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Dirty Flower・Dirty Beast  作者: 月のウサギ
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『双面』の夜見

サルーザを倒し市場を抜けて少し歩いた場所にある五階建てのビルが四つ繋がっている建物の前に立つ。

ここが服飾系の『協同体』。俺も多くは来たことないが、居住区から抜け出してこっちに来た時に大きなお世話になった場所だ。建物ごとに仕事が違い分担して作業を行っている。

「失礼しますっと」

ビルの一つで今時のビルでは珍しい引き戸を開けて中に挨拶をして中にはいる。

中では多くのつなぎを着た作業員が木箱を台車に乗せ移動し、事務的な作業をする人たちは奥の方で新作の作成を行っている。

このビルは事務的な作業と道具の置き場だったか……確か、地下に大きな倉庫があるビルだったな。そう言った作業ばかりだからか周りには無頓着でコンクリートがむき出しだ。

「青木夜見はどこにいる。連れの『アンドロイド』がそっちに向かった筈だ」

「えっと……南棟の四階、試着室にいます」

「分かった」

受付で夜見の居場所を確認すると階段で連絡通路のある三階まで登り南棟に足早に向かう。

南棟は工房……正確には服の展示や販売、それと細かな加工を行う場所だったな。このビルは確か北棟だったからこっちだな。

「あ~きたきた~」

「よう、久しぶりだな夜見」

南棟の四階に上がり試着室に着くと出入口の壁際にボサボサの金髪を腰まで流し丸眼鏡をかけた俺と身長が変わらない少女、夜見がいた。

夜見はこの『協同体』でデザイナーの仕事をしており、その腕はデザイナーの中でもかなり高い。

だが、性格はあまりにもズボラで見た目には一切気を遣わないため寝不足と相まって何時も酷い状態であることが多い。その上、上司とは上手くいってはおらず昇進はまだまだ遠い。

「それでどうだ、菊花の方は」

「お呼びでしょうか『ご主人様』」

「ああ……て、よく似合ってぞ」

試着室から出てきた菊花の姿を見て率直な感想を言い、菊花は少し照れるような態度をとる。

今菊花の着ている服は朱色の和服で背中側から蔓が伸びるように染められている。かなり良い生地が使われているのか煌めいて見え、元の作り物染みた(実際作り物の)美貌も相まって多くの人が菊花の方を見ている。

これ、普通の町娘と言うよりも宮廷の姫君や名家の一人娘とかのような深窓の令嬢に見えるな。

「菊花ちゃんわね~、和服が好きなんだよ~。だから試作していた和服から作ったんだ~」

「良い仕事をしているな」

「他にもあるから次はこれを着て~」

「畏まりました」

菊花が夜見から新しい和服を貰うといそいそと静かに試着室の中に入っていく。

あの立ち振舞いや穏やかな言葉遣い、脆く儚さがある顔立ちは元々『深窓の令嬢』と言う設定をインプットされていたためのかな……。

「ねぇ、蓮華~」

「どうかしたか」

「……あれは(・・・)何だ(・・)?」

夜見から放たれる気配が変わったため振り向くと丸眼鏡を取り鋭い目付きをする夜見がいた。

白衣のようなコートを脱ぎ捨て腰に着けていた拳銃を見せつけるように立ち、長かった前髪を手で後ろに流し、何時もの間延びした口調からゾッとする強烈な口調に変えており、構えてはいないが臨戦態勢をとっているのは目に見えて分かる。

夜見のあの姿は本来の姿ではない。あれは、あまりにも危険な自分の正体を隠すための隠れ蓑でしかない。

「やはり、分かったようだな。『細工師(・・・)』青木夜見」

「質問に答えろ、『花屋』。……私は今、それ相応にキレている」

拳銃を引き抜きイラつきながら向けてくる『細工師』に俺は警戒しながら現状を説明する。

『細工師』にとって『アンドロイド』の解体は至上の仕事としての自負がある。それなのに、それをお預けされているのがむしゃくしゃしているのだろうな。

「……成る程な、だから私を頼ったのか」

「解体屋では違和感を突き止めれない。だからお前を頼らせて貰った」

なめ腐りやがって、と呟きながら夜見は銃を手の中で回す。

『細工師』は多くの場合高い技術者としての側面ばかり目についているため常時は『協同体』で服のデザイナーとして働いていることはあまり知られていない。知っているのはよく利用している『血雨(ちさめ)』や『市場』、俺くらいだ。

