第10話
ゆさゆさと、体を揺さぶられる。あれ、いつの間に寝てたっけ。頭、まだ重い。
「一華ちゃん?もー、そろそろ起きなきゃダメだよ~?」
今、何時だろ。この感じだと、けっこう寝ちゃったみたいだけど。あたしが部屋に戻ってきたのが八時とかそれくらいだったから、……時計を見ると、もう十時過ぎてるし。思ったより寝てた。じゃあ、さすがにもう起きなきゃな。
「あ、うん……、思ったより寝すぎた、かも……」
「おはよ、……昨日は疲れちゃったんだよ、初めてここに来たんだし」
「ん-、そうなのかな。別にそういう風には思わなかったけどな。先輩、優しいし」
「そう?……とりあえず、ご飯食べる?」
今、何て言ったっけ?寝ぼけた頭じゃ、そんなの覚えてないけど、先輩の顔、急にきらきらしだして。そんな風になるようなことなんてした覚えないのに。むしろ、何かにつけて頼ってばっかで。
「今お腹減ってないから大丈夫かな」
「えー?朝ごはん食べたほうがいいよ、その分お昼遅くすればいいし」
「……そうじゃなくて、変に朝早く起きちゃって、食堂で食べてきたから」
「食堂空いてる時間って、そんな早くないじゃん、もー……、休みの日は寝てたいのは分かるけどね」
呆れたように笑うけど、嫌な感じは見えない。同じ気持ち持ってるの、なんとなく嬉しいし、ちょっと、安心する。あたしと先輩じゃ全然違うのに、同じようにだらしないとこあるんだなって。
「あたしも、二度寝とかするとは思わなかったし……」
「とりあえずさ、共同のキッチン一緒に行かない?一華ちゃんも食堂開いてるときは寝てたいでしょ?いろいろ決まり事とかも教えてあげたいし」
「……なら、行こうかな。あたしも基本そっちになりそうだし」
「じゃあ、早速だけど行かない?ちょっとお腹すいちゃったなぁ」
のんびりと歩いてく先輩についていって、さっきちらりと覗いたキッチンまで向かう。さっきより、短く感じるのは、知らない場所じゃなくなったからなのか、先輩と一緒だからなのか。
「一華ちゃんって、料理とかできるの?」
「ちょっとくらいかな。実家だったからそんな作ることなかったし」
「そうなっちゃうよねぇ、私も中学まで実家だったしさ、今もあんまり得意じゃないんだ」
相変わらずの、おっとりで、ふわふわした声。これから朝ごはんどうしよっかって、割とピンチなんじゃないっけ。まあ、最悪コンビニとかで買っちゃえばいいとは言っても、おこづかいの中でやりくりするからそんなに使いたくないし。
「そんなに作ったことないんだ、……まあ、作るのって休みの日の朝ごはんくらいだけど」
「それもちゃんと起きれたらいらないもんねぇ……、去年はルームメイトの子が起こしてくれたからいらなかったんだけど、これからはこっちになっちゃうもんねぇ……」
「そっちのほうがよかった?」
何訊いてんだろ、あたし。それじゃ、まるで、……そうだったら、嫌、みたいな。そんなわけ、ない、はず。顔だってろくに覚えてないし、
「ううん、まだわかんないけど、……今のほうがいいかな、朝はのんびりがいいし、前の子がそうじゃないってわけじゃないけど、……一華ちゃん、かわいいし」
「そ、そう……?」
わけがわかんない。急にそんなこと言われるのも、かわいいって言われて、ちょっと体がびくってなったのも。……そんなわけ、ないじゃん。あたしとか、自分でもかわいげがないって思ってるのに。