第13話
相変わらず頭重いし、お腹の奥はまだきりきりしてるし、……それでも、何か寝れちゃったみたい。喉渇いたし、いい加減お腹空いちゃった。何か食べとかないと、痛み止めも飲めないし。
「もう……、なんでこんなこと」
先輩ってば、あたしのこと抱き枕みたいにして、あたしよりもしっかり寝ちゃってる。寝息も深いし、これじゃ当分起きてきそうにないや。
ぼうっとスマホを見ると、おやつの時間。さすがに、こんなならお腹も空くか。今日はまだ、ほとんど食べてないわけだし。
……それにしても、この状況をどうにかしないと、腕はさして力が入ってるってわけじゃないけど、離していいのか、ちょっと分かんなくなってきちゃってる。すぐ戻ればいいわけだし、ナプキンだって替えなきゃいけないし、……って、出る理由を持ってきても、体を動かすエネルギーにうまく変わってくれない。普段みたくめんどくさいからってわけじゃなくて、……何だろ、まだ、よくわからないや。
かたつむりみたいな速さでベッドから降りて、部屋の小さな冷蔵庫までの数歩も、いつもより遠くに感じる。ハムサンドをもそもそと食べきって、りんごジュースで痛み止めを流し込んで。ベッドに戻ろうとして、まだ安らかな寝顔。
「先輩のほうがしっかり寝ちゃって……、これじゃ、看病してるのどっちか分かんないじゃん」
でも、起こすのにはためらっちゃう。柔らかい寝息とか、ほんのり香るあたしの知らない匂いとか。……こんな隙だらけなとこ、あったっけ。気づかれないよね、秘密、ちょっとくらい覗いたって。
先輩の勉強机に、毎回置いてあるファンシーなノート。日記かなとは思ってるけど、実際見た事は無い。……こんなに他の人に興味を持ってるあたしも、相当珍しいかも。少し、背徳感に心が締め付けられるけど、ここまで来ちゃって戻れるほどの理由にはなってくれない。
一ページ目から、日記って予想は外れる。罫線もない真っさらな紙には、何かのイラストみたいだけど、文字も一緒に書かれてる。漫画の一コマとかなのかなって次をめくっても、コマ割りとかがされてるページは無さそうだし。……描いてる中身は、全部同じっぽい。同じくらいの背丈の女の子が二人、先輩みたいなふわふわしたミディアムヘアの子と、ラフなショートヘアの子と。何枚かめくると真っ白な紙に戻るけど、……この子、モデルとかがいるなら、一体誰なんだろ。
「ん、ぅ……?」
考えは、途中で打ち切りになる。音を立てないようにノートを戻して、自分の勉強机のほうを向く。痛み止めの薬、しまってなくてよかった。まだ、こっちにいる理由ができる、はず。
「あ、……一華ちゃん、起きてたんだ」
「うん、まあね。お腹空いちゃったし。……先輩のほうがしっかり寝ちゃって」
「えへへ……、一華ちゃんは寝れた?」
「まあ、ちょっとはね。……ありがと」
何だかんだで、普通に昼寝したときくらいには寝れたし、知らなかったこと、ちょっとだけ覗き見しちゃったし。でも、もっと知らないこと、増えちゃったかも。知らない絵の意味とか、あたしにかまってくれる訳とか、……あたしが、どうしてここまで先輩のことを気にしちゃう理由も。