「それで、結果はどうだ」

「精密な検査をしてないから多くは知れてない。だが、あれは普通じゃない。あまりにも人間に近すぎる(・・・・・・・)

懐から煙管を取り出しマッチで火をつけタバコを吸う『細工師』から露骨に嫌そうな顔で少し距離をとる。

俺はタバコの匂いがあまり好きではない。何であんな臭い匂いを気持ちよく嗅ぐことができるのか、まったくもって理解に苦しむ。

「皮膚の手触りや体温から考えて完璧に人間の皮膚を使っている。神経、血管、リンパ腺に対応する場所の動きも完璧に人間のそれと殆んど変わらない。なのに身体能力や耳、尾は完全に『アンドロイド』のものだ」

「ちぐはぐだな」

「ああ。……こんなに人間に近づけて、人間を作りたかった(・・・・・・・・・)のかと思っちまった程だよ」

口から煙を出し終えると怒りを滲ませている声音で説明する。

確かに、エネルギー源が普通の食事と言うのも『アンドロイド』としては珍しい。

エネルギー源が機体ごとに違うため多くは知らないが、その多くが『片手間で用意出来る代物』ばかりだった。

何故なら、機械である『アンドロイド』に人間のエネルギーを与えるのは出費の問題で大きなロスとなるからだ。

なのに、その機能を取り付けた。それが『細工師』にとって気にくわないのだろう。

「人間を素材に『アンドロイド』を生み出す、何て不可能なのに今度は極限まで人間に近づけるとか、あいつらは馬鹿なのか」

「まったくだ」

煙管の吸い殻をゴミ袋に落としながら嫌悪の表情を俺に向けてくる。

夜見は元は『アクセス(・・・・)使用者(・・・)で『アンドロイド』の研究を行っていた。だが、ある研究の頓挫の際に新米だった夜見に全ての責任を押し付けられ追われる身となった。

その際に自身の『アクセス』を強引に引き抜き『ケテル』の中に入り込み撹乱。諦めさせこっちで生活する事ができている。

そして、夜見が『アクセス』を使用していた頃に研究していたのが『人間素体開発研究』。人間を『アンドロイド』に作り替えることが出来るのか、と言う研究だった。

その結論こそ『人間を『アンドロイド』化させるのは不可能』なのだ。そのため信憑性と説得力が夜見にはある。

「だが、あれにはまだ違和感がある」

「奇遇だな、俺もだ」

胸のわだかまりは少し晴れたとは思ったがまだ何かが引っ掛かっている。それは夜見も同じのようだ。

普通のの『アンドロイド』を見たことがある俺らにとって菊花にはまだ不自然な違和感がある。

「とりあえず、機会を見つけてそっちに顔を出すから、その時は頼んだぞ」

「分かった」

コートを着替え丸眼鏡をつけ煙管を筒に戻し元の状態にし終えたところで試着室から桜の柄の和服を着た菊花が出てくる。

深窓の令嬢から町娘のような感じになったか。だが、やはり普通の町娘より育ちが良さそうだ。

「あの……本当にこれらを貰っても良いのですか?」

「いいよ~。元々私の趣味で作ったものだったり、倉庫に残ってた売れ残りを改良したものだから~」

風呂敷の中にある和服を見せ質問をする菊花に夜見は間延びした口調で答える。

夜見の趣味で作ったものなら別に問題ないが……倉庫に残ってた売れ残りは一応商品なんだから金を払わなければいけないと思うのだが……気にしないことにしよう。

「ありがとうございました」

「いいよいいよ~、困ったときはお互い様だからね~。また頼っても良いよ~」

出口のところで夜見と別れると俺らは帰路につく。

これで服の問題は終えたし、部屋の方も貸しておくか。……同じ部屋で寝たら疲れが取れなさそうだしな。

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