第12話
寮暮らしにも、ちょっとずつ慣れてきた、かも。誰かといる生活は、最初は上手く合うか不安だったけど、先輩だから、ちょっと安心できるのかも。
新学期も始まって、いよいよ高校生。いろいろ変わったのは、なんとなく分かってるつもりではいるけど、……今のとこは、まだ中学のときとそんなに違いを見つけられない。
「一華ちゃん、けっこう重いんだ……、大丈夫?」
「……まあ、いつものことだし、慣れてるから」
……月のものが来ると、いつもの何倍もだるくなるのも、変わんないか、やっぱ。一番しんどい日の今日が休みでよかった。こんな感じのときに学校に行くのは、ものすごくめんどくさいし。
人より重めなのも言っといたけど、わざわざ買い物までしてくれるって思わなかった。レジ袋からサンドイッチと、ゼリー飲料と、りんごジュース。全部、私が好きなもの。まだ、出会ってちょっとなのに、
「いろいろ買ってきたんだけど、食べれそう?痛み止め飲むのにも、なんか食べないとでしょ?」
「ありがと、なんとかなりそう、かな。……あとでレシート出して、その分払うから」
「わかった、私も来週くらいだし、その時は甘えていい?」
「うん、いいよ、それくらい」
それくらいっていうには、あたしには重すぎるはずだったのに。うわ言とか、意識がなくなりかけとかじゃなくて、……それなりに、自分の気持ちで言っちゃったこと。
「体起こせる?手伝おうか?」
「いいや、まだ食欲ないし、今はちょっと寝かせて……?」
「そう?……わかった。食べたくなったら言ってね?」
「うん、わかってる。……ありがと」
先輩といるだけで、心の奥が、なんか、かゆいっていうか、……うまく、言えないけど。それだけの優しさは、今のあたしにもちょっとだけ、熱くて重い。具合がよくないからなのもあるけど、頭の中、なんかぼうっとする。
冷蔵庫にしまう物音を聞きながら、なんとなく壁のほうを向いて。割とすぐ寝れるほうだけど、今日はなんかうまくいかないや。いつもだったら、こんなんになっても、もうちょい上手く寝れるのに。ゼリー飲料でもお腹の中に入れて、痛み止め飲んどいたほうがよかったかな。今更の後悔で、もっと頭が冴えてきちゃう。
先輩が勉強机に座ってるのはわかったけど、そのあとは、かすかに何か書いてる音だけ。起きてることは、なぜだか気づかれたくない。
軽い足音、何しにきたのかなって思うと、ベッドの前で止まる。少しだけ、息が詰まる。
「もう、寝ちゃってる?」
「ん……?」
「珍しいね、いつもならすって寝てるのに。……寝れないなら、添い寝したげよっか?」
寝ぼけてるか、それとも頭がどうにかしたか。先輩の言葉、どうもうまくつかめない。いや、……添い寝しよっか、って言ってた、のかな。それにしたって、どうして?
「……えっと?」
「昔、わたしも一華ちゃんみたいにうまく寝れなかったとき、お母さんに添い寝してもらうとすぐ寝れたんだよね。……だから、そういう感じでうまく寝てほしいなって」
「えー……、うーん……」
そこまでしてくれるのは、どうして?そっちは、答えてくれないよね。先輩のほう、向けないや。でも、嫌かって言われたら、そういうわけでもないし。
「迷惑だったかな、……そうだよね」
「別に、嫌とかじゃないかな。……ちょっとびっくりしてるだけ。……いいよ、しても」
「いいの?……ありがと、こんないきなりなのに」
「いいよ、そんなの。むしろ、あたしの方が礼言わなきゃいけないし、こんなことまでして、気遣ってくれて」
背中、ぞわぞわする。まだ、何もされてないのに。わかんない、どう思ってるか。知らない感覚につっつかれて、胸の奥、きゅってする。
「じゃあ、お邪魔するね?」
「ん、うん」
ふとん、めくり上げられる。体が入ってく感じも、触れる優しいぬくもりも。どうしていいかわかんない。ただ、感じるだけ。ふわふわして、落ち着かないけど、なんとなく、どこかで落ち着く。
「一華ちゃん、どう?寝れそう?」
「んー……、わかんないけど、たぶん、なんとかなりそう、かも……」
知らない感覚、ちょっとずつ、そこにあることに慣れてくる。ゆったりとした息、体には当たってないけど、先輩がいるっていうの、体がわかってる感じ。その感覚に、悔しいくらい素直に落ち着いてくる。あったかい。ほんとうに、うまく寝れちゃう、かも。