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Dirty Flower・Dirty Beast  作者: 月のウサギ
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『市場』のサルーザ

菊花が男を殺し終え再び歩き始めて十数分、俺らは屋台が多く集まった場所に出る。

屋台では食事は勿論の事、部屋の装飾品、ガラス製品、木製品、スプーンやフォークの類いの小道具、更には『アンドロイド』の部品まで平然と売られ、多くの人で賑わっている。

「ここは……何なのですか?」

「ここか?ここは『市場』。『ケテル』の中心街だよ」

人の多いさに戸惑いを隠せてない菊花に俺は簡単に説明する。

ここは『ケテル』のほぼ中心に位置しており、とある店持ちが管理、運営している場所である。食材等は殆んどこの場所で売られているためここは常に賑わっているが、ある例外を除けば(・・・・・・・・)殺人と無銭飲食、盗みは絶対に起きない。そのため、『ケテル』の中で一番安全な場所と言われているのだ。

『協同体』はこの市場を抜けた場所にある。一目には触れるがここを通って行くのが効率的だ。

「……無秩序にも秩序はあるのですね」

「まあな。お前の本来の主が生きている場所よりも辛く苦しいが―――未来がある場所でもある」

物珍しそうに辺りを見回す菊花の手を繋いで進みとあるスクラップ屋の屋台に止まりとある物を手に取る。

幾つもの歯車とネジによって構成された球体を複数個繋げられ葡萄のような形をしている。

「これは……スクラップの塊ですか?」

「いや、違う。これは自動書記だよ」

そう言って中心につけられたボタンを押すと球体につけられたモニターに文字が現れ、市場の雑音の中から声を捉え文字を逐次自動で内容を記録、保存していく。

「……これくらいなら『アクセス』で代行できますよ?」

「まあな」

電源を落としスクラップの屋台から立ち去りながら菊花はジト目で俺を見つめてくる。

確かに、『アクセス』なら自動書記程度、当たり前に出来る。だが、これは『アクセス(・・・・)』ではなく自動書記(・・・・)なのだ。

人が自分の手で機械の領域にたどり着く事が出来た。これは凄い事だが……それを菊花に説明するつもりはない。それは、自分が見つけるものだから。

「あれは……?」

「どうかしたのか……て、おい!?」

「―――何でこんな危険物がここに置かれてるのですか!?」

市場を歩いていると何かに驚いた菊花はとあるスクラップ店の屋台に歩き瓶を持って店主に怒鳴り付けてる。

瓶の中には灰色に濁った液体が入っているから、それに怒っているのだろうか。

「おい、どうしたんだ菊花」

「あ、あんたは連れか?速くこの女を退かしてくれ!」

俺が菊花を止めようとしたら店主が菊花の事を指差して暴言を吐く。

店主としては、いきなり現れた『アンドロイド』にいちゃもんつけられてんだ、誰だって暴言を吐きたくなるだろう。事実、菊花も怒りのあまりそこは気にしていない。

「『ご主人様』、この人は無酸化シルクを売ってるんですよ!?こんな加工もされていないものに包んで!」

「―――何してるんだおい!?」

菊花の説明を聞いた瞬間俺も菊花の味方をし店主を更に怯えさせる。

無酸化シルクとは、『アンドロイド』や『アクセス』の製作や整備において機材のコーティングに使われる合成液体金属だ。超が九つも十もつく精密機械であるこの二つは極めて小さい汚れや僅かな不具合も許されないし起きる可能性も許されない。そのため、スマホ等の半導体に必須とされる高純度フッ化水素と同じように決して酸化しないコーティングが出来る無酸化シルクが必要となる。

