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若き野原に華は舞う。  作者: しっちぃ
1.若き野原に華は舞う。
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第1話

 あたしらしくないな、ドキドキして、寝れないなんて。

 入学式の前に、寮に入ることになってて、今日がその日。……緊張するのも、仕方ないか。もしかしたら、こっから三年間顔を合わせることになるし。どんな人なんだろう。ギリギリまで寝かせてくれるような人だったらいいんだけど。

 身を包む真新しい制服が、むず痒くてしょうがない。部屋に着いたら、早く脱ぎ捨ててそのまま寝たいんだけど。……さすがに今日は、ゆったりお昼寝なんてできないか。あくびを何度かこらえながら、学校の門に着く。中高一貫で私立とはいっても、……やっぱり、大きいよな。家からだと三十分くらい。そこからだと、毎日七時半くらいには出ないといけないから、……考えるだけで、頭痛くなってきた。七時より前に起きるなんて、どっかの誰かに閉じ込められてそれを強いられたら、何でも言うこと聞くから許してって本気で言っちゃいそう。そんな姿を思い浮かべて、ちょっと笑みが漏れる。あんまり笑ってないからか、ほっぺがつりそうになるけど。

 学校に着くと、もう真新しい制服に身を包む列ができていた。みんな、同じように寮生なんだろうな。中学と高校で、菊花寮が十人くらいずつと、桜花寮で五十人くらいずつだから、大体百人くらい。そう考えると、意外と少ないかも。

 手続きと見学は午前中には終わるから、その後は実際にルームメイトの人といろいろ話すことになる。どんな人だろう。期待より、正直、不安のほうが大きい。せっかく寮に入れたんだから、もっとのんびりしてたいのに、早起きを強いてくる人はちょっと嫌かな。本当にマズいときに誰もいないのは大変だから、ばりばりスポーツやってそうな、いかにも運動部に入ってるような人もちょっとな。……大人しくて、そんなに干渉してこない人だったらいいな。それか、……多分ないと思うけど、お母さんよりもずっと優しくて、甘やかしてくれるような人。

 ……なんて、あるわけないか。説明会はぼうっと聞いてるだけじゃ眠くなりそうだし、入寮の資料を読んでいく。お風呂、十時までなんだな、とか、多分関係ないけど、菊花寮に行くこともあるんだな、とか、半年に一回、お互いに合わないなって思ったら部屋を変えてもらえるんだ、とか。あたしが資料あんまり読んでなかったからだけど、知らないことばかりで。……それでも、やっぱり不安は消えない。

 寮ごとに分かれて施設の見学をして、ようやく、部屋割りが出される。名前を呼ばれてもらった紙には、413号室って書かれてる。四階か、……なるべく低い階がよかったけど、真ん中ならまだいい方なのかな。問題は、一番大きなのが、あと一つ。周りを見ると、ルームメイトを見つけて挨拶する人も結構見える。あたしのルームメイトは花房舞さんって人みたいだけど、どこにいるのかな。見回しても、なんかいない。ここにルームメイトがいない人はほかにも何人かいて、もう二人になってる人たちがそれぞれの部屋に行った後も話がされる。どうやら、あたしのルームメイトは先輩みたいで、……性格的に丸い人を選んでるって言ってたけど、大丈夫なのかな。

 エレベータの中で、残ってた人とおずおず挨拶を交わして、四階で降りるのは、どうやらあたしだけみたい。

 広い廊下、部屋はなんとなくわかる。待ち合わせでもしてるみたいに。見かけると、こっちに向かって手を振ってくる。ふわふわしたセミロングくらいの髪は若干ブラウンが入ってて、雰囲気は少なくとも厳しそうには見えない。この時ばかりは、さすがに身がしまる。


「あなたが一華ちゃん?よろしくね」

「あ、……はい、白土しらと一華いちかです。よろしくお願いします」

「早く荷物入れちゃおっか、わたしも手伝うよ」

「え、あ、ありがとうございます……」


 声も、なんかふわふわしてて、ゆったりしてる。先輩って話だけど、あたしよりも高くて。背は同じくらいで、同級生って言われても納得するような。


「わたしも去年おんなじことしたからね~、説明聞いて疲れたでしょ?」

「え、……まあ、そうですね」


 ゆったりとしたペースで、荷物を入れてくれる。終わったとこで、改めて挨拶される。真新しさすら感じるベッドに座るように促されると、そこに並んで腰かけるのが見える。


「わたしは花房はなぶさまいだよ、部屋のこと書いてる紙には書いてたと思うけど」

「そうですね、……なんか、きれい」 

「そう?ありがと~っ」


 つい、零れた言葉に、大げさに返される。一人分くらい空いてた間が、半分くらい縮まる。顔をいぃって見られて、何もしてないのに恥ずかしくなる。

 でも、……あったかそうな人だ。そのことだけは、とてもほっとした。

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