第1話:はじまりのはじまりはある春の日でした
ある晴れた春の心地よい風の吹く日。高校2年生になった私は、もう、学校に行けなくなっていた。
本来ならば、高校2年生。高校には在籍しているものの、登校はしていない。
いわゆる「不登校」というやつだ。
私がどうしてそうなってしまったのかというと…もちろん、なりたくてなったんじゃない。「いじめられたこと」が原因だった。
ある晴れた日の放課後、私は不良女子グループに囲まれた。突然のことすぎて、最初は何が何だかわからなかったが、「獲物にされた」と気付いた。背の小さかった私は前が何も見えず、助けを呼ぶこともできず、ただただ、そいつらに牛乳を頭からかけられたり、食べかけのパンを口に放り込まれたり、スカートも破かれ、上履きも泥だらけにされた。
何が彼女たちをそうさせたのかはわからない。多分、理由なんかない。「ただ、気に食わないから」というわけのわからない理由であろう。
私はその日から、学校へは行けなくなった。彼女たちの「獲物」になったやつらは、クラス全員はおろか、学年全員からシカトされるのがテッパンだからだ。ほかに獲物になってきたこれまでの生徒たちは、誰1人として学校に戻ってくることはなく、そのまま退学するか、転校している。
私もその1人になるのか…と思っていた矢先のことだった。
学校に行かなくなった私は、いつもお昼ごろに、近所の桜の木がたくさんある公園の丘に行くことが日課になっている。
この公園の桜はまだ咲いていて、ふわふわと花びらが舞っていた。
丘の上へ行くのは、ほぼ私くらいしかいないのに、今日は先客がいた。きれいな金髪、さらさらのロングヘアーの20代前半くらいだろうか…女性が立っていて、私は丘に登るのを少しためらった。
女性が私を見て、笑顔を向け
「待っていたわよ、果林」
とお姉さんは私の名前を呼びながら話しかけてきた。
私は名乗ってもいないのに自分の名前を呼ばれたことに驚き、
「な、なんで名前…知ってるんですか…!?」
とつい本音が出てしまっていた。
お姉さんはまた笑顔…というよりも面白そうな笑い顔で
「あなたを助けに来たのよ」
笑みを浮かべたお姉さんは、私に手を差し伸べた。
そしてその時、ぶわっと風が吹き、桜の花びらがまた空に舞っていった…。
私はその風の強さに、目を閉じていた。風がやみ、目を開けると、お姉さんはもうそこにはいなかった。