だが、こんなにも重要なものだが明確な欠点がある。……有毒物質なのだ。

これは純度が極めて低いため瓶詰めされているがそれでも人に飲ませれば人は殺せる。その上、無味無臭だから気付かれることは殆んどない。

まあ、ここまで濁ってればさすがに気がつくこともあるだろうが……幾らなんでもこれを表で売っているのはヤバい。

「ぜっっっっったいに売るな、いいな!」

「わ、分かりました!」

「行きましょうか、『ご主人様』」

「ああ」

低純度無酸化シルクを書い店主にキツく説教した後屋台を去る。

こんな危険な代物、後できちんと処理しておこう。この手の作業は元から得意だからな。

「おや、誰かと思えば『花屋』じゃないか」

「……チッ、厄介な相手に出会った。菊花、あの建物が『協同体』の工房だから先に行っててくれ」

「……分かりました」

市場の出入口の近くで巨体の女に話しかけられ、菊花に建物の指を差して場所を示し先に向かわせる。

くっそぉ……ここでこの女に出会うのかよ……。

「久しいねぇ、あんたがここに来るなんてそうそうないじゃないか」

「そう言うお前は何時も酒臭いな『市場』」

「はっはっはっ、そりゃそうさ。酒は私の生き甲斐さ」

酒が売られる屋台の近くで一升瓶をラッパ飲みする巨体の女に実直に暴言を吐くが、当たり前のように笑って許してくる。

『市場』のサルーザ・バザール。市場を運営する店持ちで、『ケテル』のご意見番のような立ち位置をしており、店持ちと『協同体』のバランスを上手く調整している。

2メートル近い太った巨体の持ち主で背中には人の顔はある盃がくくりつけられ浅黒い肌には幾つもの弾丸の傷が残っており、見るだけで威圧感を放ってくる。

手には鋼鉄製のグローブを着け、脇には大型のリボルバーを見えるように装備しており、自然と人の目がサルーザに向けられている。

「それにしても、さっき珍しいものを連れてたじゃないか。あんたがあれを解体しないのは珍しいじゃんか」

「あれには違和感を感じてね、結果的にだが今は保留中だ」

「……まあ、そんな事はどうでもいいさね」

一升瓶を地面に落として割るとサルーザは立ち上がり右手を拳にしに前に突き出し膝を落とし左手の掌を後ろに曲げる。

……この場所では殺人、無銭飲食、盗みはない。だが、例外もある。

「ハアァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

「来るか……!」

それは、サルーザが関係すること以外である。

空気を振動させる雄叫びと共にサルーザは巨体に見合わない速度で突っ込みギリギリのところで防御が間に合った俺にタックルし後方に吹き飛ばす。

後ろに飛ばされながらテーブルに手を突きバク転の容量で勢いを削りコンクリートとスニーカーが擦れる。

「いきなりかよ……!!」

「そう言うあんたもじゃんか!」

肩からぶら下げていたホルダーに装備しておいた『凶星』を引き抜きざまに足元に向け三発、発砲するが即座にジャンプされ避けられる。

ちっ、どんな反射速度をしてんだよあの女!あの特異体質も相まって厄介な事この上ねぇ!!

「アオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「グルァ!!」

肉薄してきたサルーザの左フックを回し蹴りで弾き左手に持ち変えた『凶星』を頭に向け発砲するが、首を降られ避けられる。

「セェェェェェイ!!」

「ちっ……!」

下段蹴りを左の脚で防ぐが後ろにスニーカーが地面と擦りながら飛ばされる。

普通の人間なら、この時点で脚の骨が折れているが俺には問題ない。だが、普通に痛い。脛を蹴りやがって……!

「やっぱし、店持ちの中でも頭一つ抜けてるねぇ!!」

「そりゃどうも!!」

止まるまでの間に三発撃ち肩、腰、脇腹に当て口角を上げ余裕の表情を見せる。

サルーザは傷口から流れる血を指に付け称賛の言葉をしながら銃を引き抜きざまに六発撃ってくる。

「これならどうだ」

三発を足さばきで避け腰に下げていた無酸化シルクを投げつけ残りの三発を防ぐ。

あいつの特異体質にはこんなもの、邪魔でしかないからな。精々この程度にしか役にたたん。

「無酸化シルクか……どこで手に入れたさね」

「ちょいと屋台に売っててね」

「あのジジイかい」

落ちた液体の正体を一瞬で見抜いたサルーザの殺気は更に数段階上昇し、俺は脂汗をかく。

まさか、無酸化シルクが地雷なのかよ……!?

