね」


 知らなかった気持ちに、名前が付けられる。あたしも、恋なんてしちゃうんだ。まだ、呼べないや。頭の中で言葉を作っても、喉の奥で熱くて焼ける。


「ねえ……、からかわないでよ……」

「ごめんって、嬉しかったからつい」


 もっと、心ごと熱くなっちゃいそう、……こんなの、溶けちゃうって。こんなに熱くなれるなんて知らなかったのに、こうなっちゃってるんだから。


「ずるいよ、ねえ、まい……っ」

「……ぅ、名前呼んでくれてるだけなのに、すっごくドキドキする……っ」

 

 もっと、近くに寄られる。熱いのに、心の奥はそれを欲しがってる。思ったよりもずっと、恋してた、あたしも。


「あたしも、そう……、名前呼んだだけなのに、熱くて、とけるって……」

「もう一個だけ、いいかな?……、ちゅー、したい、なんていきなりだよね」

「ううん、……今だったら、なんでも……っ」


 戻れなくなっちゃおう、気持ち、燃え上がっちゃうくらい熱いうちに。体寄せられて仰向けになったとこに、覆い被さるようにしてくる。


「……いい?」

「ん、……うん、ねぇ……っ」

「ありがと、……好きだよ、一華ちゃん」


 寄せられた顔、近すぎてぼやける。ぎゅっと目を閉じちゃって、その瞬間、唇に何か触れる。……あったかくて、柔らかくて、ちょっと、しっとりしてる。そっか、あたし、……ちゅー、してるんだ。あたしには縁のないものだって思ってたけど、想像の何倍も、ドキドキしちゃってる。心臓のあたり、熱くてしびれる。体ごと、ちょっと浮いちゃってる感じする。気がついたら、背中に手回してる。腰のあたりで、服も握っちゃって。

 ふに、ふに、って、くっついては離れて、最後は、軽く吸われる感じ。ちゅって音、こういう感じで鳴るんだ。


「……ほんとに、しちゃった……っ」

「してほしいって言ったの、そっちでしょ……?」

「そうだけど、……だって、ちゅーだけなのに、すっごくキュンキュンしちゃってる……」

「それはわかるけど……」


 また、横になって向かい合う。まだ、抱き寄せたようになってたまま。……好きになっちゃってるかも、あたし、こういうことするの。

 それなのに、熱、ちょっとずつ大人しくなっていく。……熱いままじゃ寝れないけど、もうちょっとだけ。


「一華ちゃんも、わがまま言ってほしいな」

「……ねえ、……舞、まい……っ」

「何……どうかした?」

「名前、もっと呼びたい、わがまま、きいて?」


 ……あたしも、恋しちゃってる。おんなじ温度で。もっと、呼びたい。ちゃんと呼べるまで、何度だって。

呼ぶ声、あたしでも、なんか切ない感じになってる。あたしがベッドに行く前のときとおんなじ。


「いいよ、わたしも、呼んでほしいから……っ」

「うん……、好き……っ、舞……っ、まい……っ、ねぇ、ねぇ……っ、まい……っ」

「一華ちゃん……、かわいい……っ、すき……っ」


 返してくれる声も、おんなじ温度。抱き返してくれる手も、服、ぎゅっとつかんでくる。泣いちゃいそう。わけ、わかんない。うれしいのに、せつなくて、あつい。


「まい……、呼んでるだけなのに、あつい……っ」

「わたしも、あついから……、もっと、きて……?」

「まい……っ、まい……っ、ぁ、ね……っ、まい……っ、はぁ、はー、はぁ、ふー、ふぅ、ふ……」

「いちかちゃん、体すっごくあつい……、いっぱいドキドキしてくれてるんだね……っ」

「うん、……こんなの、ぜんぜん知らなかったのに、くせになってる……っ」


 ぎゅってしてくてる手、やさしい。もっと、すきになりそう。むねのなか、まだ、くるしいくらいきゅんきゅんしてる。「まい」っていうだけで、こんなになっちゃってる。

 ちょっとずつ、すずしくなる。とけかけた体も、おちついてくる。


「好きなんだね、わたしのこと」

「そうじゃなきゃできないよ、あんなの……」

「だよね、……今日は、おやすみしよ?明日も、したいことできちゃうし」

「うん、……でも、あたしまだ寝れそうにないや」

「わたしもだよ、あんなにいっぱい、ドキドキしちゃったもんね」


 痛くて、苦しいくらいだったのに、あの感じ、体の中でまだちょっと欲しがってる。

 しばらくは、まだ眠れないな。何となくわかってても、おやすみの挨拶をしてくれる。


「……おやすみ、一華ちゃん」

「うん、……おやすみ、……舞」


 少しだけ、自然に呼べるようになってきた、かな。……舞のこと、名前で。元通りになろうとする体に身を任せて、ゆっくり息をする。

 これからは、これが普段の距離になるんだ。……そんなこと考えるだけで、ちょっとだけ胸の中がきゅってなる。

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