「潰す」

「それは無理な相談だ」

濃密な殺気の渦の中、サルーザは先程よりも速く動き始める。

弾をリロードし終えたサルーザは的を絞らせないようにジグザグに動き点と点を縫うように発砲する俺の弾丸を回避していく。

「ちっ……!やっぱりあんたの『酒気爛漫』はとんでもないな!」

「かすってくるあんたの方がすごいさ!」

互いに称賛しながら互いに銃を発砲し動きながらリロード、再び距離を取りながら発砲を繰り返す。

サルーザは『アクセス』使用者が立てたとある計画の過程の実験の結果、アルコールが体内にあればあるほど反射神経を高める事が出来る。常に酒を飲んでいるのもそれが理由だ。常にアルコールがあれば何時いかなるときでも対処がしやすくなる。

だが、これはあくまで反射神経。身体能力は素なのだ。それで銃弾を回避できるほどの速度を出せるとか、頭がイカれてるよ。

(だが、距離を保てている限り俺の方が勝ち目は多い)

サルーザの持つリボルバーの有効射程は6メートル前後、対して俺は八メートル。距離をある程度取ってれば相手の攻撃が無効化でき、俺が一方的に撃てれる。相手も、それを見越して近づいてくるのだろうけど。

「シッ!!」

「マジかよ!」

近くのスクラップ店の屋台に突っ込んだサルーザが左手いっぱいにネジを掴み投げ、地面を横に転がることで回避する。

環境活用は戦闘の基本中の基本だからな……!だが、予想外だったよまったく。

「ハァァァァァァァア!!」

「まっず!!」

転がっている間に近づいてきたサルーザの踏み込みを再び回転しながら避ける。

間髪いれずに何度も踏み込んできたため回転しながら全てを避けつつタイミングを見計らう。

「よし、今!!」

「ッ!?」

回転しながら掴んでいたコンクリートの石を指で弾き僅かに意識を逸らせ何とか立ち上がり腹を蹴り距離を取る。

何とか立ち上がれた……!

「やはり、立ち直りが速い」

「そうじゃなきゃ、戦場(・・)で生き残れないさ!」

のけ反りながら体勢を立ち直したサルーザの拳を右手の掌で受け止め下に方向を変える。

さっき菊花が見せてくれたあの防御術、利用できたな。

「ハァ!!」

「まだまださね!!」

体勢を崩したサルーザを蹴り上げるが目を見開いたサルーザがリボルバーの引き金を引き発砲する。

当たるギリギリのところで体を動かし直撃を避けるが、頭の側面から赤い液体が流れる。

やはり、反射神経が無茶苦茶だと動けないと思っている場所で動くから行動の予想が難しすぎる。

「何という技の冴えと駆け引きさね」

「生憎と、俺だってそれなりの修羅場を通ってきてるからな」

俺は不敵な笑みを浮かべながら『凶星』をホルスターにしまい、サルーザは呆れるようにリボルバーを放り捨て再び構える。

銃はもうどちらも弾切れ。ならこうなるのが帰結だろう。

「セイッ!」

「ホォォォォォォオ!!」

どちらも同時に真っ直ぐ走りだし拳と拳がぶつかり合う。

だが、俺の拳はあっさりと弾かれ腹に威力が減衰した拳が打たれる。

重量級と軽量級ではパワーに差がありすぎるんだよ!!

「だが……!」

「がっ!?」

袖に仕込んでおいた細いワイヤーでくくりつけられた『凶星』を右手に引き戻し引き金を引く。

最後の弾丸はサルーザの肩に当たり、よろめくサルーザを左手の拳殴り倒す。

俺の銃は最初に一発だけ装填しておくことで規定の装弾数にプラス1できる。サルーザは近接戦を得意としているから、こう言った細かいところは見逃している。

「まあ、まだ負けないけどさ!」

「そうだろうよ」

地面から起き上がったサルーザは気の良い笑顔で俺の肩を叩いてくる。

サルーザは基本的に明るくて面倒見が良いんだが……こうやってたまにストレス発散しないと気が済まない性格何だよな……。

「それじゃあ、さっさと服屋に行かせてもらうぞ」

「ああ、分かったさ」

サルーザとハイタッチした後、市場を抜ける。

さて、さっさと本題の方を進めないとな。菊花には迷惑をかけてるからな。

……後でソーイングセット買っとこ